「うむ。ありがとう。当然遺族の方々もオリュンピアスに手をあげたら殺すからなこの場で! まぁ敵側から刃物や毒を持ち出したならこっちも使っていいけどな。
世の中暴力でしか解決できないことって多いのよ。意外と。
人間ってやばんねーーーー。飽くまで禁止なのはこっちから血なまぐさい方向に持っていく事。
対抗する事はセーフね。まさか脅威に対して無防備でいろなんて狂ってるからな。
そんなに戦いたいならルール決めて戦いたい奴だけで戦ってればいいんだよ。
それこそオリンピックみたいにな」
ミハエル=シュピーゲル=フォン=フリードリヒが剣と霊気の球を収め、つぶやく。
沈黙が会議室を支配した。オリュンピアスとカッサンドロスは、かつて血で血を洗う敵対関係にあった二人が、今や同じ部屋で同じ裁きを受けている皮肉な状況に言葉を失っているようだった。
プトレマイオスが静かに立ち上がり、両手を広げた。彼の表情には古くからの戦略家としての冷静さと、今この場で生まれようとしている新たな可能性への期待が混在していた。
「ミハエルの言うとおりだ。我々は長すぎる間、復讐と殺戮の連鎖の中で生きてきた。そしてその結果は何だった?」
彼は部屋の中を見回し、一人一人の顔を見つめた。
「我々自身の破滅だ。アレクサンドロスが築き上げた帝国は、我々の手によって引き裂かれようとしている」
エウメネスは羊皮紙を胸に抱きながら小さく頷いた。彼の目には深い悲しみとともに、わずかな希望の光が宿っていた。
「大王は、かつて言いました。『東西の融合こそが我々の未来だ』と。彼が目指したものは、ただの領土の拡大ではなく、異なる文化と人々の調和だったのです」
水鏡冬華はオリュンピアスの近くに立ち、静かに彼女の肩に再び手を置いた。
「それがご子息の真の遺志ではないでしょうか」
彼女の声は優しく、しかし芯の強さを感じさせるものだった。オリュンピアスの顔に微かな変化が現れる。長年の憎しみと復讐心の奥に閉じ込められていた何かが、少しずつ表面に浮かび上がってくるようだった。
桜雪さゆは氷の王冠を消し、代わりに美しい氷の花を作り出した。彼女は小さな冷気と共にそれをテーブルの中央に置いた。
「ねえ、みんな。過去は変えられないけど、未来はまだこれから。どんな未来にするか、それを決めるのは今ここにいる人たちなんじゃない?」
サリサ=アドレット=ティーガーは腕を組み、尻尾がゆっくりと左右に揺れる。
「個人的には、血なまぐさいのも嫌いじゃないけどね」
彼女は鋭い歯を見せつつも、微笑んだ。
「でも、前に進むってのはいいと思うわ。特に子どもたちのために」
彼女の視線が若きアレクサンドロスに向けられる。オリュンピアスの腕の中で眠っている幼い王子は、これからの時代を生きていくのだ。
フィオラ=アマオカミは窓際から部屋の中央へと歩み寄った。彼女の竜の角が夕陽を受けて金色に輝いている。
「それで、具体的にどうするの?」
彼女の赤い瞳がプトレマイオスを見つめる。
「オリュンピアスとカッサンドロス、二人の約束は結構だけど、実務的な話をしなければならないわ。ロクサーネと若きアレクサンドロス、そしてテッサロニケをどうするか」
