リュウとミレリア-3
その次の年、リュウの村の漁場は壊滅的な不漁だった。
漁師を取りまとめている網元は、備蓄していた食料を漁師に提供するが、それも尽き始めた。そして使われなくなった漁船や漁具を売りに出し始める。漁師たちの仕事が無くなって行く。収入が無くなり、元々細々としか暮らしていけなかった漁師たちは一気に立ち行かなくなった。
貧困は様々な人間関係の軋轢を招く。小さな漁村で顔なじみが多い分、ちょっとした富の差を巡って争うようになる。特に網元と漁師との仲は険悪になっていった。
いつもの岩場にリュウとミレリアが座っていた。最近、フィルは来ない。親同士の仲が悪くなって、気まずくなって来られないのだ。
ミレリアはふさぎ込んでいた。リュウは心配そうにミレリアを覗き込んで聞いた。
「大丈夫?」
ミレリアは「大丈夫……」と言ったあと、しばらくして続けた。
「先生に貰った本、売られちゃった……」
生活費の足しにするため、ミレリアに黙って、本は売られてしまったのだ。それで父親と喧嘩をしたらしい。
「そうか……」
リュウはそう答えるしかなかった。ミレリアは落ち込んだままだ。
リュウは指先を立てて、魔法で水球を作り始めた。それを少しずつ広げて、輪の形にしていく……が、輪となる前に崩れてしまった。
「やっぱりこれは難しいね。どうやるんだっけ?」
リュウはミレリアに尋ねた。ミレリアは顔を向けると、リュウの崩れた水球に指を当てて、輪の形に戻した。
「あ、凄い。やっぱりミレリアは上手いなあ」
リュウは思ったことを、そのまま口に出した。ミレリアはそれを聞いて、やっと笑った。
ある日、フィルの家に太った男が、御供を何人かを引き連れてやってきた。彼は公演団のオーナー、だが目的は公演ではない。
何組かの親が子供を連れて、フィルの家にやってきた。その中にはリュウとミレリアの父親もいた。二人とも片親で、母親は居ない。食うに困って子供売る。自分たちだけが売ると罪悪感があるから、みんなで同時に売る。リュウとミレリアは、他の子供と一緒に公演団へ売られることなった。
ミレリアはリュウの腕にしがみついて、泣きじゃくっていた。そのミレリアの頭を、リュウはそっと撫でる。
リュウ達を買ったオーナーは、近くにいた中年の女に言う。
「この子たちの面倒はお前が見ろ。ルシエラ」
ルシエラと呼ばれた女は、分かったと言って、ミレリア達を見下ろす。
「泣くんじゃないよ。何も持たない私たちみたいなのは、自分で何とかするしかないんだ」
泣きじゃくる子供たちに、ルシエラは言った。
「ねえ、どうして誰も助けてくれないの?」
幼きミレリアは、涙目で目の前の女に尋ねる。ルシエラは言った。
「みんな、私たちになんかには、興味なんてないのさ」
子供たちが泣きじゃくる中、リュウは不思議と泣いていなかった。父親と別れるのが悲しくないわけではないのだが、それでもミレリアと離れ離れになるよりはマシだと考えていた。リュウは、泣きじゃくるミレリアの頭をなで続けている。リュウの口には、見えないほどの微笑が浮かんでいた。
ルシエラは、そんなリュウをじっと見つめていた。
竜王と千年公 ikhisa @ikhisa
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