タイトルは「何故戦うか」の辺りですけど、これも没ネタ供養です。
ネタを考えている中で思い浮かんだものですが、ここから話を膨らませるのは難しい一発ネタ…ということで一話だけ書いてみたものです。
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その名はシュン=キサラ。
桃色の髪に整った顔立ち、小柄だがしっかりと主張のある体つき。そして何より愛嬌のある声。それらを駆使し、参加した冒険者パーティの皆を魅了し内部分裂させてきた冒険者パーティクラッシャーである。
幾つもの冒険者パーティを潰してきたが、冒険者に恨みがあるわけではない。
それが趣味であり、生きがいなのだ。
もちろん逆恨みをされぬよう、内部分裂で争う皆の前で涙を流し自ら身を引くといった演技もばっちり。偶にしつこくつきまとい、体目当てで襲ってくるバカもいたが全て返り討ちしている。
なぜならば、シュンは高位の格闘家なのだ。
しかし冒険者パーティクラッシャーをする時は、大人しく気弱な僧侶として振る舞っている。だから与し易しとみて襲ってくるバカなど瞬殺だ。しかも、そんな婦女暴行未遂犯を衛兵に突き出せば報奨金が貰えてしまう。
趣味と実益を兼ねた冒険者パーティクラッシャーなのだ。
「さーて、次のパーティを分裂させるぞーっ」
少しだけ掠れのある独特な高い声でシュンは呟き、冒険者ギルドに顔を出す。
次の獲物を探してはいるが、実は前から目をつけていたパーティがある。最近ここらにやってきた最上位冒険者の二人組だ。
まさに理想的な獲物である。
以前から下調べをしていたとおり、今日も相手は狙いの食堂に居た。普段は二人だが今は戦士の男が一人で円卓につき、軽く食事をしている。この二人パーティが分裂した時を思うと、今からワクワクしてしまうぐらいだ。
一人になっているチャンスに、さっそくシュンは仕掛けることにした。
「あんのぉー、ちょっとよろしいですか?」
近くに行って丁寧かつ控えめに話しかける。戦士の男は嬉しそうな顔をして立ち上がると、椅子に座るようにと勧めてきた。
「どうぞ、どうぞ!」
「すいません。僕、シュンって言います」
ボクっ娘は冒険者にウケが良い。ちょっとだけ男っぽさがある女の子としてのギャップだけでなく、荒事をするお男性にとっては仲間意識を呼び起こさせるものだからだ。
「前に居たパーティが解散してしまって、どうしようかって困ってたとこなんです。だから、頑張りますから! 仲間にしてください!」
「それは大変だったね」
「はい。最近はお金も苦しくって、ご飯もあんまり食べられないぐらいなんですー」
「お腹すいてるの? いいよ、いいよ。何でも頼んで」
「本当ですか、ありがとうございますぅ!」
無邪気に遠慮なく食事をすれば、容易く餌付けのできる相手と思わせられる。さらに、ちょっと抜けている感じも出せる。さらには一食浮くので完璧だ。
「ここのご飯、すっごく美味しいです。あ、これ食べてみます? えーっと……」
「あ、俺はレモハブって言うんだ」
「そうですか、レモハブさんなんですね。これ、どうぞ」
「よっしゃ嬉しいぜ!」
「わっ凄い、一気に食べちゃった。もう一つどーぞー」
すっかりデレデレになったレモハブの様子に、シュンはほくそ笑む。これが最初の一手で、もう一人の仲間が来る前にもっと好感度を稼いでおく。
どれだけ時間をかけパーティを潰すか、シュンは楽しく考え食事をした。
「あら、この子は誰なの?」
不意に呆れを含んだ冷ややかな女の声がした。
見ると冷たい目をした黒髪ロングの女が腕組みしながら見つめてきており、その隣にはこのパーティの一員である男が立っていた。
レモハブが男に話しかける。
「おう、シノフ。戻ったか」
「申請は終わった」
「これでティノさんも、俺たちのパーティメンバーだな。ちょうどな、こっちのシュンさんが参加したいって言ってくれたところなんだ」
レモハブとシノフの会話にシュンは眉を寄せた。男所帯のパーティを潰すつもりが、余計な女が参加するなど想定外だ。もちろん、それはそれでやり甲斐はあるのだが少しだけ面倒である。
そう思っていると、ティノが不満そうな顔をした。
「あたくしが先でしたのに」
しかも腕組みをして冷ややかな目を向けてくる。
――こいつ、まさか!
相手の表情や態度からシュンは悟った。
強者は強者を知ると言うように、冒険者パーティクラッシャーは冒険者パーティクラッシャーを知る。シュンは悟った、このティノが冒険者パーティークラッシャーであるということに。
――しかもツンデレ高飛車微エロタイプ!
普段は厳しく素っ気ない態度をみせながら、合間にデレを挟んで相手に期待を持たせていき、ここぞと思い切りのデレをぶち込んで相手を魅了するのである。
シュンのような、時間をかけて魅了するフレンドリー無知無邪気擬態タイプとは相性が悪い。
――だけど、僕は退かぬ媚びぬ顧みないよ!
負けられない戦いがここにはある。
「僕は回復系魔法が得意です。ティノさんは?」
「あら、そうなの。あたくしは攻撃系魔法ね」
「そうなんだー、でもそれだと活躍の時が減っちゃいそう」
レモハブは戦士で、シノフは魔法使い。つまり、このパーティに欠けているのは回復系。ティノの攻撃系魔法は、シノフと被る上に使いづらさがある。
「あら、大丈夫よ。ちゃんと支援魔法も使えますから。それより、貴方は回復だけ?」
「うっ……」
「最近は回復薬も安いわよね。回復系魔法だけなら、戦闘中は突っ立ってるだけのつもり? それどころか、誰かが側で守りにつかないと駄目かもしれないわね」
「た、多少の護身はできますから」
もちろん実際は格闘術がある。
しかし今は回復系に擬態しているため、今更ここで格闘術があるとは言いがたい。
「まあまあ、まあ」
レモハブが困り笑いを浮かべながら宥めに入ってきた。
明らかにシュンもティノも手放す気はないといった様子であり、ここで冒険者パーティークラッシャーによる密やかな戦いが繰り広げられているとは気付いていない。
「二人とも仲良くね。これから二人揃って壊れないように頑張って貰うから」
「……?」
「じゃあ、そろそろ出発してもいいかな」
「ちょ、ちょっと待って」
シュンは不穏な言葉に訝しみながら手を挙げた。
「いま何だか壊れないようにとか……言ってなかった?」
「ああ、言ったよ」
そう答えたレモハブは平然としている。軽く笑みを浮かべているぐらいだ。
「これから君らを、魔王城まで連れて行く」
「え?」
何か変な言葉が聞こえた気がした。
だが、それを問いただす前にレモハブが続ける。
「そこは極悪最強モンスターばかり。俺たちの側を少しでも離れると、あっという間に嬲り者にされるという場所だ」
「ちょっと!?」
「俺たちなしでは死ぬしかないという恐怖の日々を味わって貰い、俺たちの側を離れたら死ぬという認識に浸って貰う。ああ、でも安心してくれ。別に君たちを、俺たちに依存させようというつもりではない」
レモハブが頷くとシノフも頷いている。
「そうした恐怖をたっぷり味わって貰った後で、君たちを荒野で放り出す。もちろん君たちが一人でも倒せる程度のモンスターの居る場所でだ」
「ど、どうして……?」
「その時の君たちは、俺たちなしでは生き残れない状況を味わい尽くした後だ。刻み込まれた魔物への恐怖のなかで、君たちがどうするのか。いや、どうなるのか。それを見たい」
シュンが後ずさると、レモハブは同じだけ距離を詰めてくる。
「安心してくれ、魔王城では俺たちが必ず守ってみせる。どんな攻撃からだろうと守ってみせ、どんな相手だろうと倒してやる。守られるという安堵を、心の底まで刻み込んでやるさ」
無邪気で嬉しそうなレモハブの笑みが、悪魔の笑みに見える。
その時だった、ティノが身を翻して逃げ出したのは。恐ろしい勢いで走って酒場の窓に身を投げ出し外に飛び出した。
「シノフ、逃がすなよ」
「分かっているさ、問題はない」
「そうか。しかし思ったより行動的な子だったな。それはともかく――」
レモハブが振り向く。
「仮に逃げられても、まだ一人居るからいいけどな」
「ひいっ!」
シュンは後ずさった。
どこに逃げるか辺りに目を配る。入り口周辺は人が多くて逃げ切れない。そうなると奥にある扉だ。
「ああ、そっちは従業員用入り口だ。施錠されてるから開かないと思うよ」
レモハブが見透かしたように言った。嬉しそうな純真さすらある態度で、それが余計に恐ろしい。助けを求めて周りを見るシュンだが、最上位冒険者に意見するような者は誰一人としていない。
シュンは孤立無援で助けはなかった。
「こっ、来ないで!」
「そんな怯えなくたっていいじゃないか」
「やだ! やめて! 酷いことをしないで!」
「大丈夫だ。俺は君を守る。なにがあっても守る。ただ、それだけだ」
肩を掴まれた。
「ようこそ、我がパーティに」
レモハブの笑顔は、どこまでも爽やかなものだった。
それでも必死に逃げようとしたシュンだったが、逃げられるはずもない。あえなく捕まったティノと共に魔王城に連れて行かれた。守られ続けて心を壊されないためには、必死に前に出て戦うしかないのであった。
「そうこうする内に、格闘を極めたのが僕で。魔法を極めたのが、こっちのティノというわけです」
「うわぁ……」
魔王クロレッツは呆れとも感心ともつかない声を漏らした。自らに挑んできた二人組の女性に、何故戦うのかと問うた答えが、今の話である。