フィギュアは東雲波澄。
ディープフェイク。
プレビュー↓
ナルメル、トトメス3世、ユリウス・カエサル、エウメネス、プトレマイオス、カッサンドロス、オリュンピアス。昨夜とは違い、全員が緊張した面持ちでミハエルを見つめている。
だがミハエルは軽いノリで言った。
「お集まりいただきありがとーん。どうせだからね、昨日の話の続きをしておきたかったの。民主主義が奴隷商人民族の罠でソクラテスもそれで毒殺されたって言うのは言ったよね? じゃあどんな統治の仕方がいいんだって言うのを今から言う。エウメネス書記官! メモの準備はいい? カエサルくんもいい?」
エウメネスが印章を握りながら頷いた。
「準備できてる、ミハエル」
カエサルも戦略家特有の集中した表情で応じる。
「是非聞かせてください。昨夜の話は非常に興味深いものでした」
「リビアって国がこのエジプトの西にできてるんだけど、トリポリ辺りね。ここがすごい天国みたいな良い統治を21世紀、今から2300年後にしていたんだ」
ミハエルの言葉に、プトレマイオスが身を乗り出した。
「天国のような統治……? それは一体どのような?」
「でも、そんな良い国なのに『民主主義じゃないあの国は悪魔の国だ』ってマスコミに言われて、支持率90%超えの指導者は殺された。それから没落したままなんだけどな」
部屋に重い沈黙が流れた。支持率90%を超える指導者が殺されたという事実は、全員にとって衝撃的だった。
「支持率……90%?」
カッサンドロスが震え声で呟いた。
「そんなことが可能なのか?」
「ムアンマル・ムハンマド・アル・カダフィ。あほマスコミしか見てない人は悪魔と認識しているであろう可哀そうな方。カダフィはよく抵抗したよ、かなり優しい良い感じでリビア動かしてたのに滅茶苦茶やりやがったフェニキア人ども」
ミハエルの声に怒りが込められていた。
「彼は国民の90%以上の支持を得ていました。他の国で、リーダーがこれほどまでに国民から支持されていたと言える? 日本の総理大臣て支持率何%でしたっけ? 90%ありました? 日本の」
ナルメルが困惑した表情で手を挙げた。
「私たちファラオも神として崇められていましたが、実際の支持率などというものは測定していませんでした」
「リビア独立に尽力した政治家、あそこの悪意でやられた。カダフィリビアの政策を整理するぞ」
ミハエルは立ち上がり、窓際に移動した。地中海の青い海が見える方向——リビアがある方向を見つめながら話し始める。
「教育の無償化、高等教育を含む。
学生には、学んでいる科目の平均的な給料が支払われた。カダフィリビアの学生は学生の内からお金自由に使えたよ。
またサボりも少なかった。そりゃあそうだ『学んでいる科目の平均的な給料が支払われた』んだから」
エウメネスが印章を握る手に力を込めた。
「学生に給料を……? それは画期的な政策だね。そんな学校なら、わたしも行ってたかも」
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エウメネスはフィリッポス2世に拾われた時にアリストテレスが中心で率いるミエザ(学校。といっても王宮の士官候補生の勉強施設といえばわかりやすい)にいかないかと選択肢の一つとして誘われた事がある。
そのとき、エウメネスは、
(士官候補って自分図書館に釣られてきただけだからなぁ)
「そのミエザに行くと、給料出ません……よね? 給料出るんなら学校行ってもいいかもしれませんけれど……」
とのたまった。
「はあ?」
フィリッポス2世は大口を開けて呆れた顔をした。
「むしろ授業料もらいたいくらいだ。ま、わしは、お前みたいな自主性が大きすぎる奴は他の生徒と一緒にすべきじゃないかとも思っておる。学校なくとも自主的に学んでおるからなお前は。
図書館に就職の方を選ぶが良い。平時は図書館勤務で、戦争時はわしの書記官な」
呆れた表情でフィリッポス2世は手で払うような仕草をし、優しく笑いながらそう返す。
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エウメネスの頭の中で、フィリッポス2世との記憶がより鮮明に蘇ってきた。
あの時、フィリッポス2世は言っていた。
「図書館に就職の方を選ぶが良い。平時は図書館勤務で、戦争時はわしの書記官な」
エウメネス自身、学費を払って学校に行くより、給料をもらいながら働く方を選んだのだった。
(カダフィのリビアなら、学ぶことと稼ぐことが両立していた……なんて理想的な社会だったんだろう)
「エウメネス、どう思う?」
ミハエルが彼に話しかけた。
「君は学者肌だから、教育政策には特に興味があるだろう?」
エウメネスは慌てて現実に戻った。
「あ、はい! 学生に給料が支払われるという政策は……正直、羨ましいね」
彼は少し恥ずかしそうに続けた。
「実は、昔フィリッポス王から学校に行かないかと誘われたことがある。でも、授業料を払わなければならないし、生活費も自分で何とかしなければならない……だから図書館での仕事を選んだ」
「ほお」
ナルメルが興味深そうに身を乗り出した。
「それは賢明な判断だったのでは?」
「でも、もしその学校に行くことで給料がもらえるなら……」
エウメネスが遠い目をした。
「学校を選んでいた道もあったでしょうね。学ぶことが生活の安定に繋がるなら、こんなに素晴らしいことはない」
トトメス3世が深く頷いた。
「学問と実利が両立する社会……それこそが理想だ」
「そうなんだよ」
ミハエルが満足そうに頷いた。
「カダフィのリビアは、そういう社会を実現していた。でも『民主主義じゃない』という理由で破壊された」
「医療の無償化。リビアでは、すべての市民が無料で良質な医療サービスを受けることができた。病院に行くのにお金を心配する必要がなかったんだ」
ミハエルが続けると、トトメス3世が感嘆の声を上げた。
「それは素晴らしい! 我々の時代でも、病気は民の最大の不安の一つでした」
「電気の無料提供。リビアでは電気代を支払う必要がなかった。国のエネルギー資源が国民に直接還元されていたからね」
「それだけの厚遇を国民に提供して、国家財政は維持できていたのですか?」
「ローマ帝国の借金のプロ・シーザーくん、パンは1斤15米セント、日本円で17円くらいだったかな多分。ガソリンは1リットルあたり12米セント、14円/1Lくらい? 破格すぎる。石油を売って得た利益の一部は、市民の銀行口座に直接支払われた」
プトレマイオスが目を見開いた。
「石油収入を直接国民に……? それは革命的な発想だ」
「ああ。石油収入。でもそれを一部の特権階級が独占するんじゃなく、全国民に分配していた。これが重要なポイントなんだ
ガソリンが水より安価。1リットル当たり日本円にして14円相当だったかな。水を買うよりガソリンの方が安いって状況」
「十四円?」
プトレマイオスが困惑した表情を見せた。
「その貨幣単位はよく分かりませんが、水より安いということは……」
「ほぼ無料ということだね」
ナルメルが理解を示した。
「国民の生活負担を極限まで減らしていたわけか」
「その通りだ。でもここからがもっと凄い。住宅ローンの利息0%。家を買うときに利息を払わなくていいんだよ」
エウメネスが印章をくるくると回しながら興奮して言った。
「それは画期的な政策だな……利息がなければ、多くの人が家を持てるようになる」
彼の頭の中では、フィリッポス2世との会話が蘇ってきていた。あの時、学校に行くか図書館で働くかの選択をした時のことを思い出す。
(あの時、もし学校に行くのに給料が出るって言われたら、学校を選んでいた道もあったかも)
「新婚夫婦への住宅購入補助5万ドル相当の支給。結婚した夫婦には、新居を構えるための資金が国から支給されていた」
カッサンドロスが感動的な声で呟いた。
「それなら、若い夫婦も安心して新生活を始められる……」
「農家には土地、種、動物が無償で提供された、自給自足自由。完全な雇用で、一時的に雇用されている人には、雇用されているのと同じように全額の給料が支払われた」
ミハエルは振り返ると、全員の表情を確認した。皆、衝撃を受けているが、同時に深い関心も見せている。
「で、リビアには国の借金も外国の借金もありませんでした。外貨準備高は540億ドルを超えています」
「借金がない……」
エウメネスが呟いた。
「国家で、それは奇跡に近いことだね」
「中央銀行制度を受け入れずに殺されたカダフィが始めたもう一つの大きな成果は、ヌビア砂岩の化石帯水層システムを人工の大河に変えたことで、トリポリとベンガジの都市に毎日650万立方メートルの真水を供給しています」
ナルメルが身を乗り出した。
「人工の大河……? それは我々がナイル川に依存していたのと似ていますが、人工的に作ったということですか?」
「そうだ。抽出された水は、淡水化された水に比べて10倍も安くなります。このプロジェクトの総費用は250億ドルと見積もられているが、外国からの融資は一度も受けていない」
カエサルが驚嘆の声を上げた。
「外国の融資に頼らずに、そのような大事業を……?」
「カダフィリビアのこの良い制度全部壊されました。どこぞの世界の警察? その世界の警察の基地がある島国? 笑わせるぜ」
ミハエルの声に深い怒りが込められていた。
「政府による雇用保障。仕事が見つからない人には、国が雇用を提供していた。失業という概念がほぼ存在しなかった社会だったんだ」
ナルメルが深く頷いた。
「これほど国民のことを考えた政策があったとは……まさに理想的な統治だ」
「でもね」
ミハエルの表情が急に暗くなった。
「これだけ素晴らしい政策を実行し、国民からの支持率が90%を超えていたカダフィは、『独裁者』『悪魔』とレッテルを貼られて殺されたんだ」
会議室の空気が一瞬で重くなった。
「なぜですか?」
プトレマイオスが震え声で尋ねた。
「これほど国民に愛されていたのに……」
「フェニキア系民族にとって都合が悪かったからだよ」
ミハエルが苦々しい表情で答えた。
「彼らは通貨発見権を握り、世界中の国々を借金漬けにして支配するビジネスモデルを地球規模で確立していた。でもリビアのような自立した国が存在すると、そのモデルが崩れてしまう」
エウメネスが印章を強く握りしめた。
「つまり……良い政治をしていたからこそ、標的にされたということですか?」
「まさにそうだ! カダフィは『金本位制』への回帰も提唱していた。フェニキア系民族が操る『紙切れのお金』システムから脱却しようとしていたんだ。そういう方向でいって殺された大統領もいる。ジョン=F=ケネディっていうんだけどな」
カエサルが戦略家としての洞察を示した。
「なるほど……彼らの経済支配システムに対する直接的な挑戦だったわけですね」
「その通り。だから『民主主義を広める』という名目で軍事介入され、カダフィは殺され、リビアは混乱状態に陥った」
オリュンピアスが怒りを込めて言った。
「なんという卑劣な……! 息子を失った母として、政治的陰謀の犠牲者の痛みがよく分かる」
ミハエルが再び立ち上がった。
「これが現実なんだよ、みんな。良い政治をすれば国民に愛される。でも、特定の勢力にとって都合が悪ければ『悪』のレッテルを貼られて潰される」
カッサンドロスが震え声で質問した。
「では、我々はどうすればいいのでしょう? 民主主義も危険、優れた独裁も外部から破壊される……」
「答えは『自立』だよ」
ミハエルが力強く答えた。
「外部勢力に依存しない経済システム、真の意味での独立国家を築くこと」
プトレマイオスが『キャー』を覚醒させたばかりの手を見つめながら言った。
「この新しい力……『キャー』も、その一環なのですね」
「そうだ。『キャー』があれば、従来の経済システムに依存する必要がなくなる。『キャー』を使えない奴の槍や矢、銃すら避ける必要がなくなる。『キャー』で防げるからな。
エネルギー、食料、住居……無から有を、すべてを自分たちで生み出せるようになる」
