四通目
【四】
2119年2月19日
時任 悠斗君へ
拝啓
地球ではまだ、雪が積もっているもしれませんね。
いかがお過ごしでしょうか。
悠斗君の手紙を読んで、私は最初、自分に何が起きたのか分かりませんでした。
私の中では、悠斗君とアイスを分けたのは、まだ一昨年くらいのことのように感じていたから。
でも、手紙の中の悠斗君は、私の知らない言葉を使い、私の知らない時間の速さで大人になろうとしていました。
お父さんはそれを「ウラシマ効果による時間のズレだ」と言いました。
この星に到着した時点でそこからは解放されているんだそうですが、私たちがロケットで星の海を渡っている間、私たちの時計は地球よりもずっとゆっくり進んでいたんだと言っていました。
私が「たった半年」だと思っていた間に、地球では3年以上の月日が流れていた。
私がまだ9歳の子どもの心で宇宙を眺めていた間に、悠斗君はたった一人で、私を失ったあとの長い長い時間を生きなければならなかったんだね。
そう気付いたとき、涙が止まりませんでした。
私は、悠斗君のことを何も分かっていなかった。
どれだけ長い間、悠斗君を一人ぼっちにさせてしまったんだろう。
どれだけ、自分が身勝手だったのか。遅くなって、本当に、ごめんなさい。
地球上の暦の上では、私は17歳になりました。
でも、この手紙を書いている今の意識は13歳くらいなんです。悠斗君はもうすぐ、18歳の高校3年生になる時期なんだろうなと思います。
悠斗君は今、どんな男の子になっているんだろう。
声は、声変わりで低くなったよね。背は、どれだけ大きくなったかな。
この手紙が届くころには、悠斗君はもう21歳なんだね。
成人式のお祝いも、一緒にはできないんだね。せめて何か贈りたかったけれど、惑星間移動には綿密な規約があって、あらゆるものに検閲がかかります。
だから、プレゼントも送れなくて、ごめんなさい。
悠斗君はもうすっかり大人で、私はまだ子どものままで。
早く大人になりたいのに、私たちには埋められない空白があります。
ようやく、時間の意味について理解できてきた気がしています。
悲しい事ばかり書いてごめんね。
こっちの生活は思った以上に大変です。いろんな国の子たちもいます。共通言語は英語だし、文化圏も違うので、なかなか馴染めませんでした。
最近になって、ようやく慣れてきたような気がします。
コロニーでの生活は物資が定期的に届いて快適ですが、ここの自然は人工的に作られたものばかりで、どうしても違和感がつきまといます。
コロニーの空には人工的な太陽と月が一つずつ浮かんでいて、昼夜を人工的につくりだします。季節は常に一定です。
もう、悠斗君と一緒に歩いた河原や、ピクニックで行った山のことが、最近ではうまく思い出せなくなってきました。
ここから、一歩でも宇宙に出ると、地球の太陽のような明るい星が二つ、空に並んで浮かぶ時期があります。夜のない時期もあります。
お母さんは「白夜みたい」と言ってました。すごく、幻想的で綺麗でした。
でも、隣に悠斗君がいたら、もっと素敵だっただろうななんて。
星と言えば、小学二年生の時に行った林間学校のことを覚えていますか?
二人で先生の目を盗んで、夜に抜け出したよね。あの時、湿った草の匂いがする斜面まで降りて、一緒に見た星座。寝転がって、肩を抱いてくれた悠斗君の仕草にドキッとしました。
こっちから見る星座は、地球で悠斗君と見た形と、少し違います。
悠斗君が人差し指で「W」の形をなぞって教えてくれた、あのカシオペア座。そこには星が一つ増えて、なんだか知らない形になってしまいました。
それを見て、今更のように思い知りました。
違う星にいるんだな、って。
知ってますか、悠斗君。
この星、「アルファ・ケンタウリ」は地球に最も近い隣人だそうです。
なのに、光の速さでも4年もかかるんだよね。
どうして、こんなに遠いんだろうね。
毎日大変だけど、頑張って勉強しています。
いつか、地球に戻れる日が来るのかな。
そうしたら、もう一度あの場所で、悠斗君とカシオペア座が見たいな。
それと、金星の話。ありがとう。
小さいことかもしれないけど、私の名前をそうやって思い出してくれることがすごく、すごくうれしい。
敬具
日向 明星より
※ 追伸
プレゼントを喜んでくれて嬉しい気持ちと、不出来なものを渡してしまったなっていう気持ちが一緒にあります。少しだけ恥ずかしいな。
実は、こっそりと悠斗君からのプレゼントも持ってきています。
覚えているかな? 夏祭りで、悠斗君が「これ、あかりに」って渡してくれた星をモチーフにした指輪。
もう指には入らないんだけど、今も大切にしています。
⇒ 2123年 夏頃着予定
次の更新予定
アルファ・ケンタウリの明星 神山 @kami_yama
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