僕は以前小説の専門学校に通っていたことがあります。教室の机にはクラスの人数分以上あるPCが並んでいて、席に座るとみんなそのPCの横っちょに何かブスッとぶっ刺していたんですよね。そのうち僕はそれがUSBメモリという代物で、みんなそれで自分の小説のデータを持ち運んでいたことを知り、そのうち自分もUSJのハリーポッターエリアに……じゃなくてUSBメモリを購入してそこに小説を入れるようになりました(ちなみに僕はUSJに行ったことがないけど、Webライターをしていた時にハリーポッターエリアの記事を書いたことがある)。
その時使っていたUSBには、今でもそのころ書いていた僕の無数のボツ作品が保存されているはずです。今では見るのも怖いですが、そうやって長年ボツの山を積み上げてきたからこそ今の自分の作品があります。
カクヨムでよく、「今年の~月から小説を書き始めました」とおっしゃっている方がいますが、そういう時僕は「嘘だろっ!」と思ってしまいます。そんなすぐにそんなちゃんとした小説が書けるか、と。自分はここまでくるのに10年以上かかったぞ。もし本当だとしたらよっぽど器用な人なんだろうなと。まあ自分は大器晩成型なので(とずっと自分に言い聞かせてきた)。
僕がカクヨムに初めて小説を投稿したのは、3年とちょっと前、第5回のカクヨムコンが開幕した初日です。その日投稿したのは短編2つと長編が1つ。
短編のうち1つは『ハイドランジア・マクロフィラ』というタイトルの、紫陽花をイメージした切ないお話です。
もう1つは『ニュートラル・ロード』というタイトルの、自動車教習所を題材にしたホラーで怖い展開なのになぜか笑えるという異色のある意味僕らしい作品です。まだWeb小説の右も左もわかっていない時期のものです(今もべつにわかってないけど)。
長編は『眠らない空想家』というタイトルで、僕が好きな森博嗣さんの『笑わない数学者』をもじってつけました。メタフィクションを前面に押し出した内容。今は非公開にしてあるので、以下に簡単なあらすじを書いておきます。
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ある日主人公の高校生の少年のもとに不吉なメモが届く。それは主人公の「弟が死ぬ」というものだった。
主人公はゲーセンで弟と一緒に遊んだ帰り道で、弟とはぐれてしまう。そして弟を見つけた時、弟は雷に打たれて死んでいた。主人公はショックを受ける。
人為的な死に方ではない。メモを書いた人物はどうやって弟の死を予言したのか。
再び主人公のもとに謎のメモが届く。指定された時刻にクラスメイトの女子が危険に遭うというものだ。
弟のことがあったので、主人公は今度はその運命を阻止しようとする。二人きりになれるチャンスもないので、とくに仲の良いわけでもないその女子をみんながいる前で「一緒に帰ろう」と誘う。周りからも女子からもいろいろ勘違いされてしまうが、もう自分の前で人が死ぬのは見たくない。
二人で公園にいる時、女子が不審者に襲われてしまう。主人公は殴られて倒れ、女子は公園から逃げ出す。逃げた先で不審者が車に轢かれ、女子は助かった。主人公はメモを書いた謎の人物に手の平の上で転がされていることを知った。
主人公は謎の人物に厳しい二択を迫られる。自分の親友の男子とこの前助けた女子がやがて死に至る毒のような呪いに犯され、解毒剤は一つしかない。一人は助けられるが、一人は見捨てなければならない。
親友と女子は覚悟を決めていたが、しかし主人公はどちらも選択しなかった。根本の原因である謎の人物を見つける方法を探り、ついにその手段を思いつく。
謎の人物はまるで神のように自分たちの運命を操った。そして幾度となく主人公たちは物語の登場人物であるということを伝えてきた。
主人公たちは自分たちに接触してきたある小説家のもとに行く。その小説家は、謎の人物が何者であるかを知っているようだった。その謎の人物は、小説家が書いた物語の登場人物、つまりフィクションの中の人間なのだ。
そして小説家は新たに物語を書く。主人公がその謎の人物のいる世界に赴くという描写を。
物語の通りに主人公は世界を移動した。無数の本が保管されている空間、そしてその先にチャペルのような場所があった。
そこに綺麗な女がいた。その女が、弟を殺し自分たちを散々な目に遭わせてきた人物だった。
女は自分を殺すよう主人公に促した。しかし主人公は持っていたピストルの引き鉄を引かなかった。
女はアンドロイドだった。女には主人がいた。とうの昔に亡くなった主人。
それから女はずっとこの場所で一人暮らしてきた。主人を真似て物語を書くようにもなった。
女はもうこれ以上孤独に生き続けることをやめたかった。しかし自害できないよう主人にプログラムされていた。それは主人の愛だったが、それが女を苦しめ続けてきた。だから女は自分を殺してくれる者を物語を紡ぐことで作り出した。自分に殺意を向けさせるように、その者から大切な人間を奪った。
物語は書き換えることができる。主人公の弟が死なない物語に書き換えられる。しかしそうすると、主人公が今この場にいる事実も消え失せる。
主人公は女にさよならを告げた。そして女はようやく深い深い眠りについた。
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ちょっと長くなってしまいましたが、だいたいこんなような感じだったと思います。フィクションとフィクションがループしているような話ですね。ストーリー的には悪くないと思いますが、何か強い引きが欲しいかなという気はします。このころは読者ターゲットも定まってなかったですし。
初日にこの3つの作品を投稿し、カクヨムでいろいろ勉強させてもらいながら過ごし、優秀賞をもらった「5分で読書」の作品を書いたりしながら、1年後の第6回カクヨムコンで『殺戮のダークファイア』というタイトルの作品を書きました。凄惨な場面も多々あるダークファンタジーですが、この『殺戮のダークファイア』は僕が初めて自分が満足できる仕上がりになった作品です。この作品を書けた経験がすごく大きい。長編を1つ書き上げるまでに何が必要なのか、準備や心構えなども含め、ようやく答えを見つけられた気がします。それまでは長編を書き始めても途中で挫折してしまうことが非常に多かった。だけど『殺戮のダークファイア』を書けてからは、『銀翼の絆』『アカシャ・アニマ』『日常メモリアル』と、100%の確率で作品を完成させることができるようになり、自分の中ではクウォリティも伴うようになりました。
朝起きた時急に浮かんだ「USBメモリ」というワードから、僕の作品に関するちょっとした思い出を書いてみました。