後編 雨のハレの日

 その夜。拓は一応、明日はいい天気になりますように、と祈っておいた。

 ただ、それは形ばかりのものであると、本人が一番よくわかっていた。

 何をやろうと、明日は雨が降るのだ。

 なぜなら、そういうものだから。


 翌日。

 パラパラと降り注ぐ雨の中、結婚式の招待客たちが集まってくる。

 式場には、他人様にはお見せできないほどの形相で雨を眺める梨衣奈の姿があった。

 せっかくの白無垢が台無しである。角隠つのかくしから本物の角が出てきそうだ。


「ま、まあ仕方ないよ、そういうものだし……」

 拓がおずおずと梨衣奈をなだめる。

「タク、真面目にお祈りしなかったでしょ」

 おそらくは期待が外れた怒りをただぶつけているだけなのだろうが、まさにその通りだった拓は肝を冷やした。


「こんな結婚式、最悪だよ! お友達だって呼びたかったのに、ダメって言われたし!」

「お友達って……?」

入間いるま豆腐店のおじいちゃんとおばあちゃん。油揚げ買うと、いつもおまけしてくれるの」

 残念だが、厳格な親族は反対するに決まっている。

 そしてもう一つ残念なことに、拓としても反対だ。こんな場所に招待などしようものなら、老夫婦の心臓が止まりかねない。


「で、でもほら、りーちゃん見て。綺麗だよ」

 拓が指さす方を見た梨衣奈の目に、まばゆい光が飛び込んできた。


 あちらこちらの雨粒に太陽の光が反射して、キラキラと輝いている。

「僕がお祈りした通り、『いい』天気になったんじゃないかな」

 自分の祈りは何の力も発揮していない。わかっていたが、拓はそう言った。


「……私のドレス姿ほどじゃないけどね」

 そう言いつつも、梨衣奈は笑顔になっていた。


 太陽が出ているのに、雨が降っているからこそ見られた、美しい景色。

 そう、今日は天気雨。


 今日は、狐の嫁入り。


(了)

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明日天気にさせてやる 志草ねな @sigusanena

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