あさまひ(書き途中)

 バスの窓から覗く景色は、私の住む都会とは違い建物が少なく、第一印象は“緑の多い町”だった。
並ぶ建物も、私が住む地域とは見た目が違う。
見慣れた三角屋根はなく、最近増えてきた、平らな屋根が多くある。 
緑が満遍なく町を包み込んでいる。
 そんな自然豊かな地に、バス座席の窓横にある“とまります”ボタンを押すと同時に、前に見えるモニターには、停まりますと表示された。
数分窓の外を眺めていると、先程見ていた自然豊かな景色を残しつつも、ちらほら建物が見えてくる。
 バスは三段壁に停まり、私はバスから降り、久しぶりに感じる外の空気を目一杯身体に取り込んだ。同行している親友の心寧は、隣の席で気持ちよく寝ていたところを起こされ、不機嫌と言わんばかりの顔を見せた。歩道の端に移動し、大きく欠伸をする心寧の欠伸が移り、私も欠伸をする。
 私は辺りを見渡す。古びた建物が数件と、宿屋宿泊専用の駐車場がある。後は、何処を見渡しても緑が生い茂っている。やはり田舎のような印象を受ける。
 どれも、写真で見た輝きを見受けられなかった。

 「あたしはここら辺少し見てから行きたいとこ行くね〜。まひろんは直行すんの?」

 心寧が私の肩を叩き、声を掛けてくる。毎回思うが、心寧は力が強い。それもゴリラのように。
こんなことを言えば、心寧は私をこの地に差し置いて、北海道へ戻ってしまうだろうから、出かかった「力強い、ゴリラか」を、飲み込んだ。そして、一息つき、心寧にこれから私のすべきことを伝えた。

 「直行というか、まずは探すところから。私は旭陽くんの家も、家の周辺も知らないから」

 私は探さなくてはいけない。目的を達成するためには、この白浜町を渡り歩くしかない。と言うものの、私は歩き回ることに対しては、慣れているので苦には思っていない。むしろ、これで見つけることができれば、驚いた顔が見れる。むしろ楽しみだ。
 絶対見つけるぞ、と気合に満ち溢れていると、少しボサボサになっている髪の毛を、軽く整えながら心寧は言う。

 「住んでるのがこの町ってことしか知らないで来るとか、相変わらずまひろんの行動力はすごいね」

 確かに町だからと言って、何の情報もなく来たので、心寧に言われたことに対し、言い返すことができない。町であったことに感謝をするしかないと思う。
 しかし、私が探す人は行く場所を決めてしまえば会えないような人なのだ。目的を持って会うことは、なかなか難しい人だ。
 考え込み、その場で立ち尽くしていると、心寧は「まぁいいや」と、言葉を続ける。

 「じゃ、あたしは和歌山満喫してくるね〜。ホテルにちゃんと来るんだよ?」

 恐らく彼女が言いたいのは、「お泊まりなんてするんじゃないよ」ということだろう。
一体どうしたらそうなると思うのだろう。心寧の言葉に呆れながらも、私は返事をする。

 「大丈夫。ちゃんと行くよ」
 「うん。ほいじゃ、まひろんは小鳥遊に会えるといいね。」

心寧の言葉に、私は深く頷いた。会えなければ、和歌山まで来た意味がないからだ。

 「また後でね〜」
 「うん、またあとで」

 手を振り、小走りで立ち去る心寧に、私も手を振り返し、後ろを向いた。
 私が和歌山に来たのには、一つの目的がある。「会えるといいね」それが答えだ。私は人に会いに来たのだ。
 とりあえず私は、駅の周りを漫ろ歩き、賑わう公園を横切る。そこで、私は立ち止まる。私目線を少しだけ上へ向けと、美しいという言葉がよく似合う景色が、私の瞳に映り込んだ。視界いっぱいに咲き誇る満開の桜は、私を離さまいと、心を掴んでいる。私と同じように、桜に心を奪われる人たちの声が、通り過ぎて行く中、私は動くことさえ許されず、その場に立ち尽くしていた。
 十分程、桜を見ていたようだ。地元は、ここ程空気の美味しい環境ではない。だから、桜がこんなにも多く美しく咲いているの、忘れたくない大切な景色として、私は目に刻みつけていた。再び、人探しを再開しようと、桜に背を向ける。
 ここに居ないのなら、彼はどこにいるだろうか。
私の勘ではあるが、彼は私が行く先にいる。
良い景色を見つけると、すぐに飛び出してしまう彼の隣を歩いていたのは、私だったから。彼の足取りを身体は自然と覚えていた。
 バス停の近くは、あまり建物が見えなかったが、歩いているとちらほら綺麗な建物や古びた建物が並んでいる場所があった。私はそこに行くことはなく、避けるように反対方向へと足を進めた。
途中、猫がすり寄ってきたので何枚か写真を撮った。白と黒が浮き出る模様が可愛らしかった。野良猫とは思えない程の人馴れしていて、痩せ細っているということもない猫だったが、その理由はすぐにわかった。           
 猫が人々の横をすり抜けると、「くろ」「しろくろ」「やまだ」「はく」など、猫は色んな名前を持っていた。人馴れしていたのは、この地の人々が猫に優しくしていたからだと分かり、ここは素敵な場所なのだろうと感じた。私は猫に、「またね」と手を振った。猫は、それに応えるように「にゃー」と鳴いた。
 道の先には、綺麗な道には似合わない、木製の古びた建物が見えた。近づくと、看板がかかっており、そこには掠れた文字で、“だがしや”と書かれていた。駄菓子屋の前に並ぶお菓子は、どれも小さい頃に買ってもらったようなものばかりだった。

 「懐かしいな」

懐かしさに浸っていると、カラカラと、ドアを開ける音がした。

 「いらっしゃい」

後ろから声をかけられ、身体が跳ね上がる。恐る恐る振り返ると、まだ若そうなお兄さんが立っていた。

 「君、ここいらの人じゃないね?」
 「…そうですね」
 「どっから来た?」

北海道から来たと答えると、お兄さんは目を大きく見開いた。「わざわざ北海道から」と、呟くお兄さんは、到底信じられないとでも言いたげに、顎に手を当てた。

 「まぁいい。外だけじゃなく、中も見ていってくれ」

そう言うお兄さんの表情は、どこか寂しさを感じさせた。お店の中へ入るお兄さんの後ろを着いて行く。
 中に入ると、木の香りが私を迎えた。外側とはまた別の駄菓子がたくさん並べられている。私の住む場所にはないもの、スーパーでも売られているもの、今となっては見なくなってしまったもの。並べられた沢山の駄菓子に、私は懐かしさを感じた。

 「君、好きな駄菓子持ってっていいよ」

お兄さんは、お店の中に入り込んだ土を、箒で掃きながら言う。私は真っ先に、お金を払わないといけないと思ったが、お兄さんはじっと私を見つめもう一度言った。

 「好きなの持ってっていいよ、金はいらん」

そう言うのなら、私はお言葉に甘えることにした。見知ったものを三個、初めて見たものはほとんど手に取った。
 私が駄菓子を選び終えると、お兄さんはぽつりと呟いた。

 「二日前くらいか、君と同じぐらいの兄ちゃんが来たんだよ」

 あぁ、なぜだろう。私はその人を知っている気がする。不思議だ。私と同じくらいの人は、沢山いるはずなのに。

 「カメラ持って、店ん中撮ってたわ。最後に駄菓子もたんまり買ってったけどな」

 眉を寄せていたが、それは嬉しさを表す笑顔なのだと感じ取る。「買いすぎな気もするけどな」お兄さんは、さらに言葉を続けた。

 「私、その人知ってます。すごい写真家です」

お兄さんは、「そうね」と相槌を打った。その後は特に会話はなく、沈黙が続いた。だが、それが心地悪く思うことはなく、私は、駄菓子を追加で購入した。
 その際も、お兄さんは「金はいらないのに」と言ったが、お礼を含めなので受け取って欲しいと頼み込んだ末、お兄さんが折れた。笑いながら「譲らんねぇ、君は」と言われたので、「すごく頑固で負けず嫌いなので」と返した。お兄さんは、私の言葉で納得したように頷いた。
 私が駄菓子屋の外へ出ると、お兄さんは手を振る。やはり、ここは優しい人たちが作り出した、温かい地なのだと再度思う。ここにいれば、何度でもそう思うだろう。

 「またな、写真家の兄ちゃんによろしく」
 「ありがとうございます、また、いつか」

また会う日は来るだろう。いや、今度は彼と一緒に来よう。
 そして、私はまた歩き始める。ほんの数時間しかいないのに、既にこの地の虜になっている私がいた。
彼が言う通り、「凄く優しくて居心地のいい所」だ。
 しばらく歩いていると、カシャカシャと、カメラのシャッターを切る音が聞こえてきた。音の源を確認する為、カメラを持つ人物を見る。
 寝癖で一部跳ねた髪、服はお気に入りと言って、よく着ていたベージュのカーディガン。カメラも、ずっと使っている一眼レフを構えている。
私は、何を撮っているのだろう、と思いつつも彼の横に立ち、声を掛けようとした。だが、彼の向けるカメラのレンズの先に、四葉のクローバーが見えた。

 「何撮ってるんだろーって思ったら、四葉のクローバーだ。よく見つけたね」

 四葉のクローバーに気を取られた私は、「久しぶり」、「こんにちは」、「元気にしてた?」、何度か心の中で練習した挨拶をそっちのけにして、しゃがむ彼の隣に、私も腰を下ろし尋ねていた。

 「へ?…まひろ?」

目を見開きこちらを見る彼。私がまひろだと気づいてくれたことに嬉しさを抱えた。声に、顔に、態度にそれが出ていないか気にしながら、平常心を保つ。

 「久しぶり、旭陽くん。よくわかったね、まひろだよ」
 「久しぶりっていうかなんでこっちに?よくわかったねって…声でわかるよ」

彼は続けて、「二日前にも聞いてたんだから」と付け足した。二日前、私はなかなか眠りにつくことができなかったので、彼に「寝たいからなんか喋って」と、無茶振りをした。確かに二日前に聞いた声が、二日後である今聞いたところで、低くなることも、高くなることもなかなかない。それでも、わかってもらえるのは嬉しかった。
 猫背気味なのも、寝ぼけ眼なのも彼は変わらなかった。強いて変わったというのなら、身長が伸びて、少し声色が明るくなったことだろうか。
 「旅行かな、心寧と来たの。私の目的は一つしかないけど」
“心寧と”
 彼はそこに注目したのか、小さく呟いた。

 「確かにまひろは、計画なんて立てれないし、一人ではないか」

彼の言う通りだ。実際、全体の計画を立てたのも、飛行機やバスの時間も、全ては心寧が決めたことだ。日付は互いに都合のいい日を選んだが、それ以外、私は心寧に「どこか行かないの?」と聞かれても、「旭陽くんに会いに行くだけだから」の、一点張りだった。そんな私に呆れることなく、計画を進めてくれたのは、心寧が“まひろはそういう奴”というのを、よくわかっているからだろう。
 私は「心寧がいなかったら来れなかった」と言う。
すると、彼はふっと吹き出し、「自慢気に言えることじゃないよ」と返した。

 「そう言えば、その目的って、もしかしなくてもけ僕?」
 「正解」

私が迷いなく返すと、彼は視線を私から外し、「そっか」と言う。私は「そう」と返す。何度か、「僕か…」と、彼が呟くのが聞こえてくる。私はそれを聞く度に、「そうだよ」そう、彼よりも小さな声で言った。
 少し落ち着いたのか、彼は外した目線を戻し、再び口を開く。

 「ていうか、髪の毛切ったの?なんで」

 特に理由はないが、私は少し格好つけ返した。

 「なんで?そうだな〜…まひろらしさ?」
 「似合ってる。中学生の頃思い出すね。」

中学の頃も、私は今と同じくらいのボブだった。でも、私の髪が短かったのはその頃だけだ。その後は、なんとなく髪をずっと伸ばしていた。邪魔だったが、両親には「そっちの方が可愛らしくていい」と、言われた。嫌だったはずなのに、私は両親の言葉に従っていたのだ。
 髪を切った理由は、両親の言う通りに、髪を伸ばしていた自分に嫌気が差し、自分でバッサリ切ったのだ。その後は、美容室に行き、毛先を整えてもらった。格好良く、昔の私らしさが戻ってきたと言っても、過言ではないと思ったのだ。
 その後も、彼は私に質問を投げかけた。
 「ところで、大学は?」、「なんで、僕がここにいるってわかったの?」、「僕に会いにきたって、なんで?」
数多くの質問に対して、笑みが溢れた。
 「旭陽くんは、質問が尽きないね」
 私は、彼に「だって」と言葉を遮られる前に言う。
今は春休みだということ、なんとなく、旭陽くんがいそうだなと思ったところを渡り歩いていたら、たまたま見つけたこと。二つ目までは質問に答えたが、三つ目の会いにきた理由を、「教えない」と、私は言った。
旭陽くんは、「そっか」と言うが、声のトーンが落ちていたように感じた。しかし、次に言葉を発する時には、落ちたトーンは戻っていた。
 「なんの情報もなく、僕を探して歩いてたの?」
 彼が何処にいるかまで、目的として示してしまえば、見つからないじゃないか。
 旭陽くんは、目的に沿って道を行くのが苦手だった。それは、集団行動などが関係しているわけではなく、単純に「写真を撮るって目的を達成したい」ただそれだけだと言っていた。だから、私が彼を探すのも、目的を持っていれば見つかるはずもないなと思ったのだ。
 「うん、LINEで聞いたらバレちゃうでしょ?驚かせに来たのに」
 「そう、なのかな?」
 「そうだよ」
 「まひろ、友達と来てるんでしょ?一人で行動してて良いの?」
 「一人で聖地巡りに行った。まひろにはやることがあるだろうし〜って、どっかに行った」
 「そうなんだ」

 「ねぇ、まひろ」
 「なに?」
 「せっかく来たのに、どこか出かけるとかしないの?」
 「しない。私は旭陽くんに会いに来ただけだから」
 「それなら、僕が案内してもいい?この町を」
 「楽しそう、いいよ。案内して」
 「あと、まひろのこと撮らせて欲しいんだけど、いい?」
 「いいよ」
 私は一つ思いつき、スマホを取り出した。カメラアプリを開き、内カメラにする。旭陽くんの隣に行き、画面内に私と彼が収まるように調節する。私が画面に触れると、カシャッと、シャッターを切る音が鳴る。
私は少しぎこちない笑みをしていて、旭陽くんは驚きを隠せない表情をしていた。
 何とも言えない面白い写真が撮れたと、私は笑って彼に見せた。まだ、写真に映る顔と同じまま固まっている彼に、「おーい」と呼び掛ける。瞬きをした後、彼はようやく口を開いた。
 「びっくりした」
急に写真を撮り、驚かせてしまった事に対しては「ごめん」と謝罪した。彼が「大丈夫」笑ってそう言った所で、私は言葉を続けた。
 「でも、旭陽くんにこんなこと頼んでも、渋られそうだなって思ったから、こうした方が早いかなって」
 「撮りたいってこと?」
わざわざ言い訳のように言葉を繋げても、結局私の言いたかった事は、彼が言った「撮りたい」ということだ。「そういうこと」と、私が言った瞬間、隣から笑い声が聞こえてきた。
 「なんだ、そんなことか」
笑って言う彼の姿が、愛おしく思えて、私は彼にスマホを向けた。
画面に映る彼に向けて、シャッターを切った。
 「えっ、今写真撮った?」
 なんで?と続ける彼の質問には答えず、話を逸らした。
 「撮る側は、撮られるのに慣れてないの?ずっと驚いてる」
 からかい程度の目的で言った言葉だったが、やけに静かになり、視線を地面へ向ける彼は、悲しそうな声で言葉をを溢した。
 「僕、あんまり写真映り良くないからさ…」
 そんなことないのに。
 私は、真っ先に撮った写真を見ながら心の中で思う。旭陽くんが笑ったら、周りが明るく見える。写真に映る彼も、明るく照らされている。綺麗で、そのくらい、素敵なのに。
 彼にこの気持ちを伝えるには、どうしたら良いだろう。
 伝える方法は考えずとも、答えはすぐに出た。
 「わかった。じゃあ、旭陽くんが私を撮るなら、私も旭陽くんを撮る」
 私は決めた。旭陽くんが綺麗ということを証明して見せると。
 「いいよ?まひろみたいに綺麗な写真になるかは、保証しないけど…」
 「私が証明するね。旭陽くんは綺麗だって、カメラ借りてもいい?」
  言った後に、流石にカメラという高価なものを易々と借りていいか聞くのは、いけないことだと反省する。
 「やっぱいい、スマホでいい」
返事を聞く前に、私が言い直すと、彼は言う。
 「いいよ、カメラの使い方はわかる?」
あっさりと言われた。そんなあっさりと、カメラを預けることを許されるとは思わなかった。ずっと、「カメラは僕の眼だ」って言ってたのに、私には貸してくれるんだ。
 「カメラの使い方はわかるよ。中学の頃に、旭陽くんに教えてもらったの、覚えてるから」
 「覚えててくれたんだ。でも、わかんないことあったら聞いて。教えるから」
 「うん、ありがとう。最初はどこに行くの?」
  旭陽くんは、考える間もなく言う。
 「まひろ、お腹空いてない?」
そう言われると、飛行機でお弁当を食べた時から、かなり時間が経っていた。旭陽くんを探している間は、無我夢中だったせいか、空腹を感じる事は無かった。
しかし、旭陽くんの言葉で、空腹を感じ始めたところで、ぐぅ〜、とお腹の音が鳴った。
 「返事が分かりやすくて良いね」
 「ね、分かりやすい。お腹空いたなぁ」
特に恥ずかしいとは思っていない素振りを見せたが、旭陽くんの前では鳴らないで欲しかった。
周りが静かだったのも、不運だったと思う。
 「僕の行きつけの喫茶店があるんだ。まずはそこから行こうか、まひろ」
 「うんっ」
行きつけの喫茶店。どんなところか気になるが、雰囲気は何となくわかる。
きっと凄くオシャレで優しい場所だ。

  喫茶店に行く手段は徒歩だ。
旭陽くんは、昔から歩くのが好きだった。
 「やっぱり、旭陽くんは歩いて来てたんだね」
 「そうだよ。車とか、自転車使うと、凄く良い景色見逃しちゃうから」
これは、昔から彼が言っていることだ。
 「知ってる」
 「旭陽くんさ、今日、他にはどこに連れて行ってくれるの?」
私が聞くと、彼はバツが悪そうな顔をした。
 「実は行きたいところは、今から行く喫茶店と、桜が綺麗に咲いてる公園しかないんだ」
 ——桜が綺麗に咲いている公園。
私は恐らく、既にその場所を見ている。
だからなんだという話だ。旭陽くんと見る桜は、最初に見た時より何倍も美しいだろう。
 「北海道じゃまだ見れないけど、こっちは咲いてるもんね」
彼は、「そうだね」と相槌を打つ。
 しばらく歩いていると、白い外観の建物が見えた。
 「着いたよ」
 「綺麗なところだね」
 「入ろっか」
 「うん」
 喫茶店へ入ると、美味しそうな香りが私たちを包み込む。リンリンとベルの音と、喫茶店内から聞こえる「いらっしゃいませー」の言葉が私たちを迎え入れる。
 「お、小鳥遊少年、いらっしゃい」
そう言ったのは、茶色い髪の中に白い毛が見える女性だった。顔をよく見てみると、とてもじゃないが白髪が生える年齢とは思えない、綺麗な顔立ちをしていた。

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する