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藍瀬

  • @aise_ototomo
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say_serori
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  • 10月14日

    夕と依音こんな感じ

    あ……今、なにか光った気がする。 流れ星かな? ぼくは、流星群を見ている。 見ている、のだろうか。 ぼやけている紺色の空を眺めているだけ、と言うほうが正しい。 カメラには、なにか映るだろうか。 ―カシャ 映した写真を見てみても、ぼくには紺色が広がっているだけにしか見えない。 周りにいる、流星群を見に来た人にはこれが“綺麗”に見えているらしい。 わからない。 ただの、紺色だし。 いつもは、親友の連絡に左右されないのに、今日はなぜか信じて来てしまった。 最近は、ぼく自身が撮りたいものに出会えていないからだろう。 机にあるメモには、そう書かれていたから、そうなのだろう。 ポケットで震えるスマートフォンを取り出し、メッセージを開く。 親友からだ。 「よォ、いず(にこ手 今日は、流星群(流れ星)が降るらしいぞ(おどろき 見(目)に行って(走る、空気)くれば❓」 ぼくが、ここへ来る原因のメッセージだ。 一度は断った。 だって、ぼくには星が見えないのだから。 来ても意味がないと、そう言った。 親友はぼくの言葉を無視して続けた。 「すごくイイモノ(宝)が見つかる(おどろき)カモヨ!」 その下に、新しい文が送られてきていた。 「いずが、いるトコから左(手)に進み(歩く)続けると、静かナ(しー)トコあるんだヨォ😎」 静かなところ。 ぼくはうんざりしていた。 周りは流星群を見て、話す声ばかりだからだ。 だから、静かなところがあるというのなら、そこに行くしかない。 ぼくは、メッセージ通り、左側へ進み続けた。 進んで行くと、静かな場所に辿り着いた。 親友が言っていたのが、ここかどうかはわからないが、静かで人が来なさそうな場所であればどこでもいい。 ここなら、ゆっくり写真を撮れ― 「雪!こっち!って、あぁーっ!流星群始まっちゃってるよ!いそげー!」 「まって、夕……!走ったら危ない……!」 「わぁ……雪、見て。すっごく…….」 ―綺麗。 ぼくは目が離せない。 ぼやけた視界の先にいる、誰かから。 無意識に構えたカメラを、一度胸元で留める。 「写真、撮ってもいーい?」 ぼくの視界の先にいる二人は、目を合わせ、どうするか悩んだ。 そもそも、自分たちに言っているのかすら、自信を持てていないように見える。 ぼくは、改めてちゃんと頼もうと、一歩踏み出す。 しかし、ぼくが言葉を発する前に、一人の少女が言う。 「いいですよ!雪もいいでしょ?」 「えぇ…?本当にいいの?」 「だって、このおにーさん?でいいのかな、まぁ、おにーさんすごい良さそうなカメラ持ってるし!すごい写真撮ってくれると思う!」 「……夕が言うなら、いいよ?」 話し合いが終わったのか、夕、と呼ばれている方の少女がこちらに身体を向け、ぼくに言った。 「雪も良いって言ってくれたので、お願いします!おにーさん」 ぼくは、それに頷き、「ぼくに任せて」と、返した。 しばらく、動かない二人の少女。 記念撮影のようなものだと思っているのだろう。 「どこに立ってればいいですか?」 ぼくが撮りたいのは自然体な写真だ。 だから、そんなにカメラを意識されると困る。 ぼくは、二人の少女にお願いをした。 「自然体?いつも通りにしていてほしいってことですか?」 「そう。ぼくなんていない人だと思って」 そう言っても、人がいること、カメラを向けられていること、ないものだと思うのは難しいらしく、数分ほど、写真を撮れない時間が続いた。 星を見ていても、ちらっとこちらに顔を向けていたり、「写真撮れてますか」と声をかけてきたり。 数十分は、そんな感じでカメラを構えることは出来なかった 。 いつまで経っても、ぼくが写真を撮らないからだろうか。 二人は、ぼくを気にすることなく、星を見始めた。 星座を探す声、流れ星に興奮する声、「綺麗だね」と、星を見つめる声。 無釉 ようやく、ぼくの撮りたいものが撮れる。 カメラを構え、一枚、二枚と、少女たちを映す。 ぼくの目に映る二人の姿は、ぼやけている。 しかし、カメラはこれをハッキリ映してくれているのだろう。 「あ、夕。」「雪、見て!」 「「一番星だ」」 うん。すごくイイモノがなにかわかった。 これだ。 「夕、流星群ってさっき終わらなかった?」 「また始まるんだ!」 少女たちの言葉に、ぼくも空を見上げる。 紺色に、数個光を感じただけ。 「おにーさんも見て!また、星が降るよ」 少女はこちらに顔を向ける。 写真を撮られていることなど忘れていたと言わんばかりに、大きく開けられた口は、ぼんやりとしたぼくの視界からも伝わってきた。 それも一瞬で、少女はすぐに顔を上へ向けた。 どんな表情で、どんな感情で、どんな想いで見ているのか、なぜか気になってしまう。 どうしてだろう。 知りたいと、思ってしまう。 静かな時間が続いた。 夢中になっているのだろう。 少女の目には、無数に降る星が映っているのだろう。 「すごかった……おにーさんも、見てましたか?」 「うん」 ぼくが見ていたのは、星に夢中な少女だったけど。 「あ、そうだ。どんな写真、撮れたんですか?」 ぼくが、撮った写真を見せると、少女たちは思い出に浸る。一枚づつ丁寧に。 「うわ、私の顔間抜けだ…….」 「夕が間抜けな顔してないことある?」 「あるわ!」 「雪は写真映えするね~。ずっと綺麗」 「急に褒めないで。照れる」 「おにーさんの写真めっちゃ綺麗。でも、たまにピント合ってない」 「暗いとピント合わせにくいのかも」 「あ、これ。雪と一番星見つけたやつじゃない?」 「ほんとだ。すごく、良い写真だね。今まで見た中で一番好き」 「うん!私も、雪と同じ気持ち。この写真が一番好き!」 ぼくも、その写真が一番好き。 声には出さずに、同感した。 思い出に浸る声を、邪魔したくなかったから。 ぼくの写真で、こんなにも幸せそうにする優しい声を聞けたことが、嬉しかった。 「おにーさん。写真、ありがとうございます。大切にします」 カメラを少女から受け取り、ぼくの撮影会は終わりを告げた。 「こちらこそ、撮らせてくれてありがとー」 少女たちは、深く頭を下げ、帰っていった。 あっさりと、別れが来た。 まだ、見ていたかったな。
  • 10月13日

    夕と依音書きたいやつメモ

    夕 「ねぇ!雪!見て」 雪 「来た甲斐があったね、すっごく綺麗…」 夕 「ほら!望遠鏡立てよう?」 雪 「そうだね」 依音「ねー、そこのおふたりさん」 雪 「はい…」 依音「すごく、良い写真撮れそう。だから、撮ってもいい〜?」 夕 「えっ、私たち?いいんですか?」 依音「うん。ぼくはきみたちのことを撮りたい」 雪 「どうする?夕」 夕 「雪がいいなら、私は是非!」 雪 「それじゃぁ、お願いします」 依音「うん、ぼくのことは気にしないで。さっきみたいにしてて」  すごく良いものが撮れる気がした。 ラックが「今日すっげー星が綺麗なんだとさ!✨ゐ豆、撮りに行ってくれば〜?👋」 と、連絡をくれた。 ぼくは一度迷った。夜は、綺麗な星が見えようとも、不安の渦がそこら中にあるから。 そして、ぼくに星は見えないから。  結局は、好奇心に負けていた。 ラックの言う「綺麗な星」が、ぼくにとっても綺麗な星なのか、それだけが知りたかった。 よく、亡くなった人は星になるとかいうけど、あんな遠くにあって見えないものになられても、ぼくは見つけられないと思っている。 その、ちっぽけな光を、ぼくの目はぼくに見せてくれないから。  でも、今ぼくは星を見ている。 真っ直ぐ伸ばした腕は、流れ星のように藍色をなぞる。 なぞって落ちた先は、地面ではない。 どこまでも広がる、藍色だった。 「ねぇ!雪、今光った!絶対光った!!!流星かな?!」 「わかんない、私見てなかったから…」 「今日って何日?そろそろ水瓶座η(エータ)流星群見れる時期じゃない?」 「ちょうど今日だよ」 「え、今何時何時?!」 「もう見れると思う」 ぼくの記憶に残らないだろうけど、この日の夜空は明るく感じた。 きっと、あの子たちのいう流星群なんだろうけど、ぼくには、あの子がいたからそう感じたようにしか思えなかった。  数日後、カメラに残った写真を見ていると、顔は映っていない女の子が二人と、望遠鏡が写っている写真があった。 なんだろう、忘れたくなかったような気がするけど、思い出せないし良いや。 でも、良い写真。 それだけ思って、ぼくはカメラを仕舞った。  ラックは定期的に「星⭐️綺麗ダヨ!✨見👀に行って🏃💨来なよ👋」 と、連絡をくれた。 なんで毎回伝えてくるの? ぼくがそう聞けば、 「ゐ豆の一番星を見つける良い機会カモ!って、オレが思ったからダヨ!」 見えないって、言っても、ラックはやめなかった。 ぼくに、一番星を探させた。 「一目惚れだったのかも。何年も前のことだからおぼえてないけど」  数年経った今、ぼくは思った。 あの日、誰よりも綺麗に見えた子がいた。 ぼやけた世界の中で、はっきりと線がぼくの目に映って見えた子がいた。 きっと、よく使われる言葉を並べるのなら。 ——ぼくは心を奪われていた。 もう一度会いたいと、またあの丘の上で夜空を指差し何かを訴えかけるように、何度も何度も「見て」と、声を弾ませるあの子に、ぼくは会いたい。   恐らく定期的に来ている公園の丘。 そこで、ぼくはまた空を見上げた。 相変わらず何もわからない。星が綺麗な理由も。ぼくがここに来続ける理由も。 「あの、結構前に写真撮ってくれた人、ですよね?」 「きみがいうなら、そうなのかも〜」 「絶対そうですよ!」 「ぜっ、たい…」 「うんっ!」 明るい女の子の声が聞こえる。 ボブくらいの長さの髪が、風に靡いている。 「星、好きなんですか?」 「ううん」 嫌いとは言えなかった。 望遠鏡を持つこの子は、きっと星が好きだから。 「私は好きです。星、大好きで、親友と一緒に天体の研究してて!」 「そっか〜」 興味を持っても、数日経てば忘れてしまう。 それがぼくだから、そっけなく返した。 そんなこと昔はしたくなかったのに、今では平気でするようになってしまった。 「星、好きですか」 もう一度投げかけられる質問に、ぼくは戸惑った。 「どちらかといえば、きらいかも〜」 「そうなんですね」 「でも」 あの子のことは好きだったかもしれない。 覚えてないけど、なぜかそう思うことがよくある。 好きだったのかもしれないって、なんだよ。 「おにーさん、不思議な人だね。初めましての頃から思ってたけど」 「そうかなぁ〜」 「うん、星嫌いなのに、星がよく見えるこの丘に来てる」 あの子に会って知りたいから。 「この気持ちがなんなのか、知りたいから。ずっと来てる、会いたい子がいて」 「え〜!おにーさんそれ恋じゃない?!」 「しらなーい、ぼく、そういうのわかんないから」 「おにーさん見て!」 唐突に話が変わる。この子と話していると定期的にそうなっていた。 指をさされた方を見る。 ぼやけた藍色だ。 いつものやつだと、視線を落とした先に、きみがいた。 「うん、なんか、わかった気がする」 「え?」 「頼みがあるんだけど、いい?」 「なんですか〜?内容によります!」 見ず知らずの人の頼みを聞くなんて、そうも思うけど、今回は良かったとも思う。 頼めるの、きみしかいないから。 「ぼくの名前は依音。ゐ豆(いず)とも呼ばれてる。」 「依音さん、いず…?」 「きみの名前」 “萩原夕” 「頼みっていうのは、ぼくの名前を覚えててほしい、それと、また会った時には萩原夕って言って欲しい」 意味のわからないことを頼まれたであろうに、女の子は一切迷いのない言葉で返答した。 「良いですよ!おにーさんのこと覚えておきます」 「うん、約束」 「約束〜!次会える時はいつかな、また会いたいです。もっとおにーさんのこと知りたいかも」 「ぼくも、知りたいって思ったから、約束守ってね」 丘の上、藍色の下で交わした約束を、ぼくはまた忘れてしまうけど。 「依音さん!私、萩原夕と申します!」 「はぎわら、ゆう?へぇ〜、ぼくのこと知ってるの」 「ええ、約束しましたから。」 「なんか、ここに来てた女の子がいて、その子に会いたくて」 「会えますよ」 「そっか、じゃあ、また来ようかな」 「また会えた先で、待ってます。」 必ず会いに来ます。 女の子の言葉は、重たく、決意で固められたものだった。
  • 10月12日

    櫻さんと今泉も書きたい

    詩鈴「かいちょーっ!これなに!」 「これかぁ〜?見ての通り人をダメにするクッションだ!」 詩鈴「こんなの置いたら、松田に打首されるんじゃ…」 恋雨「ごめんなさぁい、あいる今日も部活で出れません〜♪」 「おうおう、バド頑張れな!恋雨!」 「会長。今日は一つ悪しませんか?」 詩鈴「お!副会長のその顔は良い予感!」 晴良「後々怒られるのは、僕らなんだけどねぇ」 「そんで、副かいちょーサマの本日の悪はなんですかい!」 「アイスです」 詩鈴「俺グレープ!」 晴良「僕マスカット〜っ」 「うぉっ、待てずるいぞ、詩鈴!晴良!」 「私はりんご貰っていきますね。会長」 「くぁぁ…!俺もりんご食いたかった!」 詩鈴「負けは負けですよ、会長〜」 「なぁ、櫻!俺に一口お恵みを〜!」 「いーやーでーす。会長はパイナップルで我慢してくださいっ?」 松田「なーんでアイス食ってんの。アンタら」 詩鈴「げっ、松田センセイ…」 松田「まーた会長か?」 「はっ?!今回は俺じゃない!」 「私見ちゃったんです、彼がこっそりアイスを持ってきている姿…しくしく…」 松田「櫻〜。手に持ってんのなんだ」 「アイスですね。私に食べられたいと申しておりまして」 松田「誰に影響されたんだか。仕事は進めろよ〜。詩鈴、アンタ部活いつ来るワケ?」 詩鈴「イマイキマス…」 松田「櫻ー、会長のこと頼んだぞ」 「彼のお世話は、わたくし櫻の務めでございます」 「世話なんて頼んでねーぞ!?」 松田「今泉ー、副会長の悪は程々にさせろよ」 「バレていましたか」 「俺とはまた悪事の方向性が違うんだよな」 松田「自分で言うなー?」 松田「一年二年の時の真面目さはどうしたって言うんだ」 「捨ててきました」 「でも、仕事はめっちゃ頼れるぞ!櫻!」 松田「あと、生徒会室をくつろぎの場にするな。なんだそのクッション。なんでアンタら靴脱いでくつろいでんの」 詩鈴「そりゃぁ、日々生徒会で疲れている身心を休ませるために」 晴良「詩鈴先輩、あまり作業進めてないよねぇ」 詩鈴「やめ、やめろ!晴良〜!」 つまり今のあの生徒会ができたのはこの人たちのせいって事 主に櫻先輩と今泉先輩
  • 10月12日

    清書したいやつ 

     歩いている間、くっきりと線の見える景色にずっと涙を堪えた。 ぼくが見てこなかった世界が、こんなに美しいものだとは思っていなかった。 目的の人が待つ場所まで、いつもよりも早く足を動かす。 早く会いたい。夕を、見たい。  携帯電話でマップを開き、ピンの刺されたところと、現地点が重なるのを確認する。  「依音さん!あれっ、眼鏡…」 あぁ、夕はそんな表情をぼくに向けていたんだね。  「うん、夕のこと見たくて、作ったんだよ」 もうダメだ、と思った瞬間に、ぼくの頬には涙が伝う。 夕は、それよりも前に大粒の涙を流していたけど。  「夕ですよ〜…、見えてますか…」  「うん、はっきりと」 ひっく、としゃっくりをしながら、ずっとぼくの名前を呼ぶ夕に、ぼくは返し続ける。  「依音だよー」  「うん、うん……っ依音さん…」 夕にとっては当たり前の景色のはずなのに、ぼやけていたのはぼくの世界なのに。 どうして、夕の方がこんなに嬉しそうに泣くんだろう。 でも不思議だ、それがぼくは、すごく嬉しい。  「ねぇ、依音さん…」  「なーに?」  「今夜、星を見に行きましょう…?」  「うん、いーよ」 はっきりと見えた世界、夕の隣で見る星が、ぼくにとって初めて見る星になる。  「夕の隣で見る星なら、何だって綺麗だったよ。」  「今夜はもっともっと綺麗ですよ」
  • 6月13日

    あさまひ(書き途中)

     バスの窓から覗く景色は、私の住む都会とは違い建物が少なく、第一印象は“緑の多い町”だった。 並ぶ建物も、私が住む地域とは見た目が違う。 見慣れた三角屋根はなく、最近増えてきた、平らな屋根が多くある。  緑が満遍なく町を包み込んでいる。  そんな自然豊かな地に、バス座席の窓横にある“とまります”ボタンを押すと同時に、前に見えるモニターには、停まりますと表示された。 数分窓の外を眺めていると、先程見ていた自然豊かな景色を残しつつも、ちらほら建物が見えてくる。  バスは三段壁に停まり、私はバスから降り、久しぶりに感じる外の空気を目一杯身体に取り込んだ。同行している親友の心寧は、隣の席で気持ちよく寝ていたところを起こされ、不機嫌と言わんばかりの顔を見せた。歩道の端に移動し、大きく欠伸をする心寧の欠伸が移り、私も欠伸をする。  私は辺りを見渡す。古びた建物が数件と、宿屋宿泊専用の駐車場がある。後は、何処を見渡しても緑が生い茂っている。やはり田舎のような印象を受ける。  どれも、写真で見た輝きを見受けられなかった。  「あたしはここら辺少し見てから行きたいとこ行くね〜。まひろんは直行すんの?」  心寧が私の肩を叩き、声を掛けてくる。毎回思うが、心寧は力が強い。それもゴリラのように。 こんなことを言えば、心寧は私をこの地に差し置いて、北海道へ戻ってしまうだろうから、出かかった「力強い、ゴリラか」を、飲み込んだ。そして、一息つき、心寧にこれから私のすべきことを伝えた。  「直行というか、まずは探すところから。私は旭陽くんの家も、家の周辺も知らないから」  私は探さなくてはいけない。目的を達成するためには、この白浜町を渡り歩くしかない。と言うものの、私は歩き回ることに対しては、慣れているので苦には思っていない。むしろ、これで見つけることができれば、驚いた顔が見れる。むしろ楽しみだ。  絶対見つけるぞ、と気合に満ち溢れていると、少しボサボサになっている髪の毛を、軽く整えながら心寧は言う。  「住んでるのがこの町ってことしか知らないで来るとか、相変わらずまひろんの行動力はすごいね」  確かに町だからと言って、何の情報もなく来たので、心寧に言われたことに対し、言い返すことができない。町であったことに感謝をするしかないと思う。  しかし、私が探す人は行く場所を決めてしまえば会えないような人なのだ。目的を持って会うことは、なかなか難しい人だ。  考え込み、その場で立ち尽くしていると、心寧は「まぁいいや」と、言葉を続ける。  「じゃ、あたしは和歌山満喫してくるね〜。ホテルにちゃんと来るんだよ?」  恐らく彼女が言いたいのは、「お泊まりなんてするんじゃないよ」ということだろう。 一体どうしたらそうなると思うのだろう。心寧の言葉に呆れながらも、私は返事をする。  「大丈夫。ちゃんと行くよ」  「うん。ほいじゃ、まひろんは小鳥遊に会えるといいね。」 心寧の言葉に、私は深く頷いた。会えなければ、和歌山まで来た意味がないからだ。  「また後でね〜」  「うん、またあとで」  手を振り、小走りで立ち去る心寧に、私も手を振り返し、後ろを向いた。  私が和歌山に来たのには、一つの目的がある。「会えるといいね」それが答えだ。私は人に会いに来たのだ。  とりあえず私は、駅の周りを漫ろ歩き、賑わう公園を横切る。そこで、私は立ち止まる。私目線を少しだけ上へ向けと、美しいという言葉がよく似合う景色が、私の瞳に映り込んだ。視界いっぱいに咲き誇る満開の桜は、私を離さまいと、心を掴んでいる。私と同じように、桜に心を奪われる人たちの声が、通り過ぎて行く中、私は動くことさえ許されず、その場に立ち尽くしていた。  十分程、桜を見ていたようだ。地元は、ここ程空気の美味しい環境ではない。だから、桜がこんなにも多く美しく咲いているの、忘れたくない大切な景色として、私は目に刻みつけていた。再び、人探しを再開しようと、桜に背を向ける。  ここに居ないのなら、彼はどこにいるだろうか。 私の勘ではあるが、彼は私が行く先にいる。 良い景色を見つけると、すぐに飛び出してしまう彼の隣を歩いていたのは、私だったから。彼の足取りを身体は自然と覚えていた。  バス停の近くは、あまり建物が見えなかったが、歩いているとちらほら綺麗な建物や古びた建物が並んでいる場所があった。私はそこに行くことはなく、避けるように反対方向へと足を進めた。 途中、猫がすり寄ってきたので何枚か写真を撮った。白と黒が浮き出る模様が可愛らしかった。野良猫とは思えない程の人馴れしていて、痩せ細っているということもない猫だったが、その理由はすぐにわかった。             猫が人々の横をすり抜けると、「くろ」「しろくろ」「やまだ」「はく」など、猫は色んな名前を持っていた。人馴れしていたのは、この地の人々が猫に優しくしていたからだと分かり、ここは素敵な場所なのだろうと感じた。私は猫に、「またね」と手を振った。猫は、それに応えるように「にゃー」と鳴いた。  道の先には、綺麗な道には似合わない、木製の古びた建物が見えた。近づくと、看板がかかっており、そこには掠れた文字で、“だがしや”と書かれていた。駄菓子屋の前に並ぶお菓子は、どれも小さい頃に買ってもらったようなものばかりだった。  「懐かしいな」 懐かしさに浸っていると、カラカラと、ドアを開ける音がした。  「いらっしゃい」 後ろから声をかけられ、身体が跳ね上がる。恐る恐る振り返ると、まだ若そうなお兄さんが立っていた。  「君、ここいらの人じゃないね?」  「…そうですね」  「どっから来た?」 北海道から来たと答えると、お兄さんは目を大きく見開いた。「わざわざ北海道から」と、呟くお兄さんは、到底信じられないとでも言いたげに、顎に手を当てた。  「まぁいい。外だけじゃなく、中も見ていってくれ」 そう言うお兄さんの表情は、どこか寂しさを感じさせた。お店の中へ入るお兄さんの後ろを着いて行く。  中に入ると、木の香りが私を迎えた。外側とはまた別の駄菓子がたくさん並べられている。私の住む場所にはないもの、スーパーでも売られているもの、今となっては見なくなってしまったもの。並べられた沢山の駄菓子に、私は懐かしさを感じた。  「君、好きな駄菓子持ってっていいよ」 お兄さんは、お店の中に入り込んだ土を、箒で掃きながら言う。私は真っ先に、お金を払わないといけないと思ったが、お兄さんはじっと私を見つめもう一度言った。  「好きなの持ってっていいよ、金はいらん」 そう言うのなら、私はお言葉に甘えることにした。見知ったものを三個、初めて見たものはほとんど手に取った。  私が駄菓子を選び終えると、お兄さんはぽつりと呟いた。  「二日前くらいか、君と同じぐらいの兄ちゃんが来たんだよ」  あぁ、なぜだろう。私はその人を知っている気がする。不思議だ。私と同じくらいの人は、沢山いるはずなのに。  「カメラ持って、店ん中撮ってたわ。最後に駄菓子もたんまり買ってったけどな」  眉を寄せていたが、それは嬉しさを表す笑顔なのだと感じ取る。「買いすぎな気もするけどな」お兄さんは、さらに言葉を続けた。  「私、その人知ってます。すごい写真家です」 お兄さんは、「そうね」と相槌を打った。その後は特に会話はなく、沈黙が続いた。だが、それが心地悪く思うことはなく、私は、駄菓子を追加で購入した。  その際も、お兄さんは「金はいらないのに」と言ったが、お礼を含めなので受け取って欲しいと頼み込んだ末、お兄さんが折れた。笑いながら「譲らんねぇ、君は」と言われたので、「すごく頑固で負けず嫌いなので」と返した。お兄さんは、私の言葉で納得したように頷いた。  私が駄菓子屋の外へ出ると、お兄さんは手を振る。やはり、ここは優しい人たちが作り出した、温かい地なのだと再度思う。ここにいれば、何度でもそう思うだろう。  「またな、写真家の兄ちゃんによろしく」  「ありがとうございます、また、いつか」 また会う日は来るだろう。いや、今度は彼と一緒に来よう。  そして、私はまた歩き始める。ほんの数時間しかいないのに、既にこの地の虜になっている私がいた。 彼が言う通り、「凄く優しくて居心地のいい所」だ。  しばらく歩いていると、カシャカシャと、カメラのシャッターを切る音が聞こえてきた。音の源を確認する為、カメラを持つ人物を見る。  寝癖で一部跳ねた髪、服はお気に入りと言って、よく着ていたベージュのカーディガン。カメラも、ずっと使っている一眼レフを構えている。 私は、何を撮っているのだろう、と思いつつも彼の横に立ち、声を掛けようとした。だが、彼の向けるカメラのレンズの先に、四葉のクローバーが見えた。  「何撮ってるんだろーって思ったら、四葉のクローバーだ。よく見つけたね」  四葉のクローバーに気を取られた私は、「久しぶり」、「こんにちは」、「元気にしてた?」、何度か心の中で練習した挨拶をそっちのけにして、しゃがむ彼の隣に、私も腰を下ろし尋ねていた。  「へ?…まひろ?」 目を見開きこちらを見る彼。私がまひろだと気づいてくれたことに嬉しさを抱えた。声に、顔に、態度にそれが出ていないか気にしながら、平常心を保つ。  「久しぶり、旭陽くん。よくわかったね、まひろだよ」  「久しぶりっていうかなんでこっちに?よくわかったねって…声でわかるよ」 彼は続けて、「二日前にも聞いてたんだから」と付け足した。二日前、私はなかなか眠りにつくことができなかったので、彼に「寝たいからなんか喋って」と、無茶振りをした。確かに二日前に聞いた声が、二日後である今聞いたところで、低くなることも、高くなることもなかなかない。それでも、わかってもらえるのは嬉しかった。  猫背気味なのも、寝ぼけ眼なのも彼は変わらなかった。強いて変わったというのなら、身長が伸びて、少し声色が明るくなったことだろうか。  「旅行かな、心寧と来たの。私の目的は一つしかないけど」 “心寧と”  彼はそこに注目したのか、小さく呟いた。  「確かにまひろは、計画なんて立てれないし、一人ではないか」 彼の言う通りだ。実際、全体の計画を立てたのも、飛行機やバスの時間も、全ては心寧が決めたことだ。日付は互いに都合のいい日を選んだが、それ以外、私は心寧に「どこか行かないの?」と聞かれても、「旭陽くんに会いに行くだけだから」の、一点張りだった。そんな私に呆れることなく、計画を進めてくれたのは、心寧が“まひろはそういう奴”というのを、よくわかっているからだろう。  私は「心寧がいなかったら来れなかった」と言う。 すると、彼はふっと吹き出し、「自慢気に言えることじゃないよ」と返した。  「そう言えば、その目的って、もしかしなくてもけ僕?」  「正解」 私が迷いなく返すと、彼は視線を私から外し、「そっか」と言う。私は「そう」と返す。何度か、「僕か…」と、彼が呟くのが聞こえてくる。私はそれを聞く度に、「そうだよ」そう、彼よりも小さな声で言った。  少し落ち着いたのか、彼は外した目線を戻し、再び口を開く。  「ていうか、髪の毛切ったの?なんで」  特に理由はないが、私は少し格好つけ返した。  「なんで?そうだな〜…まひろらしさ?」  「似合ってる。中学生の頃思い出すね。」 中学の頃も、私は今と同じくらいのボブだった。でも、私の髪が短かったのはその頃だけだ。その後は、なんとなく髪をずっと伸ばしていた。邪魔だったが、両親には「そっちの方が可愛らしくていい」と、言われた。嫌だったはずなのに、私は両親の言葉に従っていたのだ。  髪を切った理由は、両親の言う通りに、髪を伸ばしていた自分に嫌気が差し、自分でバッサリ切ったのだ。その後は、美容室に行き、毛先を整えてもらった。格好良く、昔の私らしさが戻ってきたと言っても、過言ではないと思ったのだ。  その後も、彼は私に質問を投げかけた。  「ところで、大学は?」、「なんで、僕がここにいるってわかったの?」、「僕に会いにきたって、なんで?」 数多くの質問に対して、笑みが溢れた。  「旭陽くんは、質問が尽きないね」  私は、彼に「だって」と言葉を遮られる前に言う。 今は春休みだということ、なんとなく、旭陽くんがいそうだなと思ったところを渡り歩いていたら、たまたま見つけたこと。二つ目までは質問に答えたが、三つ目の会いにきた理由を、「教えない」と、私は言った。 旭陽くんは、「そっか」と言うが、声のトーンが落ちていたように感じた。しかし、次に言葉を発する時には、落ちたトーンは戻っていた。  「なんの情報もなく、僕を探して歩いてたの?」  彼が何処にいるかまで、目的として示してしまえば、見つからないじゃないか。  旭陽くんは、目的に沿って道を行くのが苦手だった。それは、集団行動などが関係しているわけではなく、単純に「写真を撮るって目的を達成したい」ただそれだけだと言っていた。だから、私が彼を探すのも、目的を持っていれば見つかるはずもないなと思ったのだ。  「うん、LINEで聞いたらバレちゃうでしょ?驚かせに来たのに」  「そう、なのかな?」  「そうだよ」  「まひろ、友達と来てるんでしょ?一人で行動してて良いの?」  「一人で聖地巡りに行った。まひろにはやることがあるだろうし〜って、どっかに行った」  「そうなんだ」  「ねぇ、まひろ」  「なに?」  「せっかく来たのに、どこか出かけるとかしないの?」  「しない。私は旭陽くんに会いに来ただけだから」  「それなら、僕が案内してもいい?この町を」  「楽しそう、いいよ。案内して」  「あと、まひろのこと撮らせて欲しいんだけど、いい?」  「いいよ」  私は一つ思いつき、スマホを取り出した。カメラアプリを開き、内カメラにする。旭陽くんの隣に行き、画面内に私と彼が収まるように調節する。私が画面に触れると、カシャッと、シャッターを切る音が鳴る。 私は少しぎこちない笑みをしていて、旭陽くんは驚きを隠せない表情をしていた。  何とも言えない面白い写真が撮れたと、私は笑って彼に見せた。まだ、写真に映る顔と同じまま固まっている彼に、「おーい」と呼び掛ける。瞬きをした後、彼はようやく口を開いた。  「びっくりした」 急に写真を撮り、驚かせてしまった事に対しては「ごめん」と謝罪した。彼が「大丈夫」笑ってそう言った所で、私は言葉を続けた。  「でも、旭陽くんにこんなこと頼んでも、渋られそうだなって思ったから、こうした方が早いかなって」  「撮りたいってこと?」 わざわざ言い訳のように言葉を繋げても、結局私の言いたかった事は、彼が言った「撮りたい」ということだ。「そういうこと」と、私が言った瞬間、隣から笑い声が聞こえてきた。  「なんだ、そんなことか」 笑って言う彼の姿が、愛おしく思えて、私は彼にスマホを向けた。 画面に映る彼に向けて、シャッターを切った。  「えっ、今写真撮った?」  なんで?と続ける彼の質問には答えず、話を逸らした。  「撮る側は、撮られるのに慣れてないの?ずっと驚いてる」  からかい程度の目的で言った言葉だったが、やけに静かになり、視線を地面へ向ける彼は、悲しそうな声で言葉をを溢した。  「僕、あんまり写真映り良くないからさ…」  そんなことないのに。  私は、真っ先に撮った写真を見ながら心の中で思う。旭陽くんが笑ったら、周りが明るく見える。写真に映る彼も、明るく照らされている。綺麗で、そのくらい、素敵なのに。  彼にこの気持ちを伝えるには、どうしたら良いだろう。  伝える方法は考えずとも、答えはすぐに出た。  「わかった。じゃあ、旭陽くんが私を撮るなら、私も旭陽くんを撮る」  私は決めた。旭陽くんが綺麗ということを証明して見せると。  「いいよ?まひろみたいに綺麗な写真になるかは、保証しないけど…」  「私が証明するね。旭陽くんは綺麗だって、カメラ借りてもいい?」   言った後に、流石にカメラという高価なものを易々と借りていいか聞くのは、いけないことだと反省する。  「やっぱいい、スマホでいい」 返事を聞く前に、私が言い直すと、彼は言う。  「いいよ、カメラの使い方はわかる?」 あっさりと言われた。そんなあっさりと、カメラを預けることを許されるとは思わなかった。ずっと、「カメラは僕の眼だ」って言ってたのに、私には貸してくれるんだ。  「カメラの使い方はわかるよ。中学の頃に、旭陽くんに教えてもらったの、覚えてるから」  「覚えててくれたんだ。でも、わかんないことあったら聞いて。教えるから」  「うん、ありがとう。最初はどこに行くの?」   旭陽くんは、考える間もなく言う。  「まひろ、お腹空いてない?」 そう言われると、飛行機でお弁当を食べた時から、かなり時間が経っていた。旭陽くんを探している間は、無我夢中だったせいか、空腹を感じる事は無かった。 しかし、旭陽くんの言葉で、空腹を感じ始めたところで、ぐぅ〜、とお腹の音が鳴った。  「返事が分かりやすくて良いね」  「ね、分かりやすい。お腹空いたなぁ」 特に恥ずかしいとは思っていない素振りを見せたが、旭陽くんの前では鳴らないで欲しかった。 周りが静かだったのも、不運だったと思う。  「僕の行きつけの喫茶店があるんだ。まずはそこから行こうか、まひろ」  「うんっ」 行きつけの喫茶店。どんなところか気になるが、雰囲気は何となくわかる。 きっと凄くオシャレで優しい場所だ。   喫茶店に行く手段は徒歩だ。 旭陽くんは、昔から歩くのが好きだった。  「やっぱり、旭陽くんは歩いて来てたんだね」  「そうだよ。車とか、自転車使うと、凄く良い景色見逃しちゃうから」 これは、昔から彼が言っていることだ。  「知ってる」  「旭陽くんさ、今日、他にはどこに連れて行ってくれるの?」 私が聞くと、彼はバツが悪そうな顔をした。  「実は行きたいところは、今から行く喫茶店と、桜が綺麗に咲いてる公園しかないんだ」  ——桜が綺麗に咲いている公園。 私は恐らく、既にその場所を見ている。 だからなんだという話だ。旭陽くんと見る桜は、最初に見た時より何倍も美しいだろう。  「北海道じゃまだ見れないけど、こっちは咲いてるもんね」 彼は、「そうだね」と相槌を打つ。  しばらく歩いていると、白い外観の建物が見えた。  「着いたよ」  「綺麗なところだね」  「入ろっか」  「うん」  喫茶店へ入ると、美味しそうな香りが私たちを包み込む。リンリンとベルの音と、喫茶店内から聞こえる「いらっしゃいませー」の言葉が私たちを迎え入れる。  「お、小鳥遊少年、いらっしゃい」 そう言ったのは、茶色い髪の中に白い毛が見える女性だった。顔をよく見てみると、とてもじゃないが白髪が生える年齢とは思えない、綺麗な顔立ちをしていた。
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  • 6月13日

    羽川と翼(本編書き途中試し上げ)

     六時間を学校で過ごし、帰りのホームルームが終わり、ようやく解放された僕はそそくさと教室を出る。廊下の端で同級生と雑談することも、部活動に励むこともなく、真っ直ぐ家への道を辿った。  帰り道、何一つ変わらない景色を通りすぎながら、僕は歩く。  家に帰ったら何をしようか。ゲーム、勉強、本の整理。やりたいことはあるが、結局はベッドへ体を投げ出すのだろう。きっと今日もそうなる。僕がする行動は変わらない。  そういえば、明日は歴史の小テストがあったな。酷い点数を取らないために、少しでも目を通しておこう。  でも、小説も読みたいな。休み時間を使って読み進めていたら、ちょうどいいところで終わってしまっていたのを思い出す。あの後はどうなるのだろう?本のことを考えていると、部屋に積み重なった本をどうにかしたい気持ちが大きくなる。やはり本棚の整理をしようか。  ゲームはどうだろう。あまり気乗りではないな。 つい最近クリアしてしまったゲームがあり、また新しいものに手を出そうとは思わないのだ。しばらくやることはない。  そうだ、部屋の模様替えでもしてみようか。紺色のベッドシーツもそろそろ飽きてきた。クローゼットの奥から同じ種類の黒色のベッドシーツでも取り出そうか。洗濯はめんどくさいけど、たまには自分でやるのもいいかもしれない。  やりたいことの整理をしていると、白い外観の家が見えてきた。綺麗な外観に惚れ、両親は購入を決めたらしい。たった三人、今となっては二人しか住んでいないのに、やたらと広い一軒家。多い部屋もほとんどは使われていない。空っぽの空間に、埃が舞っているくらいだ。  “羽川”と書かれた表札を横切り、鞄から鍵を取り出し、ガチャという音と共にドアを引く。家の中に入り鍵をかけ、再びガチャという音が聞こえる。ドアを二度ほど押し、鍵がかかっていることを確認する。  玄関に脱いだ靴を並べる。小さい頃から、靴を並べなさいと、母に言われてきた。最初はやらなかったが、習慣付けるとそれが当たり前になっていた。 今では母の方が靴の向きがバラバラだ。 自分の靴を並べるついでに、母の靴も並べた。  洗面台へ向かい、手を洗うついでに、軽く顔も水に濡らした。水の滴る顔をタオルで優しく拭く。  それから、体育の授業で、汚したジャージをスクールバッグから取り出し、洗濯機の中に入れる。 学校のグラウンドで転んで汚したことを思い出すと、恥ずかしさからクラスメイトの記憶を消したいという気持ちが膨らむ。 いや、自分の記憶まで全部消したい。  「先生、すげー笑ってたな…」  先生があまりにも笑うものだから、他の生徒も釣られて笑っていた。そのせいで恥ずかしさが倍増した。しばらくあの先生は嫌いかもしれない。  良い先生なんだけどな、ノリがたまに怠い。  次に、リビングに顔を出し、母に「ただいま」と声をかける。夕飯の準備をする手を一度止め、母から「おかえり、直人」といつも通りの反応が返ってくる。 リビングに漂う匂いから、夕飯は僕の好物だと判明した。 クリームシチューだ。  僕はキッチンへ足を運び、冷蔵庫を開けてりんごジュースを取り出した。いつもはコップに必要量注いで、一口飲んでからそのまま部屋に持っていくが、手元にあるジュースの中身は残り少ない。 コップに注ごうか迷ったが、どうせからになるんだからと、ペットボトルのまま持っていくことにした。 入っている量は、普段飲むよりも多いが、たまには少し多く飲んでもいいだろう。ご褒美も必要だ。  「またりんごジュース?」 続けて、「ほんとに好きね〜」と、母はくすくす笑う。  「美味しいから」  「残りそれだけ?明日買わないとね」 エプロンで手の水気を拭き取り、レンジの近くにある買い物メモに、“りんごジュース”が書き足される。  「自分で買うのに」  「ついでよ、私も買い物あるし」  「…ありがとう」 照れ臭さを感じながら、感謝の言葉を伝えると、母は「どういたしまして」と軽く頭を下げる。それに倣い、僕も頭を下げ、その場を離れた。  二階へ続く階段を駆け上がる。冷蔵庫から取り出されたりんごジュースは、早くも汗をかき始めていた。部屋のドアノブを肘で下に押し、右脚で軽く蹴る。  「あ!やっと帰ってきた〜!君が今回の…はねか」 バタン。僕は勢いよくドアを閉めた。 その際、スクールバッグが左腕から擦り落ちる。 りんごジュースはそんなことお構いなしに、僕の腕の中で汗をかき続けていた。  「なんだ…?」  何故僕の部屋に人がいるんだ?しかも浮いていた。あり得ないだろ。しかも女子だ。尚更あり得ない。 ゲームの世界にでもいるのか?それとも漫画か?アニメか?  でも、最後の方「羽川」って言いかけてたような? いや、夢だな。 これは夢だ、僕は帰ってまたすぐに寝たんだ。きっとそう。次ドアを開けた時にはいつも通りだ。  自分に言い聞かせ、もう一度ドアノブを下に押す。今度はゆっくり、そーっと忍び込むようにしてドアを開ける。  「ちょっと!見た瞬間ドア閉めるとかありえない!」  「あぁ…だめだ夢じゃない」 僕は半分程開けたドアを、静かに閉めようとした。  「夢?なんのこと?って、もっかいドア閉めようとするなーっ!」 ドアの隙間越しに聞こえてくる声に、夢じゃないことを、現実だということを突きつけられている。それに、向こうにいる奴は、僕の言葉に反応している。僕が同じ空間にいる証拠になってしまった。  こういうこともあるのかもしれない。 今回僕は初めてこの場に出会してしまっただけで、割とあることなのかもしれない。 数十秒の沈黙の末、僕が出した答え。  「ないな」 ない。流石にあってほしくはない。 僕は、夢じゃないことを確認するために、自分の頬をつねった。どれだけ力を込めても、そのまま伸ばしてみても、痛い。 僕は覚悟を決め、恐る恐るドアを開けた。  「もー!人の顔見てドア閉めるって何事なの!?」  「ごめん」 咄嗟に謝罪の言葉が出る。 ただ、言葉が出てだけであり、僕自身謝る気があるかと言われれば、もちろんない。 僕が謝る理由はないのだから。  僕は声の主を見るために、目線を上へ向ける。 その先には、僕のことを見て頬を膨らませている女子がいる。 黒いストレートのロング、白い肌、白いワンピース。年齢は見た目だけだと、多分僕と同じくらい。高校一年生か、その前後だろう。 ある程度、全体を見渡した後、もう一度顔を見てみる。 ドアを閉めた時は顔を見る余裕なんてなかったが、失礼だと自覚した上で、阿呆らしい顔をしていると思った。阿呆らしい顔のそれは、「全くもう…」とため息を吐くと、大袈裟に咳払いをした。  「こほんっ!えー、あたしは死神の翼!よろしく」  死神の翼?死神にも名前があるのか。 というか、よろしくと言われても、僕は死神にお世話になることなんかしていない。よろしくしたくない。そもそも、死神って本当にいるのか。 人の形をしているとは思ってもいなかった。 一体何が起こっている? 死神がなんで僕のところに来た? 僕は、死神にお世話になることなんてしたのか?  必死に思考を巡らせたが、その場で立ち尽くすことしかできなかった。 唯一理解できたのは、りんごジュースが一番美味しく飲める冷たさではなくなっていることだった。  「おーい、返事くらい返したらどうなの?」 翼は僕に向けて手を振りながら首を傾げて言った。 これは、よろしくと言われて素直に返せる程、簡単な思考で終わる問題じゃない。 僕は、本気でよろしくしたくない。 というか、翼はもう少し説明をしたらどうだ。死神なんて言われて、手を差し出されてよろしくなんて、できる訳ないだろ。  「腕疲れてきた…」 そう言い、一度腕を下ろした。 そのまま諦めてくれ。 願ったのも束の間。再び差し出された手。 翼は「早く」と急かすように、僕に向けて突き出した。 でも、僕は手を握ることは無い。絶対だ。 第一死神なんて触れたら駄目だろ。 それこそ触れれば死への片道切符な印象が強い。 僕が読んだことのある作品は、死神に触れた瞬間主人公の友人が意識不明状態に陥るという場面があった。 だから僕は触れたくない。もし、小説通りのことが起きたらと思うと、恐ろしくて肩が震え上がる。  三分程僕が触れないために試行錯誤していると、翼はようやく諦めたのか差し出していた手を下ろした。よく三分も耐えたものだ。  「そんな反応になるのは分かってたけどね」  「そんな反応にしかならないだろ」  僕は状況を理解していない頭で、疑問と向き合う。まず、死神が本当にいること、姿が人間の形をしていること、そして何よりも…  「死神ってこんな頭悪そうなんだな」 一番に思ったのはそれだった。もっと、かっこいい不気味なのをイメージしていたのに、こんなただの女子が“死神”と言うのだ。  「…きみ、失礼すぎない?仮にもあたしは死神だよ?怖くないの?」  「思ってたよりも怖くない。というか仮にもって自分で言うんだ?」 僕が想像していたのは、もっと不気味な死神だったから、人の形をして出てくると怖さは劣る。 僕の目には彼女が恐ろしいものには映らない。  色々話しているうちに、僕は一つ、目の前の光景に対する疑問を覚えた。  「ていうか、なんで人の部屋に勝手に入ってるんだよ」  「なんでって、あたしは死神だよ?その役目を果たしにきただけなんだけど」 「何回言えば死神ってわかってくれる?」と言いたげに眉を寄せて呆れたように、翼は言葉を吐き捨てた。  翼の異様さに気を取られて忘れていた。死神である翼が来たということは、僕は死ぬ。死神は死が近い者の元へやって来る。 つまり、僕もその一人。 悪戯と思いたい気持ちと、嘘は到底つけなさそうな翼の言葉。 翼の言葉は嘘なんかじゃない。第一、死神に嘘をつくことによるメリットなんてない。 事を理解すると途端に、恐怖が押し寄せてきた。 一体何で? 僕はどうして死んだ? 事故?それとも、自殺…? 人に恨みを勝った記憶はないが、無意識にやっていたとしたら?  何であれ、僕は死ぬ。死神の役目なんて、それしかないじゃないか。  「僕、死ぬのか」  「死ぬかもしれないし、生きるかもしれない。きみは一択じゃないんだよ。」 死神から生きる選択肢を貰えるものなのか。 考える前に翼の言葉が飛んでくる。  「それに!死神…あたしの役目がきみの思ってるものと違ったら?きみ、一つだって決めつけたでしょ」  「死神の役目が一つじゃないことなんてあるのか?」  僕は半信半疑だった。知っている死神は、容赦なく人の命を奪っていた。中には、寿命なんて関係なく、無作為に人の命を奪う死神の話だってあった。 翼だってそうじゃないのか? 優しい言葉で人を騙して、命を奪うような死神じゃないのか?  「これはあたしたちの話なんだけど、死神にも種類ってのがあるんだよね」  「種類?例えばどんな?」 翼はなんで言えば良いか思考を巡らせているようだ。 種類が多いのか、単純に難しい話なのか、ただ翼がそれを伝える語彙を持ち合わせていないだけなのか。  ちなみに、僕的には三個目だと思う。  「んっとねー、死神には、所属があるの。主に3種類に、かな」 ようやくまとまったのか、翼は話し始めた。  死神には「寿命」「事故」「自殺」。 その、三種の命の所属に振り分けられるそう。翼はその中の三つ目に属しているらしい。 寿命も事故も、命の選択は例外を除くとないが、自殺の場合は違う。 自殺は、元々生きれる命が、唐突に終わるので、死神にも予測不可能な異例として残っているそう。 翼の所属する死神たちは、他の二つと一つ違うことがあり、この場合は、死神との契約を交わさないといけない。  「あ!契約の話はまた後でするね」 「今でよくない?」と言う前に、翼は口を動かしていた。自ら命を絶つ場合は、“死ぬ一ヶ月前”に死神が来る。人によるが、それは命を絶つ時間を早めることもあったと言う。ある程度の説明を終えた後に、翼は言葉の一つ一つに力を込めて言った。  「あたしは、救える命は救いたい。せっかく一ヶ月前から、時間を貰えるなら、できるだけやれることはやりたいの」 ハッキリと言って見せたものの、その後は「救えることの方が少ないんだけどね」と、小さく溢した。  「そんなことしてたら疲れるだろ」 素直に思ったことだ。僕だったら、どっちの立場でもめんどくさい。救う側はあり得ないほどの精神を消費する、救われる側もそれ以上に消費して、結局は元の悩みに積み重なるような息苦しさを上乗せされる。 “相手は助けようとしてくれているのに、自分は何も返せない” それが息苦しくて堪らない。 どうせ、救うと言い出した側だって、諦める奴は諦めるんだから、放っておいた方が楽に決まってる。翼は、それをまだ知らないから言えるんだ。笑ってられるんだ。  「…絶対、疲れるだけだ、お互い」  僕の言ったことに、翼は平気な顔をして、否定の言葉でも投げてくるだろうと思っていた。  「うん、そうだね」 返ってきたのは、想像にない弱々しい声だった。僕は、翼がどんな顔をして言ったのか気になって、フローリングの板を見つめていた顔を上げた。 翼は笑っていたが、一瞬曇った表情を見せたのを僕は見てしまった。 もう一度笑った翼は言う。  「疲れるよ」 僕は鼻で笑いながら返した。  「だろうな」 沈黙が続き、僕は対話するのがめんどくさくなり、翼の言葉を聞き流した。 結局、死神の種類も、契約の意味も分からずに時間は過ぎた。 喋り続ける翼に飽き、そろそろベッドに身を放り投げたいと思うが、ベッドの側には翼がいる。 避けて欲しいと言うも、熱心に語り続ける翼の耳には入らなかった。 このままドアの前で立ち続けるのも嫌だ。そろそろ足が限界を迎えそうだ。というか、僕の部屋なのに拘束されているのが僕なのはおかしくないか?  「翼、僕は寝たいんだけど」  「ん…?若者が寝る時間じゃないぞ!外で走り回りな!」 こいつ…!ようやく耳を向けたと思えば、年寄りみたいなこと言いやがって。 怒りが押し寄せてきた僕は、強い口調で言う。  「いいからそこ退いてくれない?」 翼は、「仕方ないなー」とあっさりベッドから離れた。 部屋の周りを軽く探索した後、勉強机の近くに留まることにしたらしい。 そこも使うから、部屋の外にいて欲しいくらいだが、そうしてしまえば、ドアの向こうから声が聞こえ続けるかもしれない。 左に部屋に居させて黙らせるか、右にドアの向こうで騒がれるかを天秤に掛けた結果、ゆらゆらと上下するが、結果は左へ傾いた。 僕が選択に迫られている間も、翼はしばらく部屋を見て周っていた。  こうして歩き回る姿を見ていると、翼が人間ではないことに違和感を覚える。人間らしすぎる。  そういえば、さっき握手を拒んだからわからなかったが、実体はあるのだろうか。実体があったとしたら、僕以外には見えないことなんて忘れそうだ。とても厄介になる。 ご飯はどうするのだろうか、人間生活とは違うのか? 同じだとして、そうなると僕が養う羽目になる? …やっぱ、追い出そうかな。  「レディーの体じろじろ見るとか…きみ…」 真剣に考えている間、僕は翼をじっと見てしまっていたらしい。そんな見ているつもりはなかったので、指摘されたことで焦ってしまう。  「違う!別に見てたわけじゃない、見てたけど意味はない!」  「見てたんじゃん!すけべ!」 体を見ていた理由を誤解されそうな僕はどうしたらいいのか。簡単だ。やましい事ではないというのを証明すればいいだけの話。 そもそも僕がそんな目で見ないことくらいわかれよ!  「翼に実体があるのか気になって見てただけだ、何もやましい理由なんてないだろ?」  「実体?」 大きく膨らませていた頬から空気が抜け、今度は目を大きくする。  「そう、実体」 握手を求めてくるくらいなら、実体はあるのかもしれない。実体がなくとも触れたくはないが。 僕はすんなりと答えてくれると思っていた。 だが、翼は名案を思いついたと言わんばかりに、笑みを溢し、人を煽るように目を細めた。  「気になるなら、触って確かめてみればいいじゃん」  「は…?」 翼は、抵抗しない意思を体で表す。腕を横に伸ばし、ほら!と急かした。 いっそのことすけべのままであればよかったと、軽く後悔した。 しかし、僕は思いついてしまう。 翼に抵抗する一つの方法があるじゃないか。 翼に流されるわけにはいかない。僕はここで負けたくはない。  「いや、触らなくても確かめる方法ならある」  「なになに?」 興味深そうに僕を見つめる翼。 僕は、左手に握られたスクールバッグを、右手に持ち替え、翼目掛けて投げた。 突然のことに、抵抗出来ずにいる翼に向けてスクールバックが迫る。  「びっっっくりした〜!!!」 目を大きく見開いて大声を出す翼に構うことはない。 僕は翼に実体はない事を確認した。スクールバッグは翼ではなく、壁に当たり落ちたのが証拠だ。  「ちょ、ちょっと!急に物投げるとかっ、人の心持ち合わせてる!?」  「触りたくないんだから、僕にとっては最善の行動」 そう、僕にとってはこれが最善な選択だった。ただそれだけだ。触れたかったわけじゃなくて、知りたかっただけなのだから。  「確かにそう、かも…って。流されないからなー!」 一瞬納得しかけた翼は、負けずと勢いをつけて言い返すが、僕には響かない。  「誰も流そうとはしてないだろ」 完全に翼が一方的に流されたのに。 文句を心の中で留める。 乾いた喉を潤すために、汗が乾きかけているペットボトルのキャップを開け、一気にりんごジュースを流し込んだ。 完全に美味しいとは言えない。生ぬるい。 せっかく贅沢な飲み方ができると思ったのに。  「はぁ…」 毎日の楽しみを見知らぬ死神に奪われた僕は、あからさまに溜息を吐く。 翼はそれに何一つ反応を示さず、鼻歌を歌っていた。  何時だろう。明るさ的にもう夕方頃か。  スマホを開くと、時刻は既に午後五時。 僕は帰ってきてから、二時間も翼に振り回されていたのか。 半分は、翼が一方的にぺらぺらと何かしらを語っていた時間だろうけど。
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