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人の気持ちを無視した合理性というものは、現実離れしたゴミ以外の何物でもない。勘違いするな。合理性は人を家畜にするためにあるわけではない! 善き統治の仕方を神から学べ!

 そろそろお盆休みですのでー、お盆終わるまで毎日更新しますよー。
怖いもの知らずでも怖いものはあるんです プレビュー↓


「いや、待ってくれ」
 その言葉がエジプトの宮殿に響く。知的な黒髪のイケメンがいた。
「あ……ウガヤ様!? なんでここに!? 日本に引っ込んでてくださいよ! 今ウガヤフキアエズ朝日本なんですから! ひぃいい」
 桜雪さゆが怯える。怖いもの知らずの彼女でも八百万の神々のトップ連中は怖いのである。
「…………」
「…………!?」
(こやつでも怖いものがあったのか!?)
 オリュンピアスとプトレマイオスが意外そうにウガヤの前で床にひざまづく十二単、桜雪さゆを見つめる。
 水鏡冬華も空夢風音も信じられないものを見るようで、ウガヤから足を2,3歩下げさせている。
「桜雪。お前あんま下界でいたずらするなって姪に言われてるだろう。お前もう大分戻ってきたとはいえ、地中海蒸発させんな。姪にラリアットくらうぞー。それか闇霎の息子がティルナノグで爆破されたみたいにな! 水鏡の女は普通に元気だな。こんにちは」
「こ、こんにちは。聖上」
 水鏡冬華が答える。
(聖上…………?)
 エウメネスはその呼び方を覚えておくことにした。
 天津日高日子波限建鵜草葺不合命(あまつひこ ひこなぎさたけ うがやふきあえずのみこと)の母は、竜神 瀬織津姫で、父は、天照国照彦天火明櫛玉饒速日尊。瀬織津姫の子どもは草祖草野姫(くさのおや かやのひめ)。草祖草野姫は木花咲耶姫(このはなさくやひめ)の母。
 そして桜雪さゆは、木花咲耶姫に仕える妖怪。
 つまり、ウガヤにも桜雪さゆは、頭が上がらないというわけである。
「ウガヤどの。もしかして手伝ってくれる~?」
 ミハエルが声をかける。
「よう、闇霎の息子。手伝いはせんよ。子供の喧嘩に親が出るか」
 ウガヤが答える。
「ウガヤ殿は、本物ですよね? 多次元同時存在できますから、日本の八百万の神々は。量子的なんだから存在が」
 ミハエルが質問する。
「まあな。ここで普通におさめてきた記憶もあるし、火明星(ほあかりぼし)でダーナ神族の光の騎士ルーを倒した記憶もちゃんとあるぞ。アリウスの自壊魔法バベルで崩れかけてるルーをな」
 ウガヤは軽い調子で応える。
「そなたは何者じゃ」
 物怖じせずに、オリュンピアスがウガヤに尋ねる。
「オリンピックさんまずいって! ウガヤ様にそんな態度!」
 桜雪さゆが騒いでいる。


 ウガヤは桜雪さゆの慌てた様子を見て微笑み、オリュンピアスに視線を向けた。
 彼の姿は普通の人間のようでありながら、どこか光を帯びているように見える。
 その存在感は部屋全体を満たし、まるで大気そのものが彼の意志に従っているかのようだ。
「わたしは日本の神々の一柱だ。きみが息子アレクサンドロスを愛するように、わたしもまた自らの民をわたしが、神が直接守っている。
 人が人を治めるには精神的成長が足りんな。
 人を守るのではなく富を操るくだらんルールで民を縛り、くだらんことで血を流して。
 神が治めないと」
 オリュンピアスはその言葉に目を細めた。神々への信仰心が強い彼女にとって、目の前の存在が本当に神だと信じることは難しくなかった。むしろ、その威厳ある態度にアレクサンドロスの面影さえ感じていた。
「日本という国の神……」
 彼女はゆっくりと言葉を選びながら言った。
「息子は遠い東の国々にまで征服の手を伸ばそうとしていたが、あなたの国までは到達しなかったようですね」
 プトレマイオスは状況が飲み込めず、混乱した表情で立ち尽くしていた。
 彼の頭の中では様々な疑問が渦巻いていた。
(日本とはどこにある国なのか? なぜ突然神が現れたのか? そしてなぜ皆、あの桜雪さゆまでがこの存在を恐れているのか?)
 エウメネスは冷静に観察していた。軍略家として彼は常に新たな情報を分析する習慣がついている。
 この「ウガヤ」という存在が現れたことで、すべての計画が変わるかもしれないと感じていた。
「姪に言われてるってことは……」
 ミハエルは考え込むように指を唇に当てた。
「木花咲耶姫がさゆに地中海を蒸発させないよう釘を刺していたということか。さすがはさくやひめ。自分も暴れて山蹴っ飛ばして富士五湖を作っただけのことはある」
「うるさいよ!」
 桜雪さゆは顔を真っ赤にして言い返した。
「わたしだって好き勝手にやってるわけじゃないもん。ちょっと遊んでただけ……」
 空夢風音と水鏡冬華は互いに視線を交わし、静かに頭を下げた。二人にとってウガヤの存在は畏敬の対象であり、その場に居合わせることさえ光栄なことだった。
「それで、エウメネスよ」
 ウガヤは静かにエウメネスに向き直った。
「日本に来るつもりか?」
 エウメネスは一瞬驚いた表情を見せた後、丁寧に頭を下げた。
「はい、もしお許しいただけるなら。この戦乱の地を離れ、新たな地で平穏に暮らしたいと思っています」
 ウガヤはゆっくりと頷いた。
「日本の地を踏むのであれば、いくつかの決まりごとを守ってもらわねばならん。われらの国は多くの神々が共存する地。乱すことなかれ」
「ご教示ください」
 エウメネスは真摯に応えた。
 オリュンピアスは二人のやりとりを興味深く見つめていた。彼女の頭の中では新たな計画が形作られつつあった。この神と関係を築くことができれば、カッサンドロスに対する大きな優位性を得られるかもしれない。
「まずよ、日本の地においては、争いを持ち込まないこと」
 ウガヤは穏やかな声で続けた。
「政争に明け暮れた者の魂は、我が国では安らぎを得られんぞ」
「宇宙や次元全体が爆発消滅しようがカスリ傷すら負わず、かゆい程度にしか影響しないほぼ最強の太陽神の息子が直接最前線で国を守っているのだから、そりゃあどの宇宙からも古代日本に侵略できるわけがないわよね」
 桜雪さゆがこぼす。
 日本が脆弱になるのは、神が人に呆れ天に登った紀元後、大和朝廷からである。
「つまり、わたしはディアドコイ戦争には介入しない。オリュンピアスにも手を貸さない。
 今回姿を見せたのは、桜雪に釘をさすためだ。じゃあな。日本に戻る。
 エウメネスくん。日本で待っている。
 あとひとつだけ。
 人の気持ちを無視した合理性というものは、現実離れしたゴミ以外の何物でもない。勘違いするな。合理性は人を家畜にするためにあるわけではない! 善き統治の仕方を神から学べ!」

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