自分が担当する特集欄で前回『ギャンブル小説』を紹介したわけですが、あれからひと月経った現在、「オンラインカジノ」関連の話題がちょうど凄いことになっていて、どうせなら今月をギャンブル特集にすればよかったかも……とちょっぴり思っております。しかし過ぎ去ったことを嘆いてもしかたがない。気を取り直して今回は新作特集「金のたまご」。一人の名探偵の生涯を追ったミステリーに、食べられそうにないモンスターを調理する現代グルメファンタジー、凄まじい肉体を作るために薬物に手を出した壮絶すぎるボディビルダーのドラマ、ゾンビとなった先輩との恋愛を描く狂気のラブストーリーと粒ぞろいの新作を集めました!
時は1950年、アメリカの名探偵エドワード・オーウェンの活躍を記録し続けた小説家アンソニー・ブレアが亡くなった。父を亡くしブレアの世話になっていたオーウェンの娘は、ブレアの私物の中から一冊の手記を発見する。短くまとめられたその手記には名探偵と記録者の出会いと別れ、そして意外な真実が記されていた……。
ワトスン的立場だったブレアの視点から、アメリカのシャーロック・ホームズと呼ばれたオーウェンの軌跡を描く本作品だが、オーウェンの生涯はある意味探偵小説の歴史をそのままギュッと凝縮したようなものにも見える。
活動を開始した当初は、数々の怪事件の謎を華々しく暴き立ててまさに名探偵といった活躍を見せたオーウェンだが、やがて探偵の存在そのものが事件に影響を与える「観測者問題」や、与えられた手がかりが全て正しいとは限らない「後期クイーン問題」など探偵が避けては通れぬ問題に次々ぶち当たっていく。それでも探偵であることを求められ続けた彼は「最後の事件」へと辿りつく……。
この一人の探偵の生涯だけでも十分に面白いのだが、本作をさらに魅力的にしているのが、語り手であるブレアの存在だ。出会った当初は意気投合していたが、時が経つに連れ探偵として謎解きを求められることに辟易とするオーウェンと、そんな彼に対して「きみにはシャーロック・ホームズでいてもらいたかったよ」と心中で思うブレアの関係性は大変エモい!
最後まで読み終えた後に、物語を最初から見返したくなるミステリーらしい仕掛けもしっかりとあり、ミステリーファンはもちろん探偵と助手の関係性が好きという方には是非読んでもらいたい。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)
ある日突然異世界と融合してしまった地球。人々に魔法や特殊な力が宿り、その一方で異世界の神々やモンスターが跋扈し社会や環境が激変し、食料問題解決のためにモンスターを食すのも当然となった世界。この混沌とした世界でハンターにして料理人である貝塚は弟子である柿本を連れて、新たな食材に挑戦を試みる。
「モンスターを食べる」という行為は近年のフィクションでは珍しくなくなったが、本作はそうしたテーマの一つ先をいっている。その内容はタイトルにある通り。そして最初に選ばれた栄えある食材が「木」である……木かぁ……。
しかし、この八王子に植林されている殺人樹(食欲の失せる名前だ……)を捕らえて食べようとする試みが非常に面白い。毒などがないか丁寧に成分調査を行い、全体の中から可食部を大真面目に探し、現実の利用法を踏まえたうえで意外な調理法を見つけ出す。
このプロセスだけでも面白いのだが、本作の白眉となるのが料理の描写である。出てくる料理がどれも美味しそうなのだ! 食材は「木」なのに! 一見出オチのようなアイデアにも関わらず、単品で終わらせずにしっかりコース料理に仕上げてくるのも心憎い。
美味い料理のためなら、とことん手段を選ばない貝塚が非常にいいキャラをしており、今後この男がどのような食材に挑戦していくのか、ぜひとも続きが読んでみたい一品に仕上がっている。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)
高校生の黒野一希は憧れだった生徒会長の朱嶋理音に意を決して告白する。帰ってきた返事はあまりにもあっさりとした承諾。その淡々とした反応に喜びと同時に困惑に襲われる一希だが、理音は続けて言う。「その代わり……ひとつだけ、お願いがあるの。キミの、脳みそを食べさせて」と……。
ゾンビになってしまい人間の心を取り戻すためには誰かの脳みそを食べる必要があると語る理音。だが一希も流石に脳みそを食べられるわけにはいかない。結局二人が合意したのは、一か月間試しに恋人となってその期間中に彼女の心を取り戻せられれば関係を継続するというもの。ただしダメだった場合は……。
言動の端々から死の気配を漂わせ、それが一つの退廃的な魅力になっている理音との会話は非常にスリリング。だが、本作で真に注目すべきは物語のスピード感だろう。
冒頭に提示された「理音は何故ゾンビになったのか?」という謎への答えは、中盤であっさりと明かされる……が、そこからの展開は読者の予想を大きく超える。畳みかけるような予想外の展開が連続して圧倒されてしまう。決して長くはないが、一度読み始めてしまえば最後まで一気読みしてしまうこと間違いなしで、狂気と偏愛に満ち溢れた内容に仕上がっている。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)