絵は天馬蒼依。VRにとりこまれてからどうしているのでしょう。
「このフィオラとやらは、なぜそこまでしてエウメネスを救おうとするのじゃ? 縁深いわけでもないだろう?」
オリュンピアスの質問は鋭い。
彼女は情報を探る名手だ。アレクサンドロスの母としての長い政治経験が、妖怪の言葉の中から真実を見抜こうとしている。
桜雪さゆはにっこりと笑い、氷の人形をぐるぐると回転させ火を回りに発生させた。火の中でエウメネスとフィオラが踊っているかのように見える。
「さあ? 歴史が狂うから? 彼女は退屈しのぎで歴史を直そうとしてるのかもね。わたしは逆に歴史をいじって遊びたいだけ。
だって人間なんてどうせ同じことの繰り返しでしょ? ちょっとくらい変えても面白いじゃない」
オリュンピアスはさゆの言葉に含まれる情報を慎重に咀嚼していた。
エウメネスの運命が何らかの形で歴史の流れに影響するということ。
そしてその運命を変える力をこの妖怪が持っているということ。
「カッサンドロスとの戦いで、そなたの力を貸してくれぬか? そうすれば、わしも好きなようにさせてやろう」
オリュンピアスの提案は直截的だった。
彼女は長い交渉術で相手を騙したり操ったりすることに長けているが、この妖怪相手には単刀直入に利害の一致を提案する方が賢明だと判断したのだろう。
桜雪さゆは火の人形を消し、両手を合わせて喜々として言った。
「いいね! 面白そう!
でもエウリュディケの双子足で絞め殺してエウリュディケ自殺に追い込んだ女の割には寛大~~!
つまんないこと言ったら雪女のわたしがこの場でオリンピックさん燃やして凍らせて富士山に埋めるつもりだったけど、面白いから保留~~。
わたしがカッサンドロスをちょっと困らせるから、オリンピックさんはエウメネスをフィオラから遠ざけるのを手伝ってよ」
彼女は空中に新たな氷の玉を作り出し、その氷で天パのカッサンドロスの姿を形作った。そして意地悪そうに笑いながら、その氷の人形を指で弾いた。氷の人形は宮殿の壁に向かって飛んでいき、壁に当たって砕けた。
「あのね、カッサンドロスの母親、フィラは今どこにいるか知ってる? あの人、すごく面白い反応するんだよね。ちょっといじめてみたい」
オリュンピアスは思わず笑みを浮かべた。カッサンドロスの母親フィラは、彼女の長年のライバルだった。
この妖怪が持つ破壊的な力でフィラを困らせるという考えは、彼女にとって甘い誘惑だった。
「フィラか……今はお前が燃やしたマケドニアの王宮だった場所の高層ビルとかいう建築物の中におるはずじゃ。わしの情報網が正しければ、カッサンドロスとともに権力の空白を埋めようと暗躍しておる」
