こんばんは。通院モグラです。
みなさまいつもノートにもいいねやコメントをありがとうございます!最近ノートばかり更新しまくっていますが、暖かくお付き合い頂いて嬉しいモグラです…☺️
さて今回は、前回ラジオ編でお便り頂きました『遠部右喬』先生のお作品から一作拝借して、ラジオ形式で感想を語ってみる企画です。
読ませて頂いたお作品はコチラです。
▶︎『かんばせの縁』
https://kakuyomu.jp/works/2912051595801029759いつも皆様方のお作品を読むと、脳内では色々な角度から感想が走っているのですが、コメント欄に圧縮しようとするとへたっぴになってしまうのが悔やまれます……
ということで、目線の違うキャラの会話形式であるのをいいことに、私がお作品を読んだ時の素直な驚きや、構成力を感じた事をありのままお伝えできたらなぁと…試しに書いてみましたので、お付き合い頂けたら幸いです。
遠部右喬先生、改めて御礼申し上げますー!
(もしこのご紹介の仕方でご指摘事項ありましたらご連絡いただけますと幸いです…お作品のファン目線で書いてしまいましたが、解釈違いやご不快になる点がありましたら取り下げますので!!)
◤Eden/ラジオ編③.5
深夜の救難ゆる談義◢
第三・五夜「腹の底から来る話」
(SE:ジャンクなジングル。いつもの安っぽい電子音に、今夜は少しだけ低い無線ノイズが混じる。遠くでローター音が鈍く回っている)
ハンニバル「みなさんこんばんは。
時刻は深夜。そろそろ脳が、“これは仕事なのか夢なのか”の区別を雑にし始める時間です。
そんな境界のゆるい夜に、今夜もナイトフォールの隅っこからお送りします。『J-MET12プレゼンツ・深夜の救難ゆる談義』のお時間でーす」
(SE:小さな拍手。ひとつだけ妙に気合いが入っている)
ハンニバル「お相手は、怪談を読むと最初に“診療科どこ回す?”を考えてしまう女、J-MET12主席医官ハンニバルです」
トリガー「今夜も番組の方向性が危うい。トリガーだ」
ハンニバル「危ういくらいでちょうどいいのが深夜ラジオだからね。
そしてこちら、怖い話を聞いても声量はたぶん変わらない男。私の専属護衛、エデンくんです」
エデン「……エデンです」
ハンニバル「よし、今日も聞こえた」
トリガー「毎回生存確認みたいな扱いだな」
エデン「……否定は、しません」
(SE:紙を整える音。ヘッドセットが小さく擦れる)
ハンニバル「さて今夜は、第3夜でおたよりをくれたラジオネーム“猫の下僕”さんの作品を、三人で勝手に読んで、勝手に感想を喋る回です」
トリガー「勝手を二回重ねるな」
ハンニバル「でも実態としてはそうだから。
おたよりだけでもセンスがよかったのに、作品までちゃんと“夜中に読むとじわじわ嫌なやつ”でね。これはもう一回、番組として拾うしかないだろうと」
エデン「……けっこう、気味悪かったです」
ハンニバル「褒め言葉だねえ。
というわけで今夜取り上げるのは、猫の下僕さんが書かれた怪談――『かんばせの縁』です」
(SE:紙を一枚めくる音)
ハンニバル「これがね、落語みたいな語り口で始まるんですよ。最初は“お、ちょっと面白い噺かな?”って顔して入ってくるのに、読んでるうちにじわじわ足元が嫌になってくる。
ざっくり言うと、冴えない男の腹に、どう考えても普通じゃない“顔”めいたものができて、しかもそれが喋る」
エデン「……嫌です」
トリガー「要約が短いのに十分嫌だな」
ハンニバル「でしょ?でもこの作品、ただ“ぎゃー気持ち悪い”で押す話じゃないの。
喋るその顔にも言い分があって、執着があって、恨みがあって、ちょっと妙な情まで混じってる。
だから笑っていいのか怖がればいいのか分からないまま、気づくと最後まで読まされる」
トリガー「形式が落語調だからな。異常が異常の顔をしたまま、妙に座りよく収まってしまう」
エデン「……変なのに、読みやすいです」
ハンニバル「そう。そこが上手い。
“腹に女の顔ができて喋る”って、文章だけ抜き出すとかなり正気じゃないのに、読んでるあいだは“まあそういう噺なら……”って座らされるの。怖いねえ、語りって」
トリガー「今夜は、その“怖いのに妙に座って聞けてしまう感じ”も含めて、三人で勝手に読後コメントしていく」
ハンニバル「そういうことです。
では行きましょう。深夜の怪談読書会。
まず私から。これ、医者としては嫌です」
トリガー「開口一番そこか」
エデン「……やっぱり」
ハンニバル「だって嫌でしょ。腹だよ? 顔だよ? しかも喋るんだよ?“ちょっと湿疹かな”じゃないの。完全に説明責任が発生してる」
トリガー「説明責任」
ハンニバル「問診票が地獄。
“いつからですか?”
“二週間ほど前から、腹に女の顔が……”
もうこの時点でこっちが一回深呼吸する」
エデン「……受付がつらいです」
ハンニバル「そう! 受付さんがかわいそう!
しかも紹介状とかどう書くの?“腹部異常腫瘤、顔貌あり、発話あり”?」
トリガー「嫌なカルテだな」
ハンニバル「でもちょっと見たい」
トリガー「本音が漏れたぞ」
ハンニバル「学術的興味!」
エデン「……半分くらい、嬉しそうです」
ハンニバル「七割くらいかな」
トリガー「増えたな」
ハンニバル「だって珍しいんだもん。
いやでもね、そこがいいの。単に“気味の悪いできもの”じゃなくて、ちゃんと口がある。喋る。感情がある。うるさい。
この“うるさい”っていうのがすごくいい」
エデン「……うるさいの、いいんですか」
ハンニバル「怪異はちょっとうるさい方が記憶に残るの。静かに立ってるだけでも怖いけど、弁が立つともっと厄介でしょ」
トリガー「それはそうだ」
ハンニバル「しかも、ただの化け物の寝言じゃなくて、ちゃんと“言いたいことがある顔”なんだよ。
ここがずるい。嫌なのに、話を聞かされる」
エデン「……腹から」
ハンニバル「そう。腹から。
比喩じゃなくて物理で腹の底から声出す女」
(SE:一瞬、妙な沈黙。機体の金具が小さく鳴る)
トリガー「今の言い方はだいぶ嫌だな」
ハンニバル「でしょ? 作品もそういう嫌さが上手いの。あと、語りの調子がいい。落語っぽいから、どれだけ変なことが起きても“そういう噺です”って顔で押し通される」
トリガー「形式が強いから内容の異常さを受け止められる。そこは巧い」
ハンニバル「そうなの。人間、腹に顔がある話を、こんなに座って聞かされると思わないじゃん」
エデン「……普通は、逃げます」
ハンニバル「でも逃げられない。気になるから。
“いやいやそんな馬鹿な”って笑ってたら、じわじわ気味悪くなってくる。その配分がうまいの」
トリガー「では次、俺か」
ハンニバル「お願いしまーす。辛口書評家トリガー大佐」
トリガー「勝手な肩書きを付けるな。
……俺がまず面白いと思ったのは、口調だ。
地の文からして“語る声”が立っている。単に江戸弁風の言い回しを置いているのではなく、“今竹松という話者が客前で回している”という前提が崩れない」
ハンニバル「おっ、急に分析がちゃんとしてる」
トリガー「最初から最後まで、視点の重心がぶれにくい。そのおかげで、内容がどれだけ馬鹿馬鹿しくなっても、形式が保ってくれる。腹に女の顔ができて喋る、などという事態は普通なら即座に崩壊しかねんが、語りの芯があるから読ませる」
エデン「……すごいです」
ハンニバル「ほんとね。設定だけ抜き出すとかなり狂ってるのに、“そういう噺なんです”って顔で座られると、こっちが正座しちゃう」
トリガー「あと、怪異側の言い分が一方的な化け物のそれで終わらず、ちゃんと“恋”と“恨み”のねじれとして出てくるのがいい。筋としては滑稽だが、感情としては笑い飛ばしきれん」
ハンニバル「うわ、分かる。
“そんな理屈で恨まれても困る”って読みながら思うんだけど、その理不尽さ自体が、執着とか恋の後腐れっぽいんだよね」
トリガー「そうだ。
理性で見ると無茶苦茶だが、情念としては妙に理解できてしまう。そこが怪談として効いている」
ハンニバル「珍しく大佐がちゃんと文学の話してる」
トリガー「珍しくは余計だ」
ハンニバル「あとどう?」
トリガー「短いのもいい。無駄に伸ばさず、落語の“演目一本”として閉じる長さに収めているのが賢い。読後に“もう一席”と言いたくなる程度の分量だ」
ハンニバル「うわ、言い方が粋だな。腹立つ。
はい、では最後。無口代表、エデンくん。どうでした」
エデン「……面白かったです」
ハンニバル「うん、もうちょい欲しい」
エデン「……最初、笑っていい話なのか分からなかったです」
ハンニバル「分かる」
エデン「…でも、読んでいるうちに、怖いのと、おかしいのと、少し可哀想なのが、同時に来ました」
トリガー「妥当だな」
エデン「……腹に、顔があるのは嫌です」
ハンニバル「そこは全会一致で嫌」
エデン「でも、その顔が、ただの化け物じゃなくて、ずっと言いたかったことがある感じなのが……嫌なのに、少し分かる気がしました」
ハンニバル「おっ」
エデン「……誰かに忘れられてるのが、いちばん腹が立つ、みたいな」
(SE:一拍、静かになる。ローター音だけが薄く残る)
ハンニバル「……ああ、そうだね」
トリガー「なるほど。お前はそこを拾うか」
エデン「……はい。だから、できものが喋るのは変なのに、“思い出せ”って言ってるのは、少しだけ真っ当で……そこが、気味悪いのに、ちゃんと痛かったです」
ハンニバル「うわ、いいコメントするじゃん」
エデン「……あと、会話が速くて読みやすかったです」
ハンニバル「急に実用」
エデン「……大事です」
トリガー「大事だな」
ハンニバル「いやあ、でもあれだね。この作品、怖がらせ方が“どん!”じゃないのがいい。
最初は“なんだそりゃ”って笑って、次に“いや待って嫌だな”ってなって、最後にちょっと情が残る」
トリガー「落語仕立てだからこその運びだな。
正面から脅すのではなく、喋りの勢いで客席を連れていって、降ろす場所だけ怪談にしている」
エデン「……変なものを、変なまま終わらせない感じがしました」
ハンニバル「お、またいいこと言う。
そうなんだよね。単に珍妙な症例集でも、ギャグ一本でもなくて、ちゃんと“執着の話”として残る。そこが効くのよ」
トリガー「滑稽さと情念の両立は、やろうとしても案外難しい」
ハンニバル「だから読後に、“嫌だったな”で終わらないんだよね。“嫌だったけど、よかったな”が残る」
エデン「……はい」
ハンニバル「あと個人的に、あの話を読んだあとで腹を触ると、ちょっとだけ嫌」
トリガー「お前が言うと感染性の何かみたいだな」
ハンニバル「やめて。いちばん嫌な寄せ方しないで。
でも、怪談ってそういうものじゃん。読み終わったあと、日常のどこか一か所がちょっとだけ気持ち悪くなるの。あれが上手い」
エデン「……夜に読むと、少し困ります」
ハンニバル「褒めてるねえ」
エデン「…はい」
トリガー「結論としては、形式が強く、会話が速く、怪異がうるさく、情念が後に残る。
短いのに印象が残る、うまい怪談だ」
ハンニバル「いいねえ。帯にしたいくらい綺麗」
エデン「……“怪異がうるさい”は、帯にして大丈夫ですか」
ハンニバル「私は好き」
トリガー「好き嫌いで決めるな」
(SE:誰かが紙を軽く叩いて揃える音)
ハンニバル「というわけで、猫の下僕さん。おたよりに続いて作品まで読ませていただきました。
三人とも感想の方向は違ったけど、共通してたのは、“気味悪いのに読まされる”、“怪異がちゃんと喋るのが強い”、“短いのに後に残る”、このへんかな」
トリガー「妥当だ」
エデン「……ありがとうございました」
ハンニバル「ありがとうございました。
深夜ラジオで読むにはちょうどいい嫌さで、でも読み終わったあとに少し残る痛みもあって、すごくよかったです。こういうの、好きなんだよなあ」
トリガー「お前の“好き”はだいたい治安が悪い」
ハンニバル「失礼な。
でも今夜ばかりは否定しない」
(SE:ローター音がほんの少し深くなる。無線ノイズがかすかに混じる)
ハンニバル「というわけで今夜は、第3.5夜。
猫の下僕さんの作品『かんばせの縁』を三人で勝手に読んで、勝手に感想を言い合う回でした。
起きて働いてる人は、夜中に腹のあたりが気になっても、とりあえず一回深呼吸してから考えてください。
寝られる人は、寝る前の怪談は用法用量を守ってどうぞ」
トリガー「深夜の読書は判断力を削る。そこに怪談を足すと、ろくな発想にならん」
エデン「……今日は、よく分かりました」
ハンニバル「それじゃ今夜はこのへんで。ナイトフォールの片隅から、ハンニバルと」
トリガー「トリガーと」
エデン「……エデンでした」
ハンニバル「また次の深夜に。生きてたら、聞いてねー」
(SE:チープなエンディングジングル。途中で無線の砂嵐に少しずつ食われ、最後に短いビープ音で切れる)