夕 「ねぇ!雪!見て」
雪 「来た甲斐があったね、すっごく綺麗…」
夕 「ほら!望遠鏡立てよう?」
雪 「そうだね」
依音「ねー、そこのおふたりさん」
雪 「はい…」
依音「すごく、良い写真撮れそう。だから、撮ってもいい〜?」
夕 「えっ、私たち?いいんですか?」
依音「うん。ぼくはきみたちのことを撮りたい」
雪 「どうする?夕」
夕 「雪がいいなら、私は是非!」
雪 「それじゃぁ、お願いします」
依音「うん、ぼくのことは気にしないで。さっきみたいにしてて」
すごく良いものが撮れる気がした。
ラックが「今日すっげー星が綺麗なんだとさ!✨ゐ豆、撮りに行ってくれば〜?👋」
と、連絡をくれた。
ぼくは一度迷った。夜は、綺麗な星が見えようとも、不安の渦がそこら中にあるから。
そして、ぼくに星は見えないから。
結局は、好奇心に負けていた。
ラックの言う「綺麗な星」が、ぼくにとっても綺麗な星なのか、それだけが知りたかった。
よく、亡くなった人は星になるとかいうけど、あんな遠くにあって見えないものになられても、ぼくは見つけられないと思っている。
その、ちっぽけな光を、ぼくの目はぼくに見せてくれないから。
でも、今ぼくは星を見ている。
真っ直ぐ伸ばした腕は、流れ星のように藍色をなぞる。
なぞって落ちた先は、地面ではない。
どこまでも広がる、藍色だった。
「ねぇ!雪、今光った!絶対光った!!!流星かな?!」
「わかんない、私見てなかったから…」
「今日って何日?そろそろ水瓶座η(エータ)流星群見れる時期じゃない?」
「ちょうど今日だよ」
「え、今何時何時?!」
「もう見れると思う」
ぼくの記憶に残らないだろうけど、この日の夜空は明るく感じた。
きっと、あの子たちのいう流星群なんだろうけど、ぼくには、あの子がいたからそう感じたようにしか思えなかった。
数日後、カメラに残った写真を見ていると、顔は映っていない女の子が二人と、望遠鏡が写っている写真があった。
なんだろう、忘れたくなかったような気がするけど、思い出せないし良いや。
でも、良い写真。
それだけ思って、ぼくはカメラを仕舞った。
ラックは定期的に「星⭐️綺麗ダヨ!✨見👀に行って🏃💨来なよ👋」
と、連絡をくれた。
なんで毎回伝えてくるの?
ぼくがそう聞けば、
「ゐ豆の一番星を見つける良い機会カモ!って、オレが思ったからダヨ!」
見えないって、言っても、ラックはやめなかった。
ぼくに、一番星を探させた。
「一目惚れだったのかも。何年も前のことだからおぼえてないけど」
数年経った今、ぼくは思った。
あの日、誰よりも綺麗に見えた子がいた。
ぼやけた世界の中で、はっきりと線がぼくの目に映って見えた子がいた。
きっと、よく使われる言葉を並べるのなら。
——ぼくは心を奪われていた。
もう一度会いたいと、またあの丘の上で夜空を指差し何かを訴えかけるように、何度も何度も「見て」と、声を弾ませるあの子に、ぼくは会いたい。
恐らく定期的に来ている公園の丘。
そこで、ぼくはまた空を見上げた。
相変わらず何もわからない。星が綺麗な理由も。ぼくがここに来続ける理由も。
「あの、結構前に写真撮ってくれた人、ですよね?」
「きみがいうなら、そうなのかも〜」
「絶対そうですよ!」
「ぜっ、たい…」
「うんっ!」
明るい女の子の声が聞こえる。
ボブくらいの長さの髪が、風に靡いている。
「星、好きなんですか?」
「ううん」
嫌いとは言えなかった。
望遠鏡を持つこの子は、きっと星が好きだから。
「私は好きです。星、大好きで、親友と一緒に天体の研究してて!」
「そっか〜」
興味を持っても、数日経てば忘れてしまう。
それがぼくだから、そっけなく返した。
そんなこと昔はしたくなかったのに、今では平気でするようになってしまった。
「星、好きですか」
もう一度投げかけられる質問に、ぼくは戸惑った。
「どちらかといえば、きらいかも〜」
「そうなんですね」
「でも」
あの子のことは好きだったかもしれない。
覚えてないけど、なぜかそう思うことがよくある。
好きだったのかもしれないって、なんだよ。
「おにーさん、不思議な人だね。初めましての頃から思ってたけど」
「そうかなぁ〜」
「うん、星嫌いなのに、星がよく見えるこの丘に来てる」
あの子に会って知りたいから。
「この気持ちがなんなのか、知りたいから。ずっと来てる、会いたい子がいて」
「え〜!おにーさんそれ恋じゃない?!」
「しらなーい、ぼく、そういうのわかんないから」
「おにーさん見て!」
唐突に話が変わる。この子と話していると定期的にそうなっていた。
指をさされた方を見る。
ぼやけた藍色だ。
いつものやつだと、視線を落とした先に、きみがいた。
「うん、なんか、わかった気がする」
「え?」
「頼みがあるんだけど、いい?」
「なんですか〜?内容によります!」
見ず知らずの人の頼みを聞くなんて、そうも思うけど、今回は良かったとも思う。
頼めるの、きみしかいないから。
「ぼくの名前は依音。ゐ豆(いず)とも呼ばれてる。」
「依音さん、いず…?」
「きみの名前」
“萩原夕”
「頼みっていうのは、ぼくの名前を覚えててほしい、それと、また会った時には萩原夕って言って欲しい」
意味のわからないことを頼まれたであろうに、女の子は一切迷いのない言葉で返答した。
「良いですよ!おにーさんのこと覚えておきます」
「うん、約束」
「約束〜!次会える時はいつかな、また会いたいです。もっとおにーさんのこと知りたいかも」
「ぼくも、知りたいって思ったから、約束守ってね」
丘の上、藍色の下で交わした約束を、ぼくはまた忘れてしまうけど。
「依音さん!私、萩原夕と申します!」
「はぎわら、ゆう?へぇ〜、ぼくのこと知ってるの」
「ええ、約束しましたから。」
「なんか、ここに来てた女の子がいて、その子に会いたくて」
「会えますよ」
「そっか、じゃあ、また来ようかな」
「また会えた先で、待ってます。」
必ず会いに来ます。
女の子の言葉は、重たく、決意で固められたものだった。