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炎の記憶

ここ数ヶ月、かなり仕事が立て込んでおりまして。
なかなか執筆の方に手が回りません。

まあ、言い訳です。
常に言い訳を用意しながら生きております。

なので近況ノートでお茶を濁します。





長女が学校の期末テスト期間中らしいのですが、朝からソファに突っ伏しております。どうした。

次女と違ってキッチリ準備するタイプの長女なので、テスト勉強もちゃんと出来てるはずなのですが。

聞けば、このタイミングで月のモノ(生々しいので以後『シェリー』と表記します)が来てしまい、なかなか薬が効かず悶えているのだそうです。

キッチリ準備はするけど間が悪い、長女はずっとそんな感じです。

気の毒になあ……とは思いますが、ぼくには本当の意味でその痛みはわかってやれません。

いや、男女の違いだけの話ではなく、悲しいかな人は人の痛みというものを本当の意味でわかってやることなど出来はしないのです。

ただ、寄り添うことならできるかもしれません。


思い出すのは十数年前。

ヨメもまた、シェリーが重く毎月とても大変そうでした。

イブを飲もうがバファリン飲もうがロキソニン飲もうが痛いものは痛い。
本当に辛そうでした。

とはいえ。
オットができることなど限られています。
せいぜい、コンビニでちょっと高めのアイスを買ってきて。あとはヨメ分担の家事を引き受けてやるくらいでしょうか。
しかしそれらは、残念ながら直接的に痛みを和らげてやれるものではありません。


そんなある時のこと。

どこで聞いてきたのか、ヨメが逆転の一手を繰り出そうとしておりました。

それは「テニスボールで肛門を押す」という荒業です。
ほんとにどこで聞いてきたんでしょうね。それ。

しかし問題があります。どう押すか問題です。

まずソファにボールを置いて、その上に尻を乗せてみたようです。

「お?」

顔を上げるヨメ。どうした。

「うむ、悪くない」

悪くないそうです。

「でも惜しい感じがする。微妙に芯に届かないというか」

なるほど、柔らかいソファの上だとボールが座面に沈み込んで効果が十分ではないようです。
では、硬い床の上ではどうでしょう。

「ファーッ!?」

どうした。

「アカン、中世の拷問だこれ」

ないよ、そんな中世の拷問。

とはいえ、肛門を圧迫することでシェリーの痛みを和らげるという方向性は間違っていないようです。
和らげるというよりは別の刺激で痛みの意識を分散すると言いますか。
それは東洋医学的にも理に適っているように思います。知らんけど。
しかしその塩梅がナカナカ難しく、繊細なタッチが要求されるとのこと。

そしてもうひとつ問題が。

座っているときはいいとして、寝るときどうすんだ問題です。

「自分でテニスボール握って圧迫したらいいんでない?」

「アホか」

ぼくの適当な提案にヨメが怒った理由はすぐにわかりました。

もしよろしければ、ご自身でお試し頂きたい。

人体の構造というものは、手にしたテニスボールで自らの肛門を力強く圧迫できるようにはなっていないのです。なかなかこういう機会でもない限り、ふだんの生活の中では気付きづらいことではありますが。

ヨメは言います。

「ひとつ思いついたんやけど。ちょっと手伝ってはもらえまいか」

「いやだよ」

「まだ何も言うてないやないか」

この状況で生まれるアイデアがロクなもんではないことくらいぼくにもわかります。

「ようやくアナタが役に立つ日が来たんやで」

そうか。ようやく来たのか。



その夜。ぼくらはいつものように並んで仰向けになって寝室の天井を見上げていました。

いつもと少し違うのは、横に並んでいるのではなく、縦に並んでおります。
ヨメが上、そしてぼくが下。
ぼくらをそれぞれ「火」の字に見立てますと、ちょうど「炎」になる形です。
大人ふたりが縦に並べるほど広い寝室ではありませんので、ヨメもぼくも膝を曲げた状態で、ぼくの足は壁に付いています。一方ヨメは頭を逆側の壁に付けている状態です。

どうしてこうなった?

じつはこれがヨメの秘策だったのです。
非常に説明が難しいのですが、要するにぼくの頭頂部でヨメの肛門を圧迫するという、エクストリームな体勢です。

なるほど、これならぼくが足で壁を押す力の強弱で圧迫具合を調整可能です。
そして足の力は腕の力のじつに6倍。たしかグラップラー刃牙に書いてあったので間違いありません。
それはつまり、この態勢を維持する疲労感も大幅に軽減されることを意味します。
完璧です。

ヨメが泣いております。

「こんな……こんな嫌や……」

ザ・俺のセリフです。

「人」という字は人同士が支え合ってる姿なんだ……みたいな話あったじゃないですか。
でもじつは、「炎」という字の方がより強く支え合っている姿なんだよ、というのをいつか生まれてくる子供たちにも伝えてあげたい……そんなことをぼくは考えていたかもしれません。

もしかすると、金八先生もどこかで同じこと言ってたかもしれませんが。





短編ひとつ、一行すら書けていない近況を書くつもりが二千字超えてもうた……。
そして昼休み終わってもうた……。

25件のコメント

  • 「うむ、悪くない」

    最高でした🤗✨
  • なんて愉快な夫婦なんだ。
  • もうこのノートそのものがエッセイだと感じましたが(笑)、テニスボールで腰を押す、というのは陣痛の痛みを和らげるときにやるものの、シェリーの痛みを和らげるために……というのは初めて聞きました。

    薬が効きにくいというか、シェリーの痛みが重い場合は子宮筋腫とか病気が原因の時もありますので、あまりにツラい場合はぜひ婦人科へ……!
  • ⭐⭐⭐️
    これは奥様や娘さんに捧げます。
    寄り添うサク様を応援します❤

    近況ノートなので、この気持ちだけお送りいたします。
  • うーん何とお似合いの夫婦、どちらも発想が斬新すぎるw

    男の身にはシェリーの辛さは実際のところわかりませんからねぇ。チェリーが長く続いてる同姓の悲哀なら多少は理解るんですが。
    機嫌や態度からある程度推し量れるくらいで。本人が一番キツいんでしょうけど当たられる側もそれなりに面倒な期間。
  • ツボとかはいろいろあるそうですが、テニスボールで肛門を押す??? 初めて聞きました (>▽<*)ww
    しかも寝るときは志乃亜さんの後頭部で??? 何てエクストリームなご夫婦なのでしょう!
  • これぞ夫婦漫才……じゃなくて夫婦愛! 感動しました。
    あのね、肛門じゃなくて尾てい骨じゃなかったかな。
    見守ることしか出来ませんが、頑張ってください。
  • 宮本さん、こんにちは!

    「うむ、悪くない」
    序盤でこの言葉が出るのは失敗フラグだったりします。
    妥協点の低いオットと違い、ヨメはより高みを目指そうとする性格なので。
  • 竹藤戸さん、こんにちは!
    いや、実際は殺伐としたものですよ。
    フリースタイルラップバトルくらい互いにdisり合っております。
  • なるほど、「炎」でした。想像すると面白い図になりますが、奥様のシェリーに寄り添うサク様のお優しさに、感動いたしました。(´;ω;`)
  • ももさん、こんにちは!
    ふふふ、じつは陣痛緩和のときにもこの時の経験は活きているのですよ。
    ヨメの腰を押しながら、二度目の経験で心に余裕があったため横にあった「たべっこどうぶつ」をひとつつまんでパクッと食べた瞬間、鬼のような形相のヨメに「おま……なんでこんな時たべっこどうぶつ……」と睨まれました。いまだに言われます。

    子宮筋腫。まさにそれで、癒着があって手術ができないとかで10年ほどシェリーを抑える薬を飲んでいるようです。
  • それって、出産の時のやつじゃ…(^_^;)
    仲良し夫婦だなぁ(笑)。
  • @leo601さん、こんにちは!

    >どちらも発想が斬新

    いえいえ、私自身はこの件に関して一切のアイデア提供や意見表明はしておりませんよ(笑)
    すべてはヨメがどこかから聞いてきた出所不明の怪しい情報によるものです。
    チェリー……スピッツですね。もしくはEGO-WRAPPIN'か。どちらにしても好きな曲です。
  • ハルさん、こんにちは!
    どうもコメント欄を見る限り、テニスボール緩和法は決してメジャーなものではないようですね。
    ぼくには全くわかりませんが、ヨメは結構な検索魔なので、よくどこかから怪しい情報を持ってくるんですよ。

    >何てエクストリーム

    たいていは後になって振り返りおかしさに気付くのですが、この時はやってる最中に「これはきっと違う……!」と思ってました(笑)
  • 来冬さん、こんにちは!
    うふふ、感動する要素……ありましたか?(笑)
    尾てい骨ということは、わざわざ「炎」にならずとも、仰向けに寝た状態で尻の下にボールを挟んでおいたら良かったということではないでしょうか。
    だとしたらぼくたちは何のために……!
  • めぐるさん、こんにちは!

    だいぶ炎でした。もし鬼滅の刃を観た後だったら「心を燃やせ!無限列車連結!出発進行!」とか言ってたかもしれません。当時はまだありませんでしたが(笑)
  • 幸まるさん、こんにちは!
    出産のときも分娩室の前室?みたいな部屋で似たようなことをやっております。
    さすがに炎にはなりませんでしたが(笑)
  • 炎の記憶なので「むせる……」なのかと思いきや、噛み殺した笑いでむせそうになったじゃないですか^ ^
    いや、やっぱり「むせる」……正しいのか?
  • もぉ、仲のいいお二人の様子を見せつけられただけって感じ。
    ご馳走様でした😋
  • こんばんは
    なんだろう、こういう笑えるエッセイこそ好きですけどねw

    もだえる地獄はわかりますね
    私も全てを放棄して死んでますから……
  • 英さん、こんばんは!
    炎の記憶はたしかルパン三世にそういうサブタイトルの映画があったのでそこからのパクリです(笑)
    たしかあったはず……あったかな?
  • 七月七日さん、こんばんは!
    ふふふ、これで案外お互いのこと分かってないんですよ。
    結局のところ人と人とは究極的には分かり合えないのかもしれません。
  • 岩名さん、こんばんは!
    どうもジャンルでエッセイを選んで作品にしようとすると「オチをつけにゃー」という意識が働くようで、少し窮屈さを感じてしまうんですよね。
    なのでここ近況でオチのない話を書いてるのが性に合っているような気もしてます。

    いかんいかん、そのうち全米が泣く感じの書くんです!
  • 陣痛逃がしで有名なその方法、シェリーに効くとは聞いたことない。
    どこでお聞きになったのでしょう???

    いやもう、コンビとしてデビューできるんじゃないでしょうか。
    素敵な奥様です。

    わたしはとっとと病院にいって薬で武装しちゃってたので、そんな愉快な軽減法を考え付こうとしたことすらありませんでした。

    飲み薬は全く聞かなかったですけど、座薬タイプは効きました。
    ただ服薬できる場所は限られるが不便でしたけどね。

    「ブスコパン」という胃痙攣に効く薬も効くかも。かも。もちろん薬局で買える(はず)

    という豆知識と共に、座布団10枚を置いて行きます。
  • さくらさん、こんにちは!

    じつはこれ、ぼく自身は他の方も指摘されてるようにヨメが妊娠中の記憶だと思ってたんですよね。
    ところが本人の話だとシェリーの時のことだというので、本人の記憶を優先しております。

    のちに子宮筋腫も発覚するので、まったく無関係ではないのでしょうけど。

    ムコスタ・ブスコバンはなぜかぼくの行く内科で風邪のときに毎回処方されるためうちに大量にあったりします(笑)
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