「突っ込みどころが多く、正直あまり好みに合わない」
そう思っていた作品が、読み進めるうちに、まったく違う物語に見えてきた。
今日もランキングを巡回する。今回開いた作品はこちら。
『氷河期ストレージ ~生き返った俺はすべての甘さを捨てて、この絶望を生き抜く~』
https://kakuyomu.jp/works/2912051605717497440ランキングに掲載されていたのは第二部にあたる『氷河期ストレージⅡ ~雪が止んだ日、世界は再び動き始めた~』だったため、今回は第一部から読むことにした。
作者による作品紹介には、こうある。
「生きるためなら、人はどこまで人を捨てられるのか。」
世界を襲った、予測不能の異常寒波。
気温は急降下し、物流は止まり、電気も水道も失われていく。
食料が尽き、救助も来ないと悟ったとき、人々が当たり前だと思っていた秩序は崩れ始める。
奪う者。従う者。裏切る者。
そして、生きるために誰かを見捨てる者。
これは極寒の世界を舞台に、人間の本質と、崩壊した文明の先に生まれる新たな社会を描く物語である。
ジャンルは現代ファンタジー。
異常気象に襲われた日本を舞台に、社会秩序が崩壊していく中で、人々がどのように生きていくのかを描いた作品だ。
主人公の神崎蓮は、好意を持っていた相手に食べ物を分けようとしたところ、その相手から食料を奪われたうえに殺されてしまう。
「もし次があるなら、今度は自分のために生きる」
そう思いながら意識を失った蓮が次に目を覚ますと、そこは異常寒波が襲来する一か月前だった。
しかも、異空間に物を収納できる能力付きだ。
一か月後の寒波に備え、今度こそ生き抜く。
そして、もう誰も信じない。
そう決意した蓮は準備を始める。
正直なところ、序盤の準備編は私の好みではなかった。
以前のランキング巡回ログ#1でも触れたが、現代社会を舞台にした作品では、どうしても現実社会との整合性が目についてしまう。
この作品では、一か月という短期間で、資金を確保し、高級マンションを購入し、それを要塞化する。
そして、収納能力を利用して大量の物資を集める。
しかし、その過程にはかなり突っ込みどころがある。
例えば、主人公は、必要な資金を確保するため金融知識を駆使するのだが、ここで初めて主人公が金融関係の仕事をしていたことが明かされる。
前世での描写から、私は蓮を「お金にも余裕がなく、女性にも縁がない人物」くらいに想像していた。
ところが、実際には金融マンだった。
このあたりは、主人公に必要な能力や属性が、物語を進めるために後から配置されたようにも感じられる。
さらに、高級マンションの最上階角部屋を購入し、銀行の貸金庫のようなセキュリティを持つ拠点へ改造していく。
一か月という期間での大規模なリフォームや、マンション構造や法規制を考えると難しそうな改造なども含め、序盤の整合性にはかなり引っ掛かった。
コメント欄でも、こうした展開について疑問を呈する読者は多い。
作者もそれを受けて修正を行っているようだが、私としては、それでも違和感が拭えない部分が多かった。
そのため、序盤は読むのがなかなか辛い。
ただ、ここで読むのをやめなかったのには理由がある。
作者自身がコメントへの返信で、序盤は物語を進めるために大胆に展開しており、準備編にはツッコミどころもあると説明していた。
そのうえで、本当に描きたいのは、氷河期が始まってから人間がどう変わっていくのかだという。
なるほど。
それなら、序盤はひとまず流して、氷河期に入るところまで読んでみよう。
目次を見ると、第15話から「Day1」が始まる。そこまで読み進めた。
そして――
気がつけば、Day100の第一部ラストまで読んでいた。
面白い。
正直に、そう思った。
ここで、この作品に対する見方が大きく変わった。
この物語は、主人公がチート能力と前世の経験を駆使して一人で生き残っていくサバイバルもの、というだけではない。
もちろん、蓮は要塞化したマンション最上階に住み、異常寒波に翻弄される階下の住民たちを安全な場所から眺めながら一人暮らしている。
しかし、だからこそ私は、蓮を「主人公」というより、世界を観察する「神」のような存在として見ると、この作品がすんなり入ってくることに気づいた。
「神」なら物語の展開に合わせたチート能力を持っていて、話が理想通りに進んでも不思議ではない。
では、この作品の本当の主人公は誰なのか。
私は、氷河期に翻弄される住民たちこそ主人公なのだと思う。
この作品では、マンションの住人だけでなく、その外で暮らす人々など、さまざまな人物の視点が描かれる。
子供を抱える家庭や、体力のない老人がいる家庭。
災害に備えていた家庭と、備蓄のない家庭。
医師などの専門技能を持つ住民。
マンションの管理人や住民代表。
そして、高級マンションの外で暮らしている人々。
同じ異常寒波に襲われても、置かれている状況も価値観も違う。
だからこそ、同じ「生き残る」という目的に向かっていても、選ぶ行動は変わってくる。
食料や物資が失われ、昨日まで当たり前だった社会のルールが意味を失っていく。
その中で、人間関係や感情も少しずつ変化していく。
ここに、この作品の面白さがあった。
序盤では、私は「主人公がどうやって生き残るのか」というサバイバルものとして読んでいた。
しかし氷河期が始まると、興味の中心が変わっていった。
「この人は、ここでどうするのだろう」
そう思いながら、主人公の周囲にいる人々を追うようになったのだ。
自分だけなら生き残れるかもしれない。
しかし、家族がいれば事情が変わる。
誰かを助けるのか。
自分が生き残ることを優先するのか。
それまで信頼していた相手を疑うのか。
逆に、思いもよらなかった人物に助けられるのか。
極限状態に置かれることで、それぞれの人物が選択を迫られ、その選択によって人間関係まで変化していく。
主人公の無双を見るというより、社会が崩れていく中で、人間がどう変わっていくのかを見る。
そう考えると、この作品の構造がよく分かる。
主人公が安全な場所にいるからこそ、その下で追い詰められていく人々の姿が浮かび上がってくるのだ。
私自身、序盤を読んでいたときには、ここまで読み進めるとは思っていなかった。
Day1からDay100まで、一気に読み進めてしまったのは、それだけ住民たちの行く末が気になったからだろう。
ここでは、具体的にどのような人間模様が描かれるのかには触れないでおきたい。
この作品の面白さは、それぞれの人物が置かれた状況を知ったうえで、「この時、人はどう動くのだろう」と追っていくところにあると思うからだ。
なお、作者は『氷河期ストレージ』のプロモーション動画も作成している。
作品の雰囲気を掴むには、こちらを見るのもよいと思う。
『氷河期ストレージプロモーション動画』
https://youtu.be/9ETA2QTGttgしたがって、この作品は誰にでもおすすめできる作品ではない。
私がもしおすすめレビューを書くのであれば、評価は☆2になるだろう。
主人公が主体的に動く序盤の準備編には、整合性という面でかなり強い違和感を覚えるからだ。
一方で、現代日本を舞台にした細かな整合性よりも、極限状態に置かれた人々の選択や人間関係を描く群像劇を楽しみたい人には、合う作品だと思う。
実際、私自身も、氷河期が始まってからは主人公の行動以上に、その周囲で生きる人々の選択が気になっていった。
主人公を中心としたサバイバルものだと思って読み始めた作品が、読み進めるうちに、社会が崩れていく中で人々がどう生きるのかを描く群像劇として見えてきた。
この作品の見え方が途中で変わったことが、今回の読書で一番印象に残ったところだ。
主人公の無双そのものよりも、主人公が「神」のような存在になったことで、その下で生きる人々の物語が浮かび上がってくる。
『氷河期ストレージ』は、そんな独特の構造を持った作品だった。
さて、次はどんな作品に出会えるだろうか。
今日もまた、ランキング巡回の続きだ。