絵はアン=ローレン。キャラはしっかりしてると思えど、いまいち出番が少ない。
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空間の裂け目がゆっくりと閉じていく音が、まるで古い本のページをめくるような音だった。ブラックヴァルキリー・カーラは、漆黒の翼を小さく震わせながら、左右に立つ二人の相棒を見た。
左手には、相変わらず飄々とした態度のロキ。右手には、春の陽気を纏った桜雪さゆ。どちらも信頼できる相手ではあるが、同時にトラブルの元でもあった。
「さて、行くか」
カーラが呟くと、ロキがにやりと笑った。
「巨人族か。懐かしいな」
「懐かしいって、どれだけ騙してきたの?」
さゆが呆れたように言うと、ロキは肩をすくめただけだ。
三人は同時に一歩を踏み出した。足下の空間が波のように揺れ、次の瞬間、三人の姿は完全に消えていた。
目を開けると、そこは見慣れない荒野だった。空はどこまでも青く、地面は真紅の砂で覆われている。風が吹くたびに、砂が舞い上がって、まるで血の雨のような光景だった。
「ここは……」
カーラが辺りを見回すと、遠くに巨大な影が見えた。骨のような岩山が、まるで倒れた巨人のように横たわっている。
「昔、ここで戦ったことがある」
ロキが遠い目をした。
「巨人族の一団とね。あの岩山は、倒れた戦士の体が化けたものさ」
「また、あなたの悪戯のせい?」
「まあ、そんなところだ」
三人は足を進めた。砂の中から、時折白い骨が突き出している。この土地に何があったのか、それは言葉では語れないほどの悲劇だった。
歩いているうちに、空気が変わった。風に混じって、低いうめき声のようなものが聞こえてくる。まるで大地そのものが泣いているような。
「近づいてる」
さゆが耳を澄ました。
「あちらぁ~~~~ん」
彼女が指さす先に、巨大な姿があった。十メートルはある体躯を持つ巨人が、岩陰に座り込んでいた。皮膚は岩のように硬く、目は濁った湖のように沈んでいる。
「久しぶりだな、ロキ」
巨人の声は、地鳴りのようだった。
「相変わらず、小狡い顔をしている」
「お久しぶり、スルト」
ロキが軽く会釈した。
「こちらは仲間だ。話を聞きに来た」
巨人の視線がカーラとさゆに向けられた。重い圧力が、まるで実際に体に触れているかのように感じられた。
「北欧の神々と、こちらの世界の巨人は、実は同じ血を引いている」
スルトが話し始めた。
「昔、世界が一つだった頃のことだ」
彼の言葉は、古い記憶を呼び覚ました。神話は、それぞれの土地で別々に語られていたが、実は一つの真実が分かれたものだったのだ。
「ネフィリムというのは、我々の遠い親族だ」
巨人は続けた。
「堕天使と人間の子、と言われているが、それは真実の一部にすぎない」
カーラは、思わず一歩前に出た。
「真実は?」
