霊峰トラウゼ山。そこに巣くう神魔七柱の一、ヘルドラが次の討伐対象だ。
(登山かぁ)
山頂、と聞いて雄輝はすぐに憂鬱な気分になる。クレアみたいに羽が生えていればな、と少し思う。しかし、すぐに思い直した。そういえば、クライアスが言っていた。クレアは優雅に飛んでいるように見えて、必死に空中を走っているだけなのだ、と。
すっかり忘れていた。クレアが普段使っている透明な足場を、実際に渡ったことがあるというのに。
「それで、そのヘルドラってのは、どんなやつなんだ?」
気を取り直して、雄輝は問う。その声に、クレアは嬉しそうに振り返った。雄輝が積極的になってくれているのが嬉しいようだ。
「あのですね、見た目は真っ赤でおっきなトカゲなんです」
クレアが身振り手振りを交えて、雄輝に説明する。うんうん、と頷いている雄輝の頭に一つの像ができあがってきた。
「それって、『ドラゴン』みたいなやつ?」雄輝が思い浮かべたのは、ファンタジーを題材にしたゲームならおなじみのモンスターだった。クレアが一生懸命話していた羽を持つ巨大なトカゲで口から火を吹く怪物について、雄輝はそれしか想像できない。
それなのに。
「どらごん?」
クレアは口をポカンと開けて呆けていた。どうやらドラゴンという言葉が通じないらしい。
「その、どらごんが何なのかは分かんないんですけど、ヘルドラには鋭い牙があってですね……」
クレアは熱心に説明を続ける。しかし、どれだけ言葉を加えても雄輝の中に生まれたドラゴンのイメージが崩れることはない。むしろ、さらに強調されていく。
(言葉って便利なようで、不便なんだなー)
身振り手振りも大きく、一生懸命話すクレアをどこか冷めた目で見ながら、変なところで異世界を実感する雄輝であった。
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