中編 科学的に晴れさせる

「じゃあ、科学的に晴れにする!」

 梨衣奈がよくわからないことを言いながら、これまたどこからともなく虫よけスプレーを取り出した。


「えっと……何をするの」

「タク知ってる? ツバメが低く飛ぶと雨が降る、って言われてるの」

「うん、昔からそう言うよね」

「あれってね、雨の前は虫が低い所にいるから、それを食べようとして低く飛ぶらしいんだ」

「りーちゃん物知りだね。で、それと虫よけスプレーと何の関係があるの?」


「逆に言えば、低い所に虫がいなければツバメは高い所を飛ぶでしょ。そうしたら明日は晴れになるよ」

「そこは逆にはならない! スプレーの無駄遣いだからやめて!」

 梨衣奈は頬を膨らませて不満そうにしている。


「だったらこれ!」

 梨衣奈が拓に見せたのは、煎餅せんべいだ。ごく普通の、スーパーなどに売っている煎餅。何袋もある。

 拓が何なのかと質問する前に、梨衣奈はもう袋を開けてポリポリとかじっている。

 しかし煎餅を食べると晴れる、などという迷信は聞いたことがない。


「大事なのはおせんべいじゃなくて、こっちの方」

 梨衣奈は煎餅の袋の中から、煎餅ではないものを取り出した。

 乾燥剤だ。


「あのね、水が蒸発して雲になって、その雲が雨になって地上に降ってきて、地上の水がまた蒸発する。こうやって水は『循環じゅんかん』しているの」

「りーちゃんは難しい言葉もよく知ってるね」

 褒めて伸ばす、を心がける拓。ひょっとしたら良いパパになるかもしれない。


「だからね、乾燥剤をたくさん撒いておけば、雲ができなくなって雨が降らないの! いいアイディアでしょ」

「乾燥剤は濡れると燃える危険があるんだよー! ダメー! 撒いちゃダメー!」

 片っ端から煎餅の袋を開ける梨衣奈を、必死になって止める拓であった。バカを伸ばすと取り返しのつかないことになりかねないようだ。


「というかりーちゃん。海とか湖とか、たくさんの水がある所があるから、水が蒸発しないようにするのは無理」

 梨衣奈はまたも不満顔で頬を膨らませているが、不満なのか煎餅が入っているのかよくわからない。


「じゃあ、明日はいい天気になるように、僕祈るからさ。とりあえず式の準備しよう」

 拓が提案するが、梨衣奈はまだ不満そうだ。

「科学的じゃない」


「いや、お祈りすると脳の中でなんか微弱な電気が発生するんだよ。これが科学的にいろいろ作用して願いが叶いやすくなる」

 やけくそ嘘理論で梨衣奈を説得する拓。

「それならいいよ」

 時に、バカな方が都合がいい事もある。

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