夕と依音こんな感じ

あ……今、なにか光った気がする。
流れ星かな?

ぼくは、流星群を見ている。
見ている、のだろうか。
ぼやけている紺色の空を眺めているだけ、と言うほうが正しい。
カメラには、なにか映るだろうか。

―カシャ

映した写真を見てみても、ぼくには紺色が広がっているだけにしか見えない。
周りにいる、流星群を見に来た人にはこれが“綺麗”に見えているらしい。
わからない。
ただの、紺色だし。

いつもは、親友の連絡に左右されないのに、今日はなぜか信じて来てしまった。
最近は、ぼく自身が撮りたいものに出会えていないからだろう。
机にあるメモには、そう書かれていたから、そうなのだろう。
ポケットで震えるスマートフォンを取り出し、メッセージを開く。
親友からだ。

「よォ、いず(にこ手
今日は、流星群(流れ星)が降るらしいぞ(おどろき
見(目)に行って(走る、空気)くれば❓」

ぼくが、ここへ来る原因のメッセージだ。
一度は断った。
だって、ぼくには星が見えないのだから。
来ても意味がないと、そう言った。
親友はぼくの言葉を無視して続けた。

「すごくイイモノ(宝)が見つかる(おどろき)カモヨ!」

その下に、新しい文が送られてきていた。

「いずが、いるトコから左(手)に進み(歩く)続けると、静かナ(しー)トコあるんだヨォ😎」

静かなところ。
ぼくはうんざりしていた。
周りは流星群を見て、話す声ばかりだからだ。
だから、静かなところがあるというのなら、そこに行くしかない。
ぼくは、メッセージ通り、左側へ進み続けた。
進んで行くと、静かな場所に辿り着いた。
親友が言っていたのが、ここかどうかはわからないが、静かで人が来なさそうな場所であればどこでもいい。

ここなら、ゆっくり写真を撮れ―

「雪!こっち!って、あぁーっ!流星群始まっちゃってるよ!いそげー!」
「まって、夕……!走ったら危ない……!」
「わぁ……雪、見て。すっごく…….」

―綺麗。

ぼくは目が離せない。
ぼやけた視界の先にいる、誰かから。
無意識に構えたカメラを、一度胸元で留める。

「写真、撮ってもいーい?」

ぼくの視界の先にいる二人は、目を合わせ、どうするか悩んだ。
そもそも、自分たちに言っているのかすら、自信を持てていないように見える。
ぼくは、改めてちゃんと頼もうと、一歩踏み出す。
しかし、ぼくが言葉を発する前に、一人の少女が言う。

「いいですよ!雪もいいでしょ?」
「えぇ…?本当にいいの?」
「だって、このおにーさん?でいいのかな、まぁ、おにーさんすごい良さそうなカメラ持ってるし!すごい写真撮ってくれると思う!」
「……夕が言うなら、いいよ?」

話し合いが終わったのか、夕、と呼ばれている方の少女がこちらに身体を向け、ぼくに言った。

「雪も良いって言ってくれたので、お願いします!おにーさん」

ぼくは、それに頷き、「ぼくに任せて」と、返した。
しばらく、動かない二人の少女。
記念撮影のようなものだと思っているのだろう。

「どこに立ってればいいですか?」

ぼくが撮りたいのは自然体な写真だ。
だから、そんなにカメラを意識されると困る。
ぼくは、二人の少女にお願いをした。

「自然体?いつも通りにしていてほしいってことですか?」
「そう。ぼくなんていない人だと思って」

そう言っても、人がいること、カメラを向けられていること、ないものだと思うのは難しいらしく、数分ほど、写真を撮れない時間が続いた。
星を見ていても、ちらっとこちらに顔を向けていたり、「写真撮れてますか」と声をかけてきたり。
数十分は、そんな感じでカメラを構えることは出来なかった

いつまで経っても、ぼくが写真を撮らないからだろうか。
二人は、ぼくを気にすることなく、星を見始めた。
星座を探す声、流れ星に興奮する声、「綺麗だね」と、星を見つめる声。
無釉

ようやく、ぼくの撮りたいものが撮れる。

カメラを構え、一枚、二枚と、少女たちを映す。
ぼくの目に映る二人の姿は、ぼやけている。
しかし、カメラはこれをハッキリ映してくれているのだろう。
「あ、夕。」「雪、見て!」
「「一番星だ」」
うん。すごくイイモノがなにかわかった。
これだ。

「夕、流星群ってさっき終わらなかった?」
「また始まるんだ!」

少女たちの言葉に、ぼくも空を見上げる。
紺色に、数個光を感じただけ。

「おにーさんも見て!また、星が降るよ」
少女はこちらに顔を向ける。

写真を撮られていることなど忘れていたと言わんばかりに、大きく開けられた口は、ぼんやりとしたぼくの視界からも伝わってきた。

それも一瞬で、少女はすぐに顔を上へ向けた。
どんな表情で、どんな感情で、どんな想いで見ているのか、なぜか気になってしまう。
どうしてだろう。
知りたいと、思ってしまう。
静かな時間が続いた。

夢中になっているのだろう。

少女の目には、無数に降る星が映っているのだろう。
「すごかった……おにーさんも、見てましたか?」
「うん」

ぼくが見ていたのは、星に夢中な少女だったけど。
「あ、そうだ。どんな写真、撮れたんですか?」

ぼくが、撮った写真を見せると、少女たちは思い出に浸る。一枚づつ丁寧に。

「うわ、私の顔間抜けだ…….」
「夕が間抜けな顔してないことある?」
「あるわ!」
「雪は写真映えするね~。ずっと綺麗」
「急に褒めないで。照れる」
「おにーさんの写真めっちゃ綺麗。でも、たまにピント合ってない」
「暗いとピント合わせにくいのかも」

「あ、これ。雪と一番星見つけたやつじゃない?」
「ほんとだ。すごく、良い写真だね。今まで見た中で一番好き」
「うん!私も、雪と同じ気持ち。この写真が一番好き!」

ぼくも、その写真が一番好き。
声には出さずに、同感した。

思い出に浸る声を、邪魔したくなかったから。
ぼくの写真で、こんなにも幸せそうにする優しい声を聞けたことが、嬉しかった。
「おにーさん。写真、ありがとうございます。大切にします」

カメラを少女から受け取り、ぼくの撮影会は終わりを告げた。

「こちらこそ、撮らせてくれてありがとー」
少女たちは、深く頭を下げ、帰っていった。
あっさりと、別れが来た。

まだ、見ていたかったな。

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