君の未来が見えないワケ

天解 靖(あまかい やす)

第1話 みんなの輪に入れない

ワイワイとガヤガヤの波に押されて保ノ香は前に進めなかった


「あ~、昼休み終わっちゃう」


右に行っても、左に行っても、背伸びをしてもだめだった


「あっ」


とっさに、前にいる子の腕に触れた


「しまった!」


ものすごい風に、包まれた


(見たくない……聞きたくない!)


嵐をやり過ごすため、目を閉じて前かがみになった


(あともう少しのはず)


恐る恐る、ゆっくりと目を開けた


「良かった~、終わった」


トンッと軽く、前にいる子の肩と自分のおでこが当たった


「あら、ごめんなさい」


昼休みが終わり、皆それぞれのクラスへ戻っていった


保ノ香も小走りに自分のクラスへ戻っていった


「学園新聞、見たかったなぁ」




*   *    *    *    *   *




「授業はじめまーす」


先生がいつものように黒板に向かっては生徒たちに社会を教えていた


カツ、カツ、カッ、カッ、ツー、トン、トン


(お勉強は嫌いじゃないけど、好きなのは先生がたてるチョークの音)


先生のチョークの音にあわせて静かに鼻歌をたてるのが

お昼の授業で保ノ香がいつもやることだった


トン、トン(ッ?)


気づけば隣の席のチコちゃんが

白い歯を見せニヤニヤしながら紙切れを渡してきた


『筆談』タイムだ


チコちゃんはおしゃべりで、話し出すと止まらない

皆が静かに授業してて、『おだまり』時間でも

手がしゃべりだす子だ


(この人、おしゃべりしながら寝てるはず

 あごが疲れないのかしら)


もらった紙切れを広げると、びっくりニュースが書かれてあった


『すっぱスクープだよっ!!!

 卿免女史、こいせんに王手!

 今度のCP、予想しよう!!!』


ずいっと顔を近づけて、保ノ香は小さく笑った


「新聞部の子からこっそり聞いたんでしょ

 すごくない?」


「さすがCP絶対王者、でしょ!」


チョークのリズムが少し狂った


「でねでね、今度のCPって」


続けて話そうとしたら

先生がゆっくりと黒板を背にして教室を見渡した


「チー・コー・ちゃーん、今はおしゃべりかなー?」


カンッ、カッ、カンッ、カンッ


保ノ香はうつむいたまま顔を真っ赤にしていたが

チコちゃんは口元を隠して笑っていた


こうして午後の授業はゆるやかに過ぎていった




*   *    *    *    *   *




「じゃあね、保ノ香ぁ~」

「じゃあね、チコちゃん」


何を急いでいるのか、チコちゃんはいつも走って帰る


ジャリッ、ジャリッ、ジャリッ、ジャリッ、

コツッ、コツッ、コツッ、コツッ、コツッ、


学校を出た保ノ香は小さく歌いだした


「ラーララーラー、ルールルルー」


その空気を切るように後ろから近付いてきた

CP絶対王者、卿免(夏)だ


髪が風になびき、背筋はピンと伸び、歩幅は倍近い

気づくと、彼女はあっという間にすり抜けていった


コッ、コッ、コッ、コッ、コッ……


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