絵はサリサ。エジプトで言う『キャー』を出してる状態。日本で言う霊波動。ドラゴンボールでいう『気』
プレビュー↓
「でも、わたしはその件、残党のには手は出さないよ。君たちでなんとかして。わたしはトレミーちゃん(プトレマイオス)とカッちゃん(カッサンドロス)とオリュンピアスの『キャー』を覚醒させる」
ミハエル=シュピーゲル=フォン=フリードリヒが手をひらひらと振りながら言った。彼の表情には、切迫した状況にもかかわらず、どこか楽しそうな光が宿っている。
「まずはトレミーちゃんだね。一番は。ナルメルとトトメス3世もエジプトの先輩としてトレミーちゃんの覚醒手伝ってあげて」
プトレマイオスが驚いたように身を乗り出した。
「私が……最初に?」
「遺伝子治療してね。アレクサンドリア図書館早く立てて欲しいもん。本好きのわたしから言わせれば」
ミハエルは窓の外を見やりながら続けた。
「人手欲しかったら、今別行動取らせてモリガンを討伐してるフレッド(フレデリック=ローレンス)とアリウスいかせるよ」
「モリガンを……?」
エウメネスが印章を握りしめた。
「あの戦と魔術の女神と戦っているのですか?」
「うん。ケルトの神だからね。まあ、フレッドとアリウスならなんとかするでしょ。二人とも霊波動、魔力……『キャー』使えるし」
ミハエルは振り返ると、プトレマイオスに向かって歩いた。
「さあ、トレミーちゃん。準備はいい?」
プトレマイオスは緊張した面持ちで頷いた。アレクサンドロス大王の後継者の一人として数々の戦いを経験してきた彼だが、未知の力を得るという体験は初めてだった。
「何をすれば……?」
「簡単だよ。まずは遺伝子の修復から始める」
ミハエルが右手に青い霊気を集めた。
「君の体の中に眠っている本来の力を呼び覚ますんだ。ルシファーがぶっ壊したイントロンを元に戻してあげる」
ナルメルとトトメス3世が左右からプトレマイオスに近づいた。
「心配しないで」
ナルメルが優しく声をかけた。
「最初は驚くが、痛みはない。むしろ、長い間失っていた何かが戻ってくる感覚だ」
「そうだ」
トトメス3世も頷いた。
「まるで霧が晴れるように、世界がはっきりと見えるようになる」
プトレマイオスは深呼吸をした。
「分かった。やってくれ、ミハエル」
「じゃあ、始めようか」
ミハエルの手のひらから柔らかな青い光が放たれた。その光はプトレマイオスを包み込み、彼の体の奥深くへと浸透していく。
「うっ……」
プトレマイオスが低くうめいた。しかし、それは苦痛の声ではなく、何か巨大なエネルギーが体内を駆け巡ることへの驚きの表現だった。
「今、君の遺伝子の中で何千年も眠っていた情報が蘇っている」
ミハエルが説明しながら治療を続けた。
「人間本来の力、神々から授かった真の能力がね」
青い光が徐々に強くなっていく。プトレマイオスの体が微かに浮上し、髪が静電気でも帯びたかのように逆立った。
「これは……」
プトレマイオスの目が見開かれた。
「体の中で何かが……目覚めている」
「そうだ」
ナルメルが感動的な声で言った。
「それが『キャー』の源だ。感情を含む情報をエネルギーに変換する力」
光がさらに強度を増すと、プトレマイオスの周りの空気が振動し始めた。会議室の調度品が微かに震え、窓ガラスがカタカタと音を立てている。
「もうすぐ完了だ」
ミハエルが集中して最後の調整を行った。
「イントロンの修復、完了。VMAT2遺伝子の再構成……完了」
青い光が一瞬強く輝いた後、ゆっくりと収束していった。プトレマイオスの足が床に着くと、彼はよろめきながらも立ち続けた。
「どう?」
トトメス3世が心配そうに尋ねた。
「体調は大丈夫?」
プトレマイオスは両手を見つめ、そして静かに微笑んだ。
「信じられない……こんなに軽やかな気分は生まれて初めてだ」
彼が手のひらに意識を集中すると、薄い青い光がゆらめくように現れた。
「おぉ!」
会議室にいた全員から歓声が上がった。
「やったね、トレミーちゃん!」
ミハエルが拍手した。
「見事な『キャー』の発現だ」
「これが情報をエネルギーに変換する力……」
プトレマイオスが感嘆しながら光を見つめている。
「頭の中で考えたことが、実際に力となって現れるのですね」
「その通りだ」
エウメネスが興奮して説明した。
「我々が昨夜学んだ通り、意思や感情、知識……すべてがエネルギーの源になる」
「では早速、基礎的な訓練をしてみましょう」
初代ファラオ・ナルメルが提案した。
「まずは霊気の操作から」
「そうだね」
トトメス3世も頷いた。
「最初は物質化などの高度な技術よりも、エネルギーそのものに慣れることが重要です」
プトレマイオスは集中して手のひらの光を強くしようと試みた。最初は不安定だった光が、徐々に安定した形を保ち始める。
「良い調子だ」
ミハエルが満足そうに見守った。
「君の学習能力の高さが『キャー』の習得にも活かされている」
その時、会議室の扉が勢いよく開いた。息を切らせたサリサ=アドレット=ティーガーが飛び込んできた。
「ミハエル! 大変よ!」
彼女の右目の赤と左目の黄金が、緊急事態を告げている。
「どうした? 落ち着け」
「街道の襲撃現場に行ってきたの。生存者から直接話を聞いたんだけど……」
サリサは荒い息を整えながら報告した。
「襲撃者たちが使っていた『邪悪な光』、あれは確実に『キャー』よ。でも普通の『キャー』じゃない。何か……禍々しい感じがした」
「禍々しい『キャー』?」
水鏡冬華が眉をひそめた。
「それは一体……」
「多分、『キャー』を悪用した技術ね」
サリサが続けた。
「生存者の話では、襲撃者たちの『キャー』は黒っぽい色をしていて、触れた物を腐らせるような効果があったって」
「黒い『キャー』……触れた物を腐らせる……まるでエノク語を間違って使った時みたいだな」
ミハエルの表情が険しくなった。
「それは確かに邪悪な応用だ。本来『キャー』は純粋な情報とエネルギーの変換技術なのに」
「つまり、敵も『キャー』を使えるということですか?」
プトレマイオスが不安そうに尋ねた。彼は『キャー』に目覚めたばかりで、その力の可能性と同時に危険性も感じ取っていた。
「可能性は高いな」
トトメス3世が戦士としての直感で答えた。
