⓪-5 変化
退避通路の中心部まで逃げ込むことに成功したが、レイスの出血は止まったわけではない。ここまでで、相当量の出血をしたに違いなかった。
二度、敵に追いつかれた。なんとか無傷で事なきを得たものの、退避通路は安全ではなかった。それでもレイスは戻ろうとしない。
「ラーレ、残りの弾数は?」
「……ごめん。二、三発くらいしかない」
「今確認なさい。私が警戒します」
血だらけのレイスは拳銃を構えたまま、前方や後方を睨み続けていた。ラーレは言葉を飲み込むと、無言で弾数を確認した。
「……二発分ね」
「そう、次で最後ね」
レイスは周囲を警戒したまま、ラーレへ視線を移した。ラーレの瞳は震えており、置き去りにされる覚悟をしているようだった。そのまま視線を下ろし、足元へ目を向ける。
「……あなた、足に問題はありませんよね」
「走れるかってこと? それなら問題ないけど」
レイスは銃を下ろした。ラーレが疑問に思っていると、レイスは拳銃をラーレへ傾けた。
「私は先ほど、最後の銃弾を込め直したので、四発あります。これを持って逃げなさい」
「冗談でしょ? やめてよ」
レイスの拳銃はシングルアクションのリボルバーをベースにした、改造銃だ。ラーレには重すぎる。
「逃げるだけなんでしょ。そんなの、いらない。私は逃げたりしない。レイスはここで戦い続けるでしょ?」
「…………」
「どうせ足手まといだもの。それなら、私が残――」
レイスの気配が変わった。彼女の鋭い殺意と緊張感が、ラーレの感覚を冴え渡らせる。
敵は二人。
一人の殺気はほとんど感じられず、かなり無防備に見える。
もう一方の殺意に至っては対照的で、隠す気が無いのであろう事がわかるほど、剥き出しの殺意。
拳銃の交換は済んではいない。そして、これだけの静寂の世界に発砲音が響き渡る方が危険だ。
「このまま東へ、通路を抜けなさい」
「本気で言ってるの?」
「二発で逃げ切れるのであれば、逃げ切りなさい」
レイスはそう言いながら、片腕を庇っていた手を離した。片手で拳銃を構え、死地へ向かうかのような、凍るような微笑を露わにした。
「レイスが逃げるなら、私も逃げるわ。置いていくなんて出来ない」
「私は大丈夫です。信じて下さい」
普段のように優しく穏やかな口調だ。それはラーレの不安を煽った。
「お願い。落ち合う場所を指定して」
「……銀の塔。東にあります」
「わかった。……来なかったら、許さないから」
「了解です。行きなさい」
ラーレは振り向かずに奥の扉をしめると、そのまま東へ通路を抜けていく。
(――レイスの嘘つき。絶対に許さない!)
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改稿版 暁の荒野~レスティン・フェレスⅠ Lesewolf @Lesewolf
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