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絵心が重要 プレビュー

 絵はフィオラ=アマオカミ。
 スリットドレスは優秀。こんなポーズを取ってもパンツ見えない。
 プレビュー↓



「おはよう」
 プトレマイオスが途中から見に来た。
「とりあえずつかえてるからナルメルくんもトトメス3世くんも次! 霊気の物質化の練習に入るぞ 服脱いで! わたしも脱ぐね! サリサは脱がんでいーよー。君できるってわかってるから」
 ミハエル=シュピーゲル=フォン=フリードリヒが大きな声を上げて言う。
「これは霊気というより、絵描き、絵心が重要だ。力はあるんだけどね。絵心がない奴は! 『キャー』でできることが少なくなる! 術者に魔力などがあっても面白い魔法を紡ぐ【絵心】がない。こうだといくら『キャー』が優れていても宝の持ち腐れだ!
 というわけで、慣れている服を自分の絵心で霊気を物質化して今ここで作る!!」
 と、上半身裸のミハエルがいつも着ている服をイメージする。青く光る霊気が服の大きさに固まる!
「マアトを意識しつつ、服をイメージする! そして霊気を固める! 服のデザインを意識する!――どうだ」


 ミハエルの周りで青い霊気が渦巻き、彼の普段着である金のアクセントが入った上質な貴族服が形成されていく。襟元の装飾から袖のカフス、ボタンに至るまで、細部まで精密に再現された服が彼の体を包んでいった。
「すごい……」
 ナルメルが息を呑んだ。古代エジプトの王として数々の奇跡を目にしてきた彼だが、無から有を生み出すこの技術は想像を絶するものだった。
「絵心か……」
 トトメス3世が呟く。彼は昨夜から『キャー』の感覚を掴み始めていたが、それを具体的な形にするという発想は思い浮かばなかった。
「そういうこと! 力はあっても、明確なイメージがなければ霊気は思った通りに形にならない。これが『キャー』の奥深さよ」
 サリサが手を叩いて説明した。彼女自身、昨夜のパンクラチオンでグローブやロープを霊気で物質化していた実績がある。
「じゃあナルメルくん、君からやってみよう。普段着ている服をイメージして」
 ミハエルに促され、ナルメルは目を閉じて集中した。彼の脳裏に浮かんだのは、ファラオとしての正装——金の装飾が施された白いリネンの衣と、腰に巻く装飾的なスカート、そして胸を飾る黄金のペクトラル。
 青い霊気が彼の周りに立ち上り、ゆっくりと形を成していく。しかし、できあがった服は何かがおかしかった。リネンの質感は再現されているものの、色が薄く、装飾の細部がぼやけている。
「おしい! でもイメージが曖昧だね」
 ミハエルが指摘した。
「装飾の一つ一つまで鮮明に思い浮かべてみて。君が実際に着ていた時の感触、重さ、肌触りまで」
 ナルメルは再度挑戦した。今度は目を開けたまま、手に取るように一つ一つのディテールを思い描く。胸のペクトラルに刻まれたヒエログリフ、腰帯の金糸の織り目、リネンの繊維の手触り……。
 すると霊気の色が濃くなり、装飾も鮮やかさを増していく。完璧とは言えないが、明らかに最初の試行より格段に良い仕上がりになった。
「素晴らしい! これが『絵心』の力よ」
 サリサが拍手する。
「わたしも画力には自信があるの。ほら」
 サリサが軽々と霊気を操ると、一瞬で彼女の普段着——フリルの付いた白い三段スカートとコルセットスタイルのトップス——が完璧に再現された。生地の質感から、レースの繊細な模様まで、本物と見分けがつかないレベルの精度だった。
「さすがサリサ。君の観察眼と集中力は抜群だね」
 ミハエルが感心したように頷く。
「じゃあ、トトメス3世君の番だ」
 征服王は深呼吸をして、自分の記憶を辿った。戦場で着用していた革鎧、儀式用の金の腕輪、ファルコンの意匠が施されたヘッドドレス。戦士としての彼にとって、装身具は単なる装飾品ではなく、実用性と象徴性を兼ね備えた重要な道具だった。
 しかし、いざ霊気を操ろうとすると、思うようにいかない。青い光は立ち上るものの、形がなかなか定まらず、できあがった服は歪んでいた。
「難しいな……」
 トトメス3世が苦笑する。
「戦場では常に実用性を重視してきた。美的センスというものを意識したことがなかった」
「それは問題ない」
 ミハエルが励ますように言った。
「絵心は生まれつきの才能だけじゃない。ある程度までは観察と練習で必ず身につく。君の戦略眼を活かして、服の『設計図』を頭の中で組み立ててみるんだ」
 アドバイスを受けて、トトメス3世は視点を変えた。服を芸術作品として捉えるのではなく、戦術装備として分析する。各パーツの機能、配置、連結方法……建築物の設計図を描くように、論理的に構成要素を整理していく。
 すると今度は、先ほどより遥かに安定した形が現れた。装飾は簡素だが、実用的で威厳のある軍服が完成した。
「おお、これはこれで素晴らしい!」
 プトレマイオスが感嘆の声を上げた。彼は途中から訓練を見学していたのだ。
「実用美というやつですね」
 空夢風音が静かに評価した。彼女は霊波剣士の家系出身で、実戦的な美学には理解があった。
「ほんと、人それぞれね」
 水鏡冬華も口を開いた。寝起きの機嫌の悪さは霊波動の訓練を見ているうちに和らいだようで、いつもの落ち着いた口調に戻っている。
「さて、基本的な物質化はできるようになったから、今度は応用編だ」
 ミハエルが手を叩いて注意を引いた。

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