絵はサリサとフィオラとカーラのフィギュア。
当然ながらAIでディープフェイク。
プレビュー↓
「ましだな21世紀の日本の夏よりはエジプトの方が。40度行ってるからな日本の人為的に暑くされた夏は。20世紀の日本の夏なら28度で普通だったんだけどな」
ミハエル=シュピーゲル=フォン=フリードリヒはベッドから身を起こしながら、窓の外に広がるアレクサンドリアの朝の光景を眺めた。空には薄紫色の雲が流れている。彼の隣では、まだ眠気を帯びた二人の女性が静かに身動きしていた。
「ベトナム戦争後に結ばれた環境改変技術敵対的使用禁止条約—―ENMOD条約守ってくれやあいつらめ。犯罪犯してるのが成層圏の天空だろうがあれはバレバレだわ。近視眼的思考のアホじゃない限り」
「おはようございます……ミハエル様」
空夢風音が細い声で挨拶した。彼女の茶色い瞳はまだ完全には覚めておらず、ハーフアップの髪が寝乱れて頬にかかっている。セーラー服の上に羽織った着物が、朝の光を受けて柔らかく揺れていた。
「……………………」
水鏡冬華は起き上がったものの、何も言わない。彼女特有の寝起きの悪さで、黒髪が顔を覆い隠している。幕末を生き抜いた半竜神の巫女といえど、朝の機嫌の悪さだけは変わらないようだった。
「おはよう風音、冬華。今日もよろしく頼むよ」
ミハエルは二人に優しく声をかけると、サイドテーブルに置いてあったワインのボトルを手に取った。朝からアルコールを摂取するのは彼の悪い癖の一つだが、ま、健康に害はない。むしろ頭の回転が良くなる効果すらあった。
グラスに注いだ深紅の液体を一口含むと、ミハエルは寝台を離れた。今日は特に重要な訓練を予定している。昨日、ナルメルとトトメス3世が霊波動——彼らが『キャー』と呼ぶエネルギー操作術——に目覚めたばかりだ。基礎的な習熟が急務である。
廊下を歩きながら、ミハエルは自分の結婚生活について考えていた。11人の妻たち——菊月明日香、水鏡冬華、サリサ=アドレット=ティーガー、フィオラ=アマオカミ、東雲波澄、ミレーヌ=ローゼンベルグ、ローレンシア=ベルリローズ、リースティア=クラウディア、リィル=エリン、そして空夢風音。
ミレーヌ=ローゼンベルグは黒騎士団の副団長として、クロード=ガンヴァレンとサミュエル=ローズ、空夢風音の上司を務めているため、浮遊大陸ティルナノグには来ていない。ローレンシア=ベルリローズ、リースティア=クラウディア、リィル=エリンは力こそあるものの、性格的に戦いは苦手なので、ミハエルの館でお留守番をしている。
だいたいみんな胸が大きい。結婚条件にはしていないが、結果的にそうなってしまった。おそらく、彼の慈悲深い心に触れた女性たちが多かった結果——いや、実際は女の涙に弱く、泣き落としと分かっていてもあえて騙されてあげる甘さのせいであることは、彼自身も認めるところだった。
「おはようナルメルくん、トトメス3世くん。朝から調子良さそうだねえ」
中庭に出ると、ミハエルはひよひよとした感じでそう声をかけた。朝のワインの効果で、普段の威厳ある公爵らしさが少し薄れ、気さくな兄貴分のような雰囲気を醸し出している。
二人のファラオは朝の陽光の下で、すでに霊波動の扱いに慣れ親しもうと練習していた。ナルメルの手のひらには青白い光の粒が踊り、トトメス3世の周りには薄い霊気のオーラが立ち上っている。
「おはよう、ミハエル」
「おはよう」
二人のファラオが気持ち良く挨拶を返す。古代エジプトの王としての威厳を保ちながらも、新たな力への期待に満ちた表情を浮かべていた。
「『キャー』は使えてる?」
ミハエルが軽い調子で尋ね、自分も手のひらに青い霊気を浮かべてみせた。
「ああ、調子がいい」
ナルメルが答える。彼の声には驚きと感動がまだ残っていた。神々から与えられた力ではなく、自分自身の内側から湧き上がる力を扱えるようになったことへの喜びが、表情ににじみ出ている。
「そりゃあよかった。じゃあ基本的な訓練しておこうか、ナルメルくん、トトメス3世くん」
「基本的な訓練……?」
ナルメルが疑問符を掲げる。
その時、ミハエルは右手に青い霊気で作ったエネルギー波を形成し、ナルメルに向けた。まだ撃ってはいない。昨日アンティゴノスの手の者を撃った、あの殺傷能力のある攻撃そのものだった。エネルギーの密度が高く、空間が微かに歪んで見える。
「なにを……」
ナルメルが言いかけた時、ミハエルが説明を始めた。
「訓練。1、2、3でタイミング合わせて。わたしが撃って、ナルメルくんが『キャー』を自分の周りに展開して防ぐ。強さは今の君でちゃんと防げる出力にしてある。
ある程度したら攻守交替で、君がわたしに『キャー』で攻撃して、わたしが防ぐ。という感じで霊波動に慣れてみよう。するかい?」
ミハエルの提案は一見無茶に聞こえたが、彼の表情には絶対的な確信があった。ナルメルを傷つけるつもりは毛頭ない。むしろ、実戦形式でなければ身につかない感覚というものがあることを、彼は知っていた。
「ああ」
ナルメルはやる気を見せた。古代エジプト統一を成し遂げた初代ファラオの血が、新たな挑戦に対する興奮をもたらしていた。
「じゃあ、トトメス3世はわたしと訓練しようよ」
その時、明るく弾んだ声が割り込んできた。飛び込んできたのは、昨日トトメス3世と戦ったサリサ=アドレット=ティーガーだった。彼女の銀髪が朝日に輝き、ホワイトライガーの耳がぴょこぴょこと動いている。フリルのついた白い三段スカートとコルセットスタイルのトップスは、朝の訓練には少し華やか過ぎるが、それが彼女らしさでもあった。
「サリサか。朝早いねーー~~」
ミハエルが苦笑する。
「昨日のパンクラチオン、楽しかったから! トトメス3世、もう一回やろうよ!」
サリサの右目の赤と左目の黄金が、期待に満ちて輝いている。彼女にとって、格上の相手との戦いは最高の娯楽であり、同時に相手を成長させる教育でもあった。
トトメス3世は昨日のパンクラチオンの試合を思い出していた。
