近況ノートの時間は前回の会議からさかのぼって。
アレクサンダー大王の愚痴 プレビューでーす。
絵はもうすぐサリサと桜雪さゆが相手するカッサンドロスロボット。
史実通りに忠実にはいかないと決めたから、ぶっとびますよー。
魔法のような桜がアンフィポリス中に広がり、古代都市から近代都市へと変貌を遂げたこの街の景観は、幻想的な夢の世界へと変貌を遂げた。ピンク色の花びらが、古典ギリシャ建築と21世紀の建造物が並ぶ通りを舞い、シュールな情景を描き出し、衛兵も市民も釘付けになった。
「桜はね……生者(しょうじゃ)を祝う意味もあるけど、死者を慰める意味もあるのよ……つまり鎮魂。
愛であれ、罪であれ……、日人(ひびと:日本人)は代々桜に我が身を移すという行為を行ってきたのん。
マケドニアは 国のまほろば たたなづく ブドウ畑 ワイン おいし ブドウ踏みする女性 美し」
と桜雪さゆが言い終わる頃には、桜から死んだ半透明のマケドニア兵が出てきた。
「なんで……なんでアレクサンダー大王は東征をやめてくれなかったんだ……いいとこペルシャまでで、ペルシャまではついていく気満々だったけど、それ以降はついていくつもりなんかなかったのに……最後は周(中国)も攻めるぞ! なんていいだしやがってあのスカポンタン王め」
などと半透明のマケドニア兵がそれぞれ恨みつらみを吐いている。
オリュンピアスは畏敬の念と警戒心が入り混じる思いで、この光景を見守っていた。桜の木から現れたマケドニア兵たちの幽霊は、彼女の背筋を凍らせるような感覚を与えた。
彼らは息子と共に進軍した者たち、アレクサンドロス大王の果てしない野望を追い求め、故郷を遥か遠く離れた地で命を落とした者たちだった。彼らの嘆きを聞くたびに、彼女の心は苦い思いで痛みを覚えた。
「これは……なんてこと……」
と彼女は呟いた。王族としての彼女の風格は、一瞬揺らいだ。これらの霊たちは、アレクサンドロス大王の容赦ない遠征の間、彼女が抱いていたまさにその思いを代弁していた。どれほど多くの母親が、息子が世界史上最も偉大な帝国に満足できなかったために、息子を失ったことだろう。
クロード=ガンヴァレンは思わず剣の柄に手を伸ばしたが、これらの幻影が物理的な脅威ではないと悟ると、我に返った。
「本物の兵士じゃない」
と彼は呟いた。
「でも、あの、感情入り込んでませんか、これ……?」
サミュエル=ローズは厳しい表情で頷いた。
「妖怪の力は驚異的ですね。単なるイメージではなく、歴史から感情的な響きをも生み出している」
治癒師としての本能が、これらの幻影は、たとえ桜雪さゆの想像力によって作り出されたものであっても、真の人間の感情を宿していると告げていた。
レティチュはエルフのような冷静さでその光景を観察し、緑色の目で計算していた。
「衛兵たちは完全に気を取られている。これは、北の塔へ気付かれずに進軍する好機でーすよ」
忍者の訓練をしてきた彼女は、超自然的な混乱の中でも戦術的な優位性を見抜くことができた。
何よりも印象的だったのは、妻と子が幽閉されている塔の近くを彷徨うアレクサンダー本人の幻影だった。
偉大な征服者の亡霊は落ち着きなく動き回り、その不満がアンフィポリスの桜咲く街路にこだました。
「なんで……なんでみんなついてきてくれなかったんだ。あのままアリストテレス先生が言うように周(中国全土)も僕たちマケドニアの領土にできたのに……周の真ん中にもアレクサンドリア・ブケパラスって名付けようとしたのに……全部勝ってきただろう!? わたしは勝利を盗まなかった! わたしが全戦矢面に立って!! 何の不満があるというのだ……将軍誰もついてこずに、書記官のエウメネスだけだったじゃないか。あとベルディッカス……僕についてきたの……。バビロンで毒殺する事ないじゃないか……」
バビロンでワインを一杯飲んだ後寝込んでそのまま死んでしまったアレクサンダー大王。金床戦術(せき止め役+遊撃の本体で、せき止め役が止めている間に後ろから回り込んでドカーン&ヒットアンドアウェイ)の実行者でもある。
中国まで行けなかっただけで名の知れた高度な文明をすべて飲み込みかけたアレクサンダー大王。
あまりにも兵が帰りたい帰りたいと大合唱するものだから、一度戻って、休んだら中国征服にのりだそうとしていた『やる気底なし』である。これはアリストテレスに焚きつけられたという話もある。
もし中国に到達していたら、戦国四大名将の白起と戦ったかもしれない。
いやむしろエウメネスvs白起だ。
頭脳勝負なら。どちらもずば抜けた頭脳である。
エウメネスに足りないのは(マケドニア人の貴族主義な人からの好感度、言ってしまえば特定の人に対するカリスマが全くない)という点だけなので、ここをどうにかできれば弱点なしの柔軟な男になる。
名君か暗君か人によって評価が分かれる人物だ。何せ本人が神話に片足突っ込んでいる。いやむしろ服を着た自然災害だ。アレクサンダー大王は。なにせ功罪明暗で語れるほどの小ささではないからだ。自然災害そのものに名君か暗君か尋ねる人はいないだろう。
アレクサンダー大王の亡霊が歩きながら愚痴っていた。
将軍たちに見捨てられた苛立ち、中国への東征を阻んだ者たちへの恨み、自らの殺害に対する困惑――すべてが、痛ましいほどに露わになった。
「我が息子よ……」
オリュンピアスは一瞬我を忘れて囁いた。狡猾な策略と政治的駆け引きを駆使したとはいえ、彼女は依然として我が子を失った母親だった。
アレクサンダーのこの作り物の幻影を見ることで、真に癒えることのない傷が再び開いた。
クロード=ガンヴァレンは敬意を込めて彼女の肩に手を置いた。
「陛下、我々の目的を思い出してください。あなたの孫が待っています――アレクサンダーの真の遺産が」
その言葉にオリンピアスの決意は固まった。彼女は背筋を伸ばし、決意に満ちた瞳を輝かせた。
「ああ。邪魔が入らないうちに前へ進もう」
