悪役俳優として生きるために、恋愛も結婚も捨てた男。
その設定は確かに面白い。
だが読み進めるうちに、別のことが気になり始めた。
本当にこの主人公は、「悪役俳優として生きる覚悟を決めた人間」なのだろうか。
前回の巡回ログで紹介した作品が本当に面白くて、一か月ほどひたすら読んでいた。
1,600話を超える長編作品だったが、不思議と飽きることなく最後まで読み進めることができた。
こういう作品にふいに出会えるのがカクヨムの面白いところだと思う。
さて、今日はランキング作品を巡回したい。今回開いた作品はこちら。
『実力派の有名悪役俳優(30歳)は、週刊誌に実生活では物凄く良い人であることを暴露されてしまってイメージが全て崩壊。そして人生が終了...する?』
https://kakuyomu.jp/works/2912051598339681731主人公は30歳の悪役俳優。
若くして悪役専門の俳優として一定の地位を築いている人物だ。
悪役としてのイメージを守るため、恋愛や結婚といった私生活の幸せすら犠牲にしてきた。
しかしある日、週刊誌によって彼の私生活が暴露されてしまう。
ところが問題になったのは不祥事ではない。
むしろ逆だった。
実生活では驚くほど善人だったのである。
ジャンルはラブコメ。
久しぶりに異世界テンプレではなく、現代ラブコメを選んでみた。
読んでまず感じたのは、とても読みやすい作品だということだ。
主人公は善人であり、周囲にも比較的好意的な人物が多い。
そのため物語全体の空気が軽く、ストレスなく読み進められる。
また、主人公自身は意図していないにもかかわらず、その人柄によって周囲から好感を集めていく構造もラブコメとして分かりやすい。
難しいことを考えずに読める。
そういう意味では、非常に間口の広い作品だと思う。
重い作品を読んだ後などには、こうした軽快な作品が妙に心地よく感じることもある。
ただし、個人的には気になる部分もあった。
それが主人公の人物像である。
主人公は30歳。
しかも芸能界という競争の激しい世界で、悪役俳優としてキャリアを積み上げてきた人物だ。
ところが内面描写はかなり幼い。
言動や思考回路が、どちらかといえば陰キャの高校生や大学生に近く感じられる場面が少なくなかった。
もちろん、そのような主人公が悪いわけではない。
しかし私には、「30歳まで芸能界で生き残ってきた人物」という設定との間にズレがあるように見えた。
さらに気になったのが、「悪役俳優として生きる覚悟」と実際の生活の関係だ。
作中では、主人公は悪役俳優としてのイメージを守るため、恋愛や結婚すら諦めてきたと語られる。
ところが私生活を見ると、特にイメージ維持のための行動はしていない。
普段は自宅に引きこもってオンラインゲームを遊び、
オフ会に参加して一般人との交流も普通に行っている。
もちろん不祥事を起こしているわけではない。
しかし、悪役俳優という職業に人生を捧げて、イメージを保つことに必死になっている人物として見ると、少し不思議に感じた。
例えば役作りを重視するタイプの俳優であれば、自分が演じる人物像を理解するために様々な場所へ足を運ぶこともあるだろう。
興味の有無は別として、夜の街や裏社会に近い空気を観察することもあるかもしれない。
だが本作の主人公は、そのような職業人としての側面がほとんど描かれない。
悪人面というだけで、実力派の悪役俳優として成功したとでもいうのだろうか。
そのため、「悪役俳優だからこう生きている」ではなく、
「物語のために悪役俳優という設定が置かれている」だけのように見えてしまった。
ここは私がキャラクターの行動原理や職業的な説得力を重視する読者だからこそ、引っ掛かった部分なのだと思う。
もちろん、これは作品の欠点という話ではない。
本作が重視しているのは、おそらくそこではないからだ。
この作品は芸能界のリアリティや俳優論を描く物語ではなく、
「実は良い人だった悪役俳優が周囲から好かれていくラブコメディ」
として作られている。
だからこそ主人公も親しみやすく、読者が感情移入しやすい人物として描かれているのだろう。
実際、その方向性は多くの読者に受け入れられているように思う。
私自身は、キャラクターの行動に説得力があり、職業や社会構造が見えてくる作品が好きだ。
世界観と人物像が強く結びついている作品には、特に惹かれる。
その意味では、本作は少し好みから外れていた。
ただ、それはあくまで相性の問題だ。
読みやすさやテンポの良さは確かに魅力であり、実際に多くの読者が求めているものでもあると思う。
いわゆる、「こういうのでいいんだよ」と思えるラブコメが読みたい人。
難しいことは考えず、好感の持てる主人公と軽快な掛け合いを楽しみたい人。
そんな読者には合う作品ではないだろうか。
肩の力を抜いて楽しめる作品を探している人は、一度読んでみてもいいかもしれない。
さて、次はどんな作品に出会えるだろうか。
今日もまた、ランキング巡回の続きだ。