二〇二五年十二月
突然だが私はバラが好きで、毎年少しずつ大株を庭に植えて増やしている。この冬は二株、夫の手を借りて庭の一角に植えることにした。
なあ、と聞こえた声に、肥料の袋を下ろして振り向くと、穴掘りをしていたはずの夫が立っていた。
「どうしたん」
「穴掘っとったら、出てきた」
ほれ、と広げられた手にあったのは、小さな仏像……にしては奇妙な「人形」だった。ぞわりと、身の毛がよだつのが分かった。
『ところで、何か兄から預かったものはありませんか。
手のひらに載るくらいの、人形のようなものなのですが。』
そうだ。確かに、私はアキオとは会ったことがない。でもいつだったか、気づいたら夜中に庭で穴を掘っていたことがあった。あれは、まさか。
「それ、たぶん良うないもんだけえ、お焚き上げしにお寺に持ってくわ」
夫から人形を受け取り、あまり見ないようにして肥料を入れていた紙袋に突っ込む。バラ苗の植え付けを終えたら、寺に直行だ。
「死んでほしいもんはおらんか。切りたい縁はないか」
ふと聞こえた声は枯れて昏い、明らかに夫とは違うものだった。だとしたら紙袋の中身だが、開いて中を確かめる勇気はなかった。
「……そんな人も縁も、ありません」
答えたあと、袋の口を固くねじった。
*
住職には、紙袋ごと預けて帰った。本当はお焚き上げまで見た方が良かったのかもしれないが、寺へ向かう間、ずっとあの問いを繰り返されている気がして気分が悪かったのだ(帰りは全く問題なかった)。
あれは、縁切りを叶える何かだったのかもしれない。どうにもならない縁に苦しむ者の手を渡りながら、魂と引き換えに切ってやっていたのではないだろうか。そして今回はアキオと、おそらくゆりの魂を食った。
私の元へ来たのは、たぶん。
着信音にスマホを見ると、画面にバナーが浮かぶ。
『お前 薄情だけえな』
見慣れた言葉に腰を上げ、年末の墓参りに向かった。
(終)
薄情者 魚崎 依知子 @uosakiichiko
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