そりゃあ、紀元前4世紀に巨大ロボ持ち出せたらアレクサンダー大王なんていらない言えるわ。21世紀でも言えるわ↓
桜雪さゆは感知していた。
「やっこさん、大きなロボット持ち出してきたよ。紀元前4世紀に巨大ロボット製造技術ってあったっけ? トロイの木馬があるのは知ってるけどさ」
「そんなんあるわけないじゃないですかー21世紀ですらないですよ! 地球では! ぼくたちの火明星(ほあかりぼし)では巨大ロボ作る意味ないし! 巨大ロボより霊波動の方が圧倒的に強いから!」
サミュエル=ローズが震える声で答える。
オリュンピアスは目を見開いた。桜雪さゆの言葉に困惑の色が浮かぶ。巨大ロボット? そんな物がこの時代に存在するはずがない。
しかし、時空を操る妖怪が存在するこの奇妙な状況で、何が起きてもおかしくはなかった。
「巨大ロボットだと? なんだ? それは。トロイの木馬みたいなものか?」
オリュンピアスの心に不安が広がる。アレクサンドロスの息子とロクサーネを救い出す計画が、さらに複雑になっていく。カッサンドロスといい勝負ができると思っていたのに、まさか未知の兵器を持ち出すとは。彼女の額に冷や汗が滲む。
「この計画はどうなってしまうのだろう」
クロード=ガンヴァレンは桜雪さゆの発言に顔をしかめた。火明星(ほあかりぼし)の騎士として数々の戦いを経験してきたが、巨大ロボットと生身での戦闘は想像もしていなかった。
「霊波動の力を持っていても、ミハエル団長やアリウスさんのレベルでないと1対1で巨大ロボを倒すのは厳しい」
彼は自分の能力の限界を痛感していた。
レティチュは冷静さを取り戻そうとしていた。エルフの忍者の訓練で培った分析力を駆使して状況を整理する。
「これは時空の歪みの副作用にちがいないでーす」
彼女は考える。
「紀元前4世紀。紀元後21世紀。二つの時代が融合した結果、存在しないはずの技術が現れた」
サミュエルの手には治癒の杖がしっかりと握られていた。彼の顔は青ざめている。彼は癒し手であり、戦闘能力は限られている。巨大ロボットとの戦いとなれば、全力で仲間たちを回復させ続けるしかない。
「もしミハエル団長かアリウスさんがここにいてくれたら……」
彼は心の中でそう願った。
桜雪さゆが宙に浮かぶ様子を見て、オリュンピアスは決断を迫られていた。彼女は振り返り、刑務所の扉に目を向ける。
「今は速やかにロクサーネと息子を救出することが先決だ」
彼女は冷静に判断した。
「妖怪のいたずらに翻弄されている場合ではない」
クロード=ガンヴァレンは剣を構え、扉の前に立った。
「レティチュ、鍵を開けて。すぐに中に入る」
彼は静かに命じた。
レティチュは小さく頷くと、鍵穴に器用な指を差し込んだ。
「もうすぐ開きます」
彼女は集中して作業を続けた。
サミュエルは治癒の魔法を準備し、杖から柔らかな光が漏れ出し始めた。
「ロクサーネ様とお子さまの状態が心配です」
彼は静かに言った。
カチリという小さな音が鳴り、扉のロックが解除された。クロードが慎重に扉を押し開ける。
「わたしカッサンドロスの巨大ロボットと遊んでこよーかなー巨大ロボなら10秒で着くでしょマケドニアの王都ペラからここアンフィポリスまで」
桜雪さゆはそう言いつつ宙に浮かぶ。
空から声がした。
「ははははは! もういらないんだよ! アレクサンダーの血なんか! エウメネスが持っていった銀盾隊なんかも、ヘタイロイもいらん! ぼくには巨大ロボットがあるからなぁ! ローマなど巨大ロボがあれば恐れるに足らん! 巨大ロボでアレクサンダーの血筋も潰してやる! 巨大ロボでアレクサンダー大王がいけなかった周も僕が支配してやる!」
根性がなさそうな顔をした天パのカッサンドロスである。さゆのいたずらの影響から脱したらしい。
500mの巨大ロボに乗って、カッサンドロスはアンフィポリスにやってきた。10秒で。
「…………ぷっ、プフッ」
氷でできた500mの桜を桜雪さゆが作る。
その妖気が巨大ロボとカッサンドロスを包む。
だんだんと桜雪さゆは無言から笑い顔になっている。
どうやら笑いを我慢できないようだ。
「クサー! タカラヅカニコワイガ、アマッタレナフルァ!!!!」
(!?)
城中の医者や神官で何とか抑え込んだカッサンドロスの症状がぶり返した。何を言ってるのかわからない。カッサンドロスは思わず口を両手で抑える。
にや~~~~~。
意味不明な言動を聞いて、桜雪さゆがニヤついている。もう隠せないようだ。笑みを。
「神官が何人抑え込もうが無駄。本人の精神が強くないとねー」
