カクヨムプライベートコンテスト2025にご参加いただき、ありがとうございます。
当初は200作品程度の応募を想定したのですが、それをはるかに超える546作品ものご応募をいただき大変驚きました。好みのジャンルであるBL(全年齢)・ブロマンス作品を次から次へと読める喜びを噛みしめつつも、一つ一つをじっくり拝読したいと願う、とても幸せな選考となりました。
今回は「魅力的なキャラクターと骨太なストーリーでがっつり読ませる」「恋愛や友情を芯にしながら、ジャンルを飛び越えて物語を縦横無尽に駆け抜ける」というお題を提示しました。高難度にもかかわらず、軽々とハードルをクリアしてくる作品が多かったことも嬉しかったです。
特に、ホラー・ミステリー・現代ファンタジージャンルとの相性が良かったです。ジャンルが包含する緊張や恐怖、謎を軸にしたストーリーに絡んで、キャラクター同士の絆が浮かび上がる構図は、BL・ブロマンスとの親和性が高いのだなと再確認させられました。(単に私がそのジャンルを好きなだけ、という可能性も大いにありますが……!)
選考は提示したテーマの中でも「魅力的なキャラクター」「骨太なストーリー」を基準にしつつ、最終的には個人の趣味で選ばせていただきました。プライベートコンテストなので、その点はご容赦ください。どの作品にも作者の情熱が宿っており、とても幸せな読書時間となりました。
改めて、たくさんのご応募に感謝いたします。
奇々怪々かつ化学では証明できない人智を越えた現象を起こす存在とされてきた、妖怪。そんな妖怪と人が共生する世界で、ちょっぴり人見知りで目が多い半妖・百目鬼くんの〈推し活〉を描いた物語です。
痴漢から救った女性に誘われて、百目鬼くんは好きな漫画の2.5次元舞台を観劇します。そこで、運命的に推しに出会い、推し活に励むことに。初めてのことに挑戦する際の緊張や、コンサートや舞台中に抱くドキドキ・わくわくの感情描写がリアルで、読んでいるこちらまで気持ちが盛り上がります。さらに推される対象である伊原も、アイドルとしてのかっこよさと等身大の青年としての両面が納得感をもって描かれていて、「この人の出る舞台やコンサートに行ってみたい!」と思わせる魅力にあふれていました。
そのほかのキャラクターも、それぞれの人生を生きていて、それを会話から自然に伝える力量は見事です。また〈共生〉社会といえども、世間にはびこる偏見や社会からはみ出してしまう生きづらさ、受けた不当な扱いは、現実世界と重なっていて、不思議な設定の世界ながら、納得感とリアリティを生み出していました。
読了後は、主人公のかわいさや一途な気持ちに胸がキュンとし、この物語の先では二人はどういう風に生きていくのだろう。気になる……そんな気持ちにさせられる作品です。
世界観とキャラクターの魅力がしっかり噛み合っていて、推し活や成長物語が好きな人にぜひぜひ読んでほしい一作です。
幼少期に神殿に預けられ、神官として育った宰相の庶子シア。突然呼び戻されたあげくに、春をひさぐ仕事をしているという濡れ衣を父から着せられてしまいました。そのような仕事をするくらいなら、王の近侍として、場合によっては夜を共にせよと命じられます。実際にあった王は宰相との不仲を隠そうともしないのですが……。
主人公であるシアが、王の夜伽役として送り込まれる場面から始まります。初対面の王は殺気を隠さず歴戦の兵そのもの。宰相が送り込んできた近侍への警戒もあらわな王に対し、シアは誠実に向き合います。警戒と困惑から始まる二人の距離がじわじわ変化していく過程がとても良く、信頼と情愛の芽生えを自然に感じることができます。
物語全体の構成も巧みで、宰相の目論見はなにか、王の置かれている立場とはどういったものなのか、味方はいったい誰なのか――次々に提示される謎とその答えはさらなる謎を呼び、読者の興味を切らしません。王権の乗っ取りという大きな陰謀が二人の出会い以前から動いていたという設定が、物語のスケールに厚みをもたせているのも魅力です。
キャラクター描写も上手で、実直で誠実なシア、そして王としての威厳と脆さを併せ持つアルドリク――どちらも魅力たっぷり。そしてみんな大好きな精霊もかわいいが具現化した形で登場します。運命共同体となった二人が、仲間を増やしながら、どのように難局を乗り越えていくのか楽しみです。
陰謀、主従、謎、そして少しずつ育つ信頼関係、その全部が詰まった続きを読まずにはいられない物語です。
王を殺したとして収監されている元近衛隊長ジャウハラと、彼の看守サフラ、二人だけのやり取りで進む物語です。
閉ざされた独房という舞台と、処刑前夜の七日間という設定が最大限に生きていました。ジャウハラが望む晩餐と、二人のやりとりを通して、彼の来し方、価値観、性格が少しずつ浮かび上がってきます。短編という限られた文字数にもかかわらず、人物の奥行きや世界の厚みがしっかり感じられることに感嘆しました。
「なぜジャウハラは王を殺したのか」という謎を軸に、登場人物の様々な形の愛が交錯する構成も見事で、読んでいてどんどん引き込まれます。サフラとの会話によってもたらされるジャウハラの心情の移り変わりとともに、二人の関係性もまた変化していきます。短編でここまで骨太な物語に仕上げるのは簡単ではないはずですが、構成の巧みさとキャラクターの厚み、テーマの強度で、読後にしっかり余韻が残ります。
登場人物の心や世界の広がりを感じられる、良質な短編を読みたい方におすすめの作品です。
大正11年の帝都を舞台に、神隠し事件に挑む宮守馨とその仲間たちを描いた物語です。
父の跡を継ぎ神社の宮司を務める馨は、子どものころに神隠しに遭った妹を見つけた経験から、周囲には“神隠しを解ける神主”として期待されています。しかし本人は、失踪の多くが事件や事故、本人の意思によるものだと考えているリアリスト。神隠し事件の調査に巻き込もうとする法医学助手・高麗にへきえきとしながらも、お金のためにはやむを得ないと話を聞くことにしたのだが、いつしか富豪の妻の失踪事件は、霊が見える同級生・結城をも巻き込んでいき……。
妹の神隠し事件を描いた冒頭描写が見事で、ぐっと世界に引き込まれます。また大正時代の風俗描写も丁寧になされており、読んでいるだけで当時の帝都の様子や空気感が伝わってきました。キャラクターたちも個性的で、主人公はもちろん、生活能力皆無の画家や、謎めいた雰囲気を纏う法医学助手など、彼らがどのような関係性で、ここからどのように話が進んでいくのかが気になります。探偵もの(心霊もの)の定番要素をちりばめながら、「この謎の真相を知りたい」という期待をしっかり煽ってくれるのもポイントになっています。
謎解きや時代背景、キャラクターの魅力に満ちた中、この事件がどのような結末になるのか、続きが楽しみです。