絵はブラックヴァルキリー・カーラ。食べ歩き人生である。
プレビュー↓
「でも今度の来客は」
ミハエルが真剣な表情に戻った。
「どんな話を持ってくるのかな」
「きっと」
天馬蒼依が期待を込めて言った。
「いい話だと思う」
「いい話だといいが」
エウメネスが羊皮紙を構えた。
「記録の準備はできています」
その時、空間の裂け目が大きく広がり始めた。今度は今までとは違う、重厚で威圧的な気配が流れ出してくる。
「あ……あれは」
ブラックヴァルキリー・カーラが翼を震わせながら立ち上がった。
「まさか……」
裂け目から最初に現れたのは、巨大な槍を持った隻眼の老人だった。灰色のローブに身を包み、肩には二羽のカラスが止まっている。その威厳に満ちた姿を見て、一同は息を呑んだ。
「オーディン……」
カーラが震え声で呟いた。
「全神の父が……」
続いて現れたのは、赤い髪と髭を持つ筋骨隆々とした巨漢の男。手には巨大なハンマーを握りしめている。
「トールも……」
カーラの声がさらに小さくなった。
そして最後に現れたのは、整った顔立ちながらも狡猾な笑みを浮かべた男。その表情は桜雪さゆを彷彿とさせる、いたずらっぽい悪戯心に満ちていた。
「そして……ロキ」
カーラが完全に硬直した。
「おや、おや」
ロキが軽やかな口調で言った。
「こんなところで元ヴァルキリーに会うとはね」
「ロ、ロキさま……」
カーラが慌てて膝をつこうとしたが、ミハエルが制止した。
「君はもう彼らに仕える必要はないじゃん」
ミハエルが優しく言った。
「ここでは対等だ」
「対等?」
オーディンが重々しい声で言った。
「面白いことを言う男だな」
「面白いかどうかは分からないが」
ミハエルが立ち上がった。
「わたしの領域では神も人も変わらんよ」
「ほう」
トールがハンマーを軽く振った。
「随分と大きく出るじゃないか」
「大きく出るというより」
サリサが興味深そうに言った。
「事実を述べているだけよ」
「事実?」
ロキが興味深そうに近づいてきた。
「君たちは我々を恐れないのか?」
「恐れる理由がある?」
フィオラが翼を軽く動かした。
「あなたたち一度死んだじゃん神々だけどさ」
「ラグナロクのことか」
オーディンが苦笑いした。
「確かにそうだが」
「そのラグナロク」
エウメネスが興味深そうに身を乗り出した。
「記録によると炎の巨人スルトによって」
「よく知っているな、書記よ」
オーディンがエウメネスを見た。
「だが記録と実際は違う」
「どう違うのですか?」
エウメネスが羊皮紙を構えた。
「実際はもっと複雑だった」
ロキが楽しそうに言った。
「特に私の役割はね」
「ロキさまの役割……」
ブラックヴァルキリーカーラが緊張した様子で聞いた。
「裏切り者として描かれているが」
ロキが肩をすくめた。
「実際は違ったのさ」
「どう違ったの?」
桜雪さゆが興味を示した。
「わたしと同じ匂いがするわ。ちんくしゃちゃん」
「同じ匂い?」
ロキが桜雪さゆを見て笑った。
「確かに似ているかもしれないな」
「似ているって?」
天馬蒼依が警戒した。
「悪戯好きな所が」
ロキが説明した。
「ただし私の悪戯はもう少し……スケールが大きい」
「スケールが大きい悪戯」
水鏡冬華が眉をひそめた。
「まさか……」
「ラグナロク自体が」
