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木花咲耶姫の暴れっぷりを思い出す

 絵はサリサ=アドレット=ティーガーと桜雪さゆ。紀元前4世紀ごろのアンフィポリスの酒場イメージ。アレクサンダー大王暗殺の真相が暴かれた直後のイメージ。
 プレビュー↓


「あなたたちがわたしより速く地球を滅ぼした者たちですね」
 木花咲耶姫が静かに言った。その声は丁寧だが、どこか危険な響きを含んでいた。
「日本の神様?」
 サリサが困惑した。
「でも地球もう滅んでるけど」
「私は星が滅んでも存在し続ける身です」
 木花咲耶姫が答えた。
 フィオラが翼を警戒態勢に構えた。
「私たちはレプティリアンを倒しただけです」
「確かにブルーブラッド・レプティリアンは邪悪でした」
 木花咲耶姫が頷いた。
「しかし、だからといって星を丸ごと滅ぼすのは行き過ぎとは思いませんか?」
「さくやひめ……思わんな。こんなガソリンまみれの汚い星」
 ミハエルが眉をひそめた。
 その時、別の次元の裂け目が開いた。
「待ってください!」
 茶髪の少年が叫びながら現れた。
「地球を滅ぼした悪い奴らはここですか!」
「悪い奴ら?」
 サリサが苦笑いした。
「随分な言い方ね」
 茶髪の少年に続いて、黒髪の少女、ベージュ色の髪の少女、そして緑髪の青年が現れた。
「僕たちは正義のヒーローです!」
 茶髪の少年が拳を握りしめて宣言した。
「地球の人々を守るために来ました!」
「地球の人々って」
 フィオラが困った顔をした。
「もう遅いわよ」
「遅くない!」
 黒髪の少女が剣を構えた。
「時間を戻して、地球を元に戻すんです!」
「時間を戻す?」
 ミハエルが興味深そうに聞いた。
「君たちにそんな力があるのか?」
「あります!」
 ベージュ髪の少女が魔法の杖を振った。
「みんなで力を合わせれば!」
「君たちの気持ちは分かる」
 ミハエルが優しく言った。
「でも事情を知らないようだな」
「事情なんてどうでもいいんだよ!」
 茶髪の少年が叫んだ。
「てめえらが悪人だ!! そしてヒーローの俺らが倒す! 簡単な話だ!」
「人を殺すのは悪いこと」
 サリサが複雑な表情を浮かべた。
「確かにそうよね」
「でも」
 緑髪の青年が静かに言った。
「あなたたちには何か理由があったんでしょう? 目を見ると悪人ではないような気がする」


「緑髪君は頭がいいな」
 ミハエルが感心した。
「確かに理由がある」
 そしてミハエルは、ブルーブラッド・レプティリアンの魂の牢獄システムについて簡潔に説明した。
「そんな……」
 黒髪の少女が震え声で呟いた。
「本当にそんな恐ろしいことが?」
「本当だ」
 フィオラが頷いた。
「私たちも好きで星を滅ぼしたんじゃあないわよ」
「でも!」
 茶髪の少年が再び叫んだ。
「それでも人を殺していいわけないでしょ!」
「君の正義感は立派だ」
 ミハエルが答えた。
「でも現実はそう単純じゃない」
「単純じゃないってなんだぁ!! てめえらがわるもんだろうが!!」
 茶髪の少年が怒った。
「人の命は人の命です!」
「その通りです。が、ライオンにそれを言って通じますか? 同じ信徒以外豚畜生と思えと言い聞かされてきた、例えば十字軍の人達に人類みな兄弟と言って通じますか? 人類みな兄弟といういい考え方は多神教でしか通じないのです。一神教の人はそう思ってくれないのです」
「木花咲耶姫様……」
 ベージュ髪の少女が感動した表情を浮かべた。
「だから」
 木花咲耶姫が立ち上がった。
「この罪は償っていただきます。地球そのものに」
 突然、木花咲耶姫の周りに炎が燃え上がった。だが、それは普通の炎ではない。
 そして木花咲耶姫は炎で地球を狙う。
「時間を燃やす炎……」
 緑髪の青年が驚愕した。
「そんなことができるなんて」
「できるのよ」
 サリサが緊張した声で言った。
「あの姫様の炎は時間そのものを燃やす。だから炎に耐えられるだけじゃア力不足。時間を燃やされるのをどうにかしないと一瞬でおじいさん通り越して骨よ」
 炎が広がり、地球の残骸すらも包み込んだ。
「何を!」
 ミハエルが叫んだ。
「地球が存在していた時間ごと燃やします」
 木花咲耶姫が冷静に答えた。
「地球にはつけを払ってもらわないといけませんね」
「つけ?」
 茶髪の少年が困惑した。
「それってどういうことですか?」
「つまり」
 黒髪の少女が理解した。
「地球の人は八百万の神々からは心が汚すぎて生き物として失格……? 地球の人々も最初から存在しなかったことに?」
「そういうことです」
 木花咲耶姫が頷いた。
「それは……」
 ベージュ髪の少女が言葉を失った。
「完全な解決法だな」
 緑髪の青年が呟いた。
「でもそれって救済なんでしょうか?」
「救済の定義によるわね」
 フィオラが答えた。
「苦しみから解放されるという意味では」
 時間を燃やす炎がどんどん広がってゆく。

「待てよ!」
 茶髪の少年が必死に叫んだ。
「やめろおおおおおおお!!」
 ドガッ!!
 茶髪の少年が右拳を木花咲耶姫のほっぺにめり込ませる。
「そういうことをするのなら? なぜヒーローなのにガザの戦乱を政治家をヒーローの力で皆殺しにして戦争自体を止めなかったのですか? なぜ操られている政治家を皆殺しにしない? なぜ移民政策をヒーローの力で皆殺しにしてでも止めない?
 あなたたち、ごっこ遊びですよ? ヒーローごっこ」
 木花咲耶姫が首をかしげた。
「もう遅いのです」
「遅いって……」
 黒髪の少女が涙を浮かべた。
「でも君たちの気持ちは分かる」
 ミハエルが優しく言った。
「正義のために戦おうとする心は美しい」
「てめえに褒められてもうれしかねえ!!……」
 茶髪の少年が悔しそうに呟いた。
「現実と理想のギャップは辛いもの」
 サリサが同情した。
「わたしも昔はそうだったわよ」
 炎はついに地球全体を包み込み始めた。
「これで全てが無に帰します」
 木花咲耶姫が最後に言った。

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