第6話(最終話)

 朝目覚めた時、スマホには姉が無事に出産したとの連絡が母親から入っていた。

 夜、病院に送った後、しばらくかかりそうだからと、母親は残り、俺だけ家に戻ってきた。


 今朝は、少し眠れなかったこともあり、比較的早くに目が覚めた。

 スマホの返信をし、冷凍ご飯をレンジにかけ、朝食を取る。


 今日は仕事があるから、もうすぐ出なければならない。

 準備をしながら、時計代わりにテレビをつけると朝のニュースが流れてきた。

 そのニュースを見て、リモコンを持つ手が震える。


「深夜0時頃、国道46号線で追突事故が起きました」


 あの鳥居の前で俯いていた男の子の姿が、頭に浮かんだ。俺はしばらく動けなかった。

 


 ――姉の見舞いに行けたのは、出産から三日経ってのことだった。


 仕事があったため、日中は病院に行くことができなかった。

 産後の回復は順調と聞いていたので、心配はしていなかった。


 ちょうど土曜日だったので、姉の病院に向かう。

 

 病院に着き、病室のドアを開けた。

 そこには、ベッドで寝ている赤ちゃんを姉があやしていた。


「あ、健太」


「ねーちゃん。お疲れ」


「うん、ありがとう」


 そう言って、俺は二人に近づく。


「病院送ってくれてありがとね。助かったよ」


「いや、俺もちょっと焦ってたけど」


 それを聞いた姉は、ふふっと笑う。

 俺は、ベッドに寝ている赤ちゃんの顔を覗き込んだ。


「小さい…。壊れそうだな」


「抱っこしてみる?」


「え、いや、怖いかも」


「大丈夫なのに」


 姉は無理矢理抱っこさせることはしなかった。


 俺は、赤ちゃんに近寄り、人差し指をそっと近づけみた。

 すると、赤ちゃんは、その人差し指をギュッと握りしめる。


「え、すごい。握りしめたよ」


 姉の方を向く。


「あ、反射だ」

「これ握ったの、健太がはじめてだよ」


 そう言って、姉は嬉しそうに答える。


「そ、そうなんだ」


 まだ慣れない赤ちゃんの存在に、俺は少し緊張した。


「そういや、名前決まったの?」


「うん、旦那と話してね、翔太にしようかって」


 その瞬間、鼓動が早くなった。


「翔(かける)って字に、あんたと同じ太(た)って字ね。同じように図太く生きてくれたらいいなって」


 そう言って、姉は少し意地悪な顔で微笑んだ。


「あ、電話だ。健太、ちょっとだけ翔太見てて。ここ電波悪くて。すぐ戻ってくる」


 姉は慌てて病室から出て行った。

 残された俺は、呆然とその後ろ姿を見つめていた。


 その瞬間、ふと、指の感触がなくなった。

 翔太がそっと俺の指を離してあくびをしている。

 

 俺は、翔太のおでこを軽くつつきながら、「もうちょっと普通に教えてくれよ」と呟いた。

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あの日ノ帰り道 鴉山 @kuro_tobi

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