友人はつい最近、私が刑事ものの小説を書いていることを知った。殺し屋がいて、銃が出てきて、犯罪組織まで登場する。おまけに二人の主人公は、どちらも無茶ばかりする男で、いつ満身創痍になってもおかしくない。そんな話だと知るや、嬉々としてメッセージを送ってきた。
友人「主人公が怪我するシーンとかないの? そういうの見たい」
私「少なくとも今のところ、二人ともぴんぴんしてるよ」
友人「でも、ずっと犯人を追ってるんでしょ? 戦ったりもするんでしょ? だったら、そのうち誰かしら怪我するよね?」
私「……まあ、そうだけど。でも今のところは……ない」
友人「チッ」
私「舌打ちした!?」
そんなやり取りをしているうちに、ふと、子どもの頃に『ウルトラマンレオ』を見ていたときのことを思い出した。
子どもの頃、テレビではいろいろなアニメが放送されていた。そのなかでも、『美少女戦士セーラームーン』や『カードキャプターさくら』、『パワーパフ ガールズ』といった、少なくとも見た目だけは人畜無害そうな作品ばかりを見ていた。
主人公たちの衣装はかわいらしく、画面も色鮮やかで、苦戦してもせいぜい五分ほどで片がつく。とにかく最後は必ず正義が勝つ。
けれど、それでは隣の席の子との共通の話題がない。
彼が好きなのはウルトラマンだった。
学校は退屈で仕方がなかったので、少しでも話の種を作ろうと、セーラームーンはいったん封印し、ウルトラマンを見ることにした。
当時、テレビで放送されていたのが『ウルトラマンレオ』だった。正直、内容はわかったような、わからないような感じだった。ただ、話の大筋だけなら子どもにも追いやすかった。ものすごく無責任かつ乱暴にまとめれば、こうだ。
怪獣が現れる。隊員たちが出動する。けれど歯が立たない。ウルトラマンが登場する。ウルトラマンもピンチに陥る。それでも最後は勝つ。
――ウルトラマン好きの皆さん、ごめんなさい。子どもの頃の私には、この程度の理解が限界だった。
何話か見ただけで、このパターンを完全に把握したつもりになった。頭の中で何度も会話の流れをシミュレーションし、休み時間になると、さりげなさを装って隣の席の彼に話しかけた。
「昨日のレオ、かっこよかったよね……」
ところが、彼はさほど感心した様子もなく言った。
「いつになったら怪獣がレオに勝つんだろう……」
その一言を聞いた瞬間、当時九歳だった私の心に激震が走った。
――君と話すためにセーラームーンを諦めて、わざわざウルトラマンを見始めたのに、どうして正義を裏切るの!?
もちろん、彼は一度も「ウルトラマンを見てくれ」などと頼んではいない。何もかも、こちらが勝手にやったことなのだが……。
……とはいえ、正義など、隣の席の彼と話が弾むかどうかに比べれば、取るに足らないものだった。
そこで即座に正義の陣営を捨て、悪の側へと寝返った。今度は一緒になって、レオが怪獣に叩きのめされる回を心待ちにするようになった。
そして、その期待が裏切られることはなかった。
今となっては、『ウルトラマンレオ』がどんな物語だったのかも、どんな怪獣が登場したのかも、ほとんど覚えていない。それでも、あの恐ろしい場面の数々だけは、今もしぶとく記憶にこびりついている。
あの頃は、夕方にテレビを見ては、夜に悪夢にうなされていた。それでも翌日学校へ行くと、大真面目な顔でこんなことを話していた。
「昨日の怪獣、もう少し頑張ればよかったのにね。あとちょっとで勝てたのに……!」
今思えば、自分でも何を言っているのかさっぱりわからない。宇宙の平和を守るために戦っていたウルトラ戦士の皆さん、本当に申し訳ありませんでした……。
それから何年も経って、世の中には「悪役推し」と呼ばれる人や、キャラクターが傷だらけになる姿に萌える人もいるのだと、ようやく知った。
よかったね、あの頃の君。正義を裏切ったのではなく、私よりずっと早く、自分の性癖に忠実だっただけなのだ……!
そして現在、いかにもボロボロになりそうな主人公を二人も作っておきながら、どちらも元気いっぱい、ほぼ無傷のままここまで話を進めてしまった。
私「その、今のところはまだないけど、そういうシーンもちゃんと書くつもりはあるんだよ。主人公が昔怪我をしたことを匂わせる描写とか、一応あるし……」
友人「匂わせだけじゃ、ちょっと……。じゃあ、そういうシーンまで書いたら読みに行くね!」
私「……」
もしかすると友人の目には、今の私こそが、あの「もう少し頑張ればよかったのに」と言われる怪獣に映っているのではないだろうか。
そんなことを考えながら、そっとノートパソコンを閉じた。
……まあ、少なくとも今日はいい天気だ。