第52話 皮膚(5/5)

 純は。突然横で声がしてびくっとした。


 隣にいきなり出現した――ように見えた。



 それは。



 実際には考え事をしていて接近に気が付かなかったのだろう。 


 それは、葉香だった。



「桜ちゃん、見てたの?」


「だってだって、下駄箱で二人で帰ってるの見ちゃってさ。声掛けようとしたんだけど……」

 


 そう言って、葉香は隣の人物をちらりと見る。

 

「僕が止めたのだ。野暮なことは止めろと」



 あ。



 あの、えっと。掲示板の時の、と言うか何だ。 

 茶道部の部長。眼鏡。うっとおしい、前髪の君。



「あ、い、五百蔵先輩。――どうも」


 

「おう。ナイスアシスト、だったろ?」


 長い前髪の間から、眼鏡越しにウインクしてくる。



 な、ないす?



「え? えっと。声、掛けてくれればよかったのに」


「何言ってんの! ていうかいい感じなの? もしかしてあの部長さんといい感じなの?」



 葉香は純に詰め寄った。近い、顔のが近い、いや、と。いうか。 



「違うよ、そんなんじゃ」



 純は俯いた。可能性が今、もしあったとしてもそれに期待するのは残酷だと。そう、思う。

 


 そんなんじゃ、ない。

 


「桜ちゃんだって、分かってるでしょ」



「う。……まぁ」 



 葉香は目を泳がせた。自然、体も遠ざかってゆく。



 ほら。


 桜ちゃんだって、そう思ってる。私なんて。こんな、私なんて。



 だから。



「もう、気を使わなくて、いいからね」


「う、うん」


「あ、お泊り会、は」


「わかってる」


 じゃあ。一旦帰って準備を。


「一緒に、帰ろっか」

 葉香は純に、笑いかけた。手を、差し出す。



 ――一緒に帰ろう



 同じ、ことば。



 同じ言葉なのに、こんなにも。こんなにも、私が受ける印象が違う。



 いや。



 何が。同じなのだろう。星崎部長と。桜ちゃん。



 何も同じところなんて。



 ないのに。



 純の。だらりと垂れた手を。


 そっと。葉香が握る。


 二人、手をつなぐ。



 葉香の手は。



 柔らかく、滑らかな肌――皮膚。女の子の。



 女の子の、ものだ。



 私にはない、持ち得ない、もの。



 そう思って。


 それは嫉妬か。羨望か。


 分からなくて苦しくて。

 

 息が出来なくて。



 これは火だろうか?


 それとも。




 ただの、湯たんぽなのかな。そう――思った。




 

 ♡あとがき♡

今回のお題は「皮膚」でした。

ランダム単語ガチャ様(https://tango-gacha.com)を使用しました。

ありがとうございました!


 

※お題リクエストは終了しました! 

 ありがとうございました♡


 

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五百蔵くんと葉香さん 小鳥遊ちえ @takanasi-tieko

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