絵はキャンディス=ディ=ディディエ浮遊大陸ティルナノグ編で序章以来に久々に出たと思ったらまた出番なくなった悲運の女騎士。出番以外は運が悪くはないというのがまたなんともはや。
女多すぎる上に作者が主人公グループ以外は男(エウメネスやシーザー、プトレマイオス)に気がいっているため(特にエウメネス)、不運なり。
プレビュー↓
「あ、そういえば教えとこっかエウメネスくん」
ミハエルが突然思い出したように言った。
「なにを?」
エウメネスが羽根ペンを手に興味深そうに振り返る。
「いやあ、君が史実で死ぬ状況。もう神とかですぎて時間軸変わりまくったからあの未来は来ないだろうから」
「ふ~ん?」
エウメネスが相槌を打ちながらも、どこか余裕の表情を浮かべている。
「史実エウメネスの最期は敵対したアンティゴヌスに捕まるのだが、史実の君のセリフ自信ありすぎてすげえぞ!」
ミハエルが身を乗り出した。
「アンティゴヌスはエウメネスの有能さを惜しみ、処刑を迷うんだよ。捕まえた後」
「そうなのか」
エウメネスが興味深そうに眉を上げた。
「で、どうなった?」
「その結果エウメネス、君は牢で待つハメになり、三日三晩経ったところで
『アンティゴノスは自分をどうしたいんだよ。殺すか釈放するかさっさとしろよ』
と愚痴る」
「それは確かに私の言いそうなことだ」
エウメネスが苦笑いした。
「待つのは嫌いでね」
「それを聞いた看守は史実エウメネスを傲慢だといい
『なら戦場で死ねば良かったじゃねーか』
って言う。史実エウメネス、君は言い返すんだ」
ミハエルが声音を変えて再現する。
「『私は生涯自分より強い武将に出会ったためしがなかったためにこんな目にあったんだよ』」
「おお」
ユリウスが感心して手を叩いた。
「それは見事な返しだ」
「しかもこれ描いてある場所に『誇張では無い』って注釈まで入ってるんだぜ。歴史書に。お前エウメネス、リアルに主人公補正持ってるだろ」
「誇張ではない……か」
エウメネスが考え込んだ。
「まあ、事実だからな。私より優れた戦術家には会ったことがない」
「イ~~よくいうぜ」
ミハエルが嬉しそうにうめいた。
「で、歴史書曰く、エウメネスの強さはその策謀にある。戦力で劣っていても策謀により敵を翻弄し、追い詰め、討ち倒す。その見事な作戦は、うなるほどである」
「戦術書に載っているとは」
エウメネスが誇らしげに微笑んだ。
「光栄だな」
「敵がマケドニアの有力な将軍とあればその事実を兵に伏せ、急襲することで兵達を萎縮させずに戦わせる。これは今のわたしたちの流れで仲間になったクラテロス戦ね。
味方が各地に散っている時に敵が迫った時には偽のかがり火を焚くことで敵の注意を引き、部隊を集結させる時間を稼ぐ」
「偽のかがり火か」
ユリウスが感心した。
「シンプルだが効果的だ」
「で、一番ユニークなのは籠城の話」
ミハエルが続ける。
「籠城?」
エウメネスが首をかしげた。
「どの籠城だ?」
「アンティゴノスによる大軍に襲われ、数を減らした史実エウメネスはノラという城塞に部隊ともども逃げ込んだ。その時史実エウメネスは、狭いところで馬の体力を維持させるための妙案を思いつく」
「ふんふん」
エウメネスが相槌を打つ。
「その時のアイデアは前から持ってるアレかな」
「それは馬の頭を革紐で引き上げることで前足を浮かし、その場で馬を跳ねさせるというものであった。その結果、数ヶ月に渡り包囲された後、城外へと連れだされた馬は平原で走らせたのと変わらないほど色艶もよく、健康的であった」
「馬を跳ねさせる……」
ユリウスが感心した。
「発想が素晴らしい」
「必要は発明の母というやつだ」
エウメネスが謙遜した。
「限られた空間で騎兵の戦力を維持するには、ああするしかないだろう」
「で、ユリウスくんと同じ策をエウメネスは使ってるからな! 借金!」
ミハエルが興奮気味に言った。
「借金?」
ユリウスが興味深そうに身を乗り出した。
「言う事聞かない部下を聞かそうとして史実エウメネスはわざと借金するのよ。そうすれば、エウメネスが死んだら借金返してもらえなくなるから、カネで忠誠がかえると」
「なるほど」
ユリウスが膝を叩いた。
「債務関係で縛るわけか」
「そういうことだ」
エウメネスが頷いた。
「金は最も確実な鎖になる」
「ここらへんシーザーくんの借金作戦そのものだよな! ユリウスくん!」
「確かに」
ユリウスが苦笑いした。
「私もよく使った手だ。ただし、私の場合は自分が借金まみれになってしまったが」
「借金まみれ?」
エウメネスが興味深そうに聞いた。
「どの程度?」
「執政官になる前の時点で、既に返済不可能な額に達していた」
ユリウスが苦笑いした。
「だから政治的成功が必要だったんだ。失敗すれば破産確実」
「それは」
エウメネスが感心した。
「背水の陣というやつか」
「まさにその通り」
ユリウスが頷いた。
「退路を断てば、前進するしかない」
「しかし」
ミハエルが感心して言った。
「君たち二人とも、リスクの取り方が尋常じゃねえ」
「リスクを取らなければ、大きな成果は得られない」
エウメネスが断言した。
「同感だ」
ユリウスが同調した。
「安全な道を歩んでいては、歴史に名を残すことはできない」
