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最強最悪の組み合わせ プレビュー

絵は空夢風音。意外と1人だとだらしない格好もする彼女。
桜雪さゆ+オリュンピアスの最悪最強タッグ結成。↓



 エジプト。宮殿の中で、キトンを着た女性と十二単を着た女性が向かい合っていた。
「おぬしか。ペラを燃やしたのは。しかも燃えた後よくわからん墓石みたいな街がそこかしこにできておるし。あれはなんだ」
 オリュンピアスが堂々とした風体で十二単に聞く。
「はいはい、オリンピックさんこにゃにゃちはー。
 おぬしぃーかーわたしの火炎千本桜の中で生き延びたのは~~。墓石流行ってんの。21世紀の下界の肉人形の間では。
 さすがアホな肉人形だよねー、墓石建物にするって縁起悪いじゃんー高層ビルとか言ってさー。わたし木花咲耶姫に仕える妖怪だからよくわかりませーん! シンジラレナーイ」
 桜雪さゆは雰囲気を真似て質問を返す。


 オリュンピアスは桜雪さゆの言葉に眉をひそめ、彼女を注意深く観察した。
 この妖艶な十二単の女は、普通の人間とは明らかに違う。
 高層ビルや21世紀という言葉も理解できないが、この女が持つ力は明らかだ。
 マケドニアの王都があった場所に今や奇妙な石造りの塔が立ち並んでいると言う。
「木花咲耶姫? 知らぬ神だな。わしの知るゼウスやアポロンとはどう違うのじゃ?」
 オリュンピアスは腕を組み、堂々と尋ねた。彼女の目は蛇のように鋭く、サリサ=アドレット=ティーガーが彼女を「蛇女」と呼ぶ理由が分かるような雰囲気を醸し出している。
 この女が持つ知性と狡猾さは、アレクサンドロス大王の母親だけあって並ではない。
 彼女は自分を火炎から守った術を知りたがっている。そして何より、この火を操る妖怪から得られる利益を計算していた。
「そなたの力、アレクサンドロスの王位を守るために使えぬかな」
 さゆは十二単の長い袖をひらひらと揺らし、くすくすと笑った。
 「あれー? ぜうすとかよくわかんないけど、オリンピックさんの息子って死んでなかった? バビロンで?
 ま、ささいなことか。
 わたしがなんで下界のエンキドゥと同じ体の組成の土人形、肉人形のために力使わなきゃいけないのー?」
 オリュンピアスの目が危険な光を放った。
 息子の死を軽々しく口にするこの妖怪に対して一瞬激しい怒りが湧き上がったが、すぐに抑え込んだ。
 彼女は長年の宮廷生活で感情をコントロールする術を身につけていた。
「死んでおらぬ。あの愚かな噂を信じるでない。
 アレクサンドロスの血筋は必ず王座に戻る」
 オリュンピアスはゆっくりと言葉を選んだ。
「そなたの言う高層ビルとやらが何か知らぬが、わしはその地に新たな王都を築きたい」
 さゆは退屈そうに空中に小さな火の玉を浮かべて遊び始めた。
 火の玉が宮殿の高い天井に向かって上昇し、光の模様を描いていく。
「ふーん、でも人間って面白くないんだもん。
 この頃ってマケドニアだけじゃなくギリシャも奴隷制民主主義だよね。
 オリンピックさんミケーネって知ってる? ミケーネ王国。
 ギリシアを支配していたミケーネ王国という「領域国家」はどこかへ姿を消してしまって、どこからともなく現われた数百の「都市国家」が、いつのまにか、ギリシア全土に成立しているんです。
 驚くべきことに、そのほとんどが、フェニキア人により”調教された”民主制だってこと。
 領域国家としてのミケーネが、暗黒時代200年の真っ暗なトンネル潜り抜けたら、数百のポリスに「分割」されてたのはなぜなのか?
 王家の人たちが消されて、いつのまにか民衆たちが支配している異常事態はどうして? この間、いったいどんな事が起こったのか? オリンピックさん?
 民主制というのは、もともと植民地統治の一形態だったんじゃないの? オリンピックさん?
 その奴隷制度が気に入らなかったから、わたし奴隷市場消しちゃった。勢い余ってペラごと燃やしちゃったけどね。
 あ。あと、アンティハゲロスも燃やしちゃった。
 地中海も全部蒸発させちゃったし。てへぺろ♪
 だからこのところ雨でしょ~~? これ地中海の水が空から降ってんのよ。

 奴隷という言葉だけ排し、薄めて薄めて庶民全体にいきわたらせる。派遣。サラリーマン。
 それで国民がみんな奴隷と同じ境遇になり、奴隷からは姿も見えなくなった富裕層に搾取される仕組みが21世紀には出来上がったんだよー『資本主義』って言ってる。下界の土人形は。

 ミケーネの暗黒時代200年見てたらわかるだろ!!
『民主共和制とは★人民が自由意志によって自分たちの制度と精神を貶める★政体のことじゃ~~~ん。衆愚政治』

 奴隷というものの本質を見ると、21世紀でも名前を変えて存在するのに見てみないフリしてオレは偉いんだ頭いいんだってふんぞり返って妖怪から見るとアホみたい!
 お前ら全員裸で宇宙にも飛び出せない肉人形なのに!
 下界の肉人形が何やってても、わたしには関係ないしー」
 オリュンピアスはさゆの火の玉を見上げながら、ゆっくりと近づいた。
「そなたが面白いと思うものは何じゃ? この世界で何が見たい?」
 桜雪さゆは指でくるくると円を描き、火の玉が螺旋を描いて下降してきた。
「人間の歴史なんてさー、どうせ繰り返しじゃんー。
 エメネックス? ああ、エウメネスとかなんとかって人も、結局どうせ死ぬだけ。時間燃やしたらもっと面白いかなーって」
 オリュンピアスは「エウメネス」という名前に反応した。
 彼女の頭の中で何かが繋がった。
「エウメネスのことを知っておるのか? 彼はわたしの息子の忠実な部下じゃった」
「知ってるよー。フィオラがバカみたいに心配してたし」
 桜雪さゆは火の玉を指の上で転がし、ふと思いついたように言った。
「あ、そうだ! オリンピックさん、面白いことしない? 人間の歴史をちょっとだけいじってみるの。どうせロータスの法則で元に戻るらしいし」
 オリュンピアスはさゆの提案に興味を示した。
「歴史をいじる、か。それはどういう意味じゃ?」
 彼女の目には野望の光が宿っていた。
 もしこの妖怪の力で何かができるのなら、カッサンドロスを打ち倒し、アレクサンドロスの血筋を守ることができるかもしれない。
 さゆは楽しそうに笑い、指先から小さな火の花を咲かせた。

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