あひーけど今日はちょっとましだった。
絵はミハエル=シュピーゲル=フォン=フリードリヒ。
「これは……懐かしい。アレクサンドロスが好んだ様式だ」
彼の声には過去への思いと、現在という不思議な状況への戸惑いが混ざり合っていた。彼はポケットに印章の重みを感じながら、衣服を身につけ始めた。
プトレマイオスは自分のエジプト風の衣装と、マケドニア風の衣装の間で迷っているようだった。彼の立場を象徴するかのような選択の難しさ。彼は結局、元々の出身を示すマケドニア風の服装を選んだ。
「民を治める者は、自分のアイデンティティを忘れてはならない」
彼はそう呟きながら衣服を整えた。
オリュンピアスは紫色の布を手に取り、その王家の色に目を細めた。彼女の威厳ある姿勢は服を選ぶ時にも失われることはなく、老いてなお美しい顔立ちは凛とした表情を保っていた。
「息子はこの色が似合っていたわ……」
彼女の言葉には深い愛情と哀しみが混ざり合っていた。
クレオパトラはエジプト女王としての装いを選び、シーザーはトガを手に取った。二人は時折視線を交わし、かつての親密さを思い出しているようだった。彼らの間には言葉にできない絆が流れているようで、周りにいた者たちも二人の間に流れる空気を感じ取っていた。
カッサンドロスは隅の方で、できるだけ目立たないよう素早く着替えていた。彼の細い指は時折震え、誰かに見られることを恐れるように周囲を窺っていた。
「急ぎましょう、会議室へ」
彼は小声で呟き、自分を急かしていた。
クラテロスは武人らしく無駄なく効率的に着替えを済ませ、すでに周囲を警戒するように見回していた。長年の戦場での経験が、彼の一挙手一投足に表れていた。
「これからの話し合いは、戦略会議と同じくらい重要だな」
彼は真剣な表情でそう語った。
桜雪さゆは十二単を身にまとった。彼女の周りの空気は少し冷たくなり、指先から小さな氷の結晶が生まれては消えていた。
「アイスクリーム食べながら、歴史のお勉強。わくわくするわぁ」
彼女の無邪気な声とは対照的に、その目には知的な光が宿っていた。
一方、ミハエル=シュピーゲル=フォン=フリードリヒは現代的なカジュアルな服装を選び、さっと着替えると、すぐに会議室への準備を始めていた。彼の視線はすでに次の行動へと向けられていた。
着替えを終えた者から順に廊下に集まり始め、やがて全員が装いを整えた。時代を超えた衣装の競演は、それだけで不思議な光景だった。古代エジプト、古代ギリシャ、ローマ、そして現代。異なる時代の服装が一堂に会する様子は、まるで歴史の教科書が現実になったかのようだった。
「さあ、会議室へ行きましょう」
東雲波澄が先導役として皆を促した。彼女は現代的なブラウスとスカートに身を包み、ポニーテールを整えながら、効率的に全員を誘導していた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
会議室。
ジュリアス・カエサルの顔には動揺が走っている。ミハエルの先程の激しい言葉の洪水に対して、彼はローマの元老院での演説に慣れた冷静さを取り戻そうと努めていた。
しかし、その髪の薄い額には汗が浮かび、拭おうとする手に微かな震えが見える。このような直接的な批判と脅迫は、彼にとって馴染みのない状況だった。
「『多様性』というのは……」
カエサルは言葉を選びながら慎重に話し始めた。その瞳には複雑な感情が浮かんでいた。彼はローマを統治した経験から、相手を完全に敵に回すことの危険性を熟知していた。
「私が言及したのは、征服した民の才能を活かすという意味での多様性だ。彼らの文化を根絶やしにするのではなく、ローマの大義のために彼らの能力を活用することを意味していた」
彼は周囲を見回し、この奇妙な集まりの中で、自分の立場を確かめようとしているようだった。エジプトの女王クレオパトラ、マケドニアの王母オリュンピアス、そして様々な超自然的な存在たち。彼らの前で、自分の政治哲学があからさまに否定されている。
「しかし……」
彼は考えを巡らせながら続けた。
「あなたが言う『移民爆弾』というのは私の時代にはなかった概念だ。私たちのローマは征服者であり、移民を受け入れる側ではなかった。むしろ、属州に我々のローマ市民を送り込み、ローマ化を進めたのだ」
ミハエルの鋭い言葉に対して、カエサルの内心は複雑だった。彼の時代と2000年以上も後の世界の状況が、どれほど違うものなのか。そして「霊波動」という未知の力で魂を消すと脅されることの恐怖。
彼は自分が知らない世界、理解できない力の前に立たされていることを痛感していた。
「私はあなたが言う『外宇宙からエネルギー波を撃って地球を消した』という概念すら理解できない」
カエサルは率直に認めた。
(中略)
「冷静な反省、さすがだね。ユリウス・カエサル。さっきは怒鳴って悪かった」
ミハエル=シュピーゲル=フォン=フリードリヒがユリウスに頭を下げて謝る。
と、その刹那――!
ドキュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!
ミハエル=シュピーゲル=フォン=フリードリヒは、左手を掲げ(彼は左利きだ)会議室の天井のある部分に霊気の青い光輝く巨大な蛇のようなエネルギー波を撃った!
ドォゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!
ミハエルは、自分で直した会議室を、また自分で壊した!
月が見える。
「また天井わたし直すからー! たぶん、アンティゴノスの手の者かな……いたんで。忍び込んでる敵が。エネルギー波で撃ち殺した。落ちてきた野郎上半身ないだろ? わたしが殺す気で撃てばどれだけ社会的地位が高い奴でもこうなる。魔法や霊波動鍛えてないとな。
それで、地球をこのエネルギー波で撃ったんだよ。2000年以上の未来に。わたしとサリサとフィオラが。地球そのものもこの今死んだ敵みたいにしてあげた。
こう言うの嫌いなんだけど、神と同じ事をした、で分かってくれる? ユリウスくん。サリサの方がわたしよりはるかに強いぞ。わたしはサリサに比べれば雑魚だな」
ミハエルの『彼(彼女)はわたしよりずっと強い』は、当てにならない。自分を小さく見せ相手を大きく見るからである。
「なにごと!?」
霊気を感じて、水鏡冬華が顔を出す。
「忍び込んでたーたぶんアンティゴノスの手下。下半身しか残ってないけど」
ミハエルはのんびりと答える。
天井とミハエル=シュピーゲル=フォン=フリードリヒの霊気によって作られた穴から降り注ぐ月光が、破壊された会議室を照らす中、歴史上の人物たちは動揺しながらも即座に反応した。
「敵!?」
クラテロスが本能的に叫び、素早く身を低くして周囲を警戒する。マケドニア軍の名将として培われた彼の戦場の勘が鋭く働いている。
ユリウス・カエサルは一瞬怯んだものの、すぐに冷静さを取り戻した。彼はミハエルの発言の内容より、むしろその力の示威に対して戦略的な関心を示していた。
「これがあなたの持つ力……」
彼は天井の破壊された部分を見上げながら呟いた。
「ローマでもこのような……」
カエサルの言葉は、天井から落下してきた敵の半身に気づいたことで途切れた。頭部から腰までが完全に消失した死体が床に横たわっていた。切断面は焦げておらず、まるでエネルギーが物質そのものを消し去ったかのようだった。
サリサ=アドレット=ティーガーは、興味深そうに敵の残骸を眺めていた。彼女
(中略)
「このような力で……本当に惑星を消し去ることができるのか……?」
彼の声は震えていた。
フィオラ=アマオカミはルビー色の瞳を少し細め、尻尾を不規則に動かしながら言った。
「ミハエル、必要な時以外は力を見せびらかさないでよ。彼らを怯えさせるだけよ」
「はいはい。わたしは一番弱いからな、冬華やフィオラやサリサはわたしよりも3段くらい強い」
「ザけたこと言ってんじゃないわよミハエル」
ミハエルのあいつはわたしより強いは当てにならない。自分を弱く見せて相手を10倍以上大きく判断しているからだ。
「霊波動は本来、破壊のためではなく守りのための力なのです」
水鏡冬華が静かに説明した。
「しかし、使い手の意図によってはこのような結果になることも……」
彼女の視線は天井の穴から落ち込む月明かりへと向けられた。
エウメネスはアレクサンドロスの印章を握りしめ、状況を分析していた。彼の頭には多くの疑問が浮かんでいた。アンティゴノスの手の者が何故ここにいたのか。どのような情報を期待していたのか。そして最も重要なことは、このような力を持つミハエルたちとの同盟がエウメネスの計画にどのような影響を与えるか。
「アンティゴノスよ……」
エウメネスは小さく呟いた。
「あなたは私を追うことでどれほど危険な存在に関わることになったのか、わかっているのかな」
オリュンピアスは表面上は冷静を保っていたが、内心は激しく動揺していた。アレクサンドロスの母として、彼女は息子の死後、多くの権力闘争を目撃してきた。しかし、このような力が実在するなら、すべての戦略や陰謀はまるで子供の遊びのように見える。
「未来の地球を……消した?」
カッサンドロスが震えながら尋ねた。彼の心は恐怖で満ちていた。彼自身がアレクサンドロスの家族に対して犯した罪が、このような力を持つ者たちの前でどれほど取るに足らないものに見えるだろうか。しかし同時に、彼らが過去を変える力を持つなら、自分の行為が無効になる可能性もあることに、わずかな希望を感じていた。
「ミハエル、説明してよ」
桜雪さゆが氷のかけらを指先で作りながら言った。
「なぜアンティゴノスはここに手下を送ったの? 何を知りたかったの?」
「自分で調べろよ。きみアンティゴノスとう○こ契約したんだから。セイウ○チ」
ミハエルは桜雪さゆにそー答える。
東雲波澄は廊下から駆けつけてきた。
「ミハエルさん! 何があったんですか?」
彼女はポニーテールを揺らしながら問いかける。
クレオパトラは静かにシーザーの側に寄り添っていた。彼女の目には計算の光が浮かんでいた。
「このような力が……私の時代にあれば……」
彼女は言葉を飲み込んだ。
「あれば地球は間違いなく2000年以上前に消滅してたね。核ミサイル――インドラの矢1万発撃つよりひどいわ。
赤ちゃんに危険な手足が生えたような物だから。霊波動をよく分からず兵器として使うのならば」
ミハエル=シュピーゲル=フォン=フリードリヒが断じる。
「会議を続けるにしても、場所を変えた方がいいだろう」
クラテロスが実務的に言った。
「この部屋はもはや安全とは言えない」
「ところがそーでもないんだなっ」
ミハエルがクラテロスに応じる。
「ここが最も安全な場所だ。なぜなら、誰もここに更なるスパイを送り込む勇気はないからな。自分の上半身がなくなるから」
ブラックヴァルキリー・カーラは天井に空いた穴から外に出て夜空を眺めて居た。
