『MBTIバトル・ロワイヤル』実験後社会

イミハ

第1話 王がいない会議

――決まらないという自由


会議室は、やけに静かだった。


誰も遅刻していない。

資料も揃っている。

議題も明確だ。


それなのに――

始まらない。


「……じゃあ」

誰かが言いかけて、止まる。


「誰から、いきます?」

その一言で、

空気が一段、重くなった。


司会はいない。


以前なら、

自然と“あの人”が座っていた席が空いている。


誰も、

そこに座ろうとしない。


「順番、決めます?」

「いや、別に……」

「決めなくても、

 話し合えばよくない?」

全員、

正しいことを言っている。


だから、

誰も否定できない。


議題は単純だ。


地域インフラ再編計画

優先順位の決定

要するに、

どこを先に救うか。


「意見は?」

沈黙。


「……じゃあ、

 多数決で」

と誰かが言うと、

「待って」

別の誰かが止める。


「少数意見、

 切り捨てることにならない?」

「いや、でも」

「話し合いで決めるなら、

 誰かが線を引かないと」

「線を引くって、

 誰が?」

その瞬間、

全員の視線が、

一斉に宙を彷徨う。


――王がいない。


以前なら、

誰かが決めていた。


間違っていても、

責められても、

嫌われても。


「決断」は、

個人に押し付けられていた。


今は違う。


誰も、

押し付けられない。


「……じゃあ、

 今日は一旦持ち帰りで」

その言葉に、

誰も反対しなかった。


会議は、

30分で終わった。


何も、

決まらなかった。


廊下に出た瞬間、

誰かが呟く。


「……自由だな」

別の誰かが、

小さく返す。


「……怖いな」

同じ感想だった。


その頃。


元〈王〉は、

別のビルにいた。


管理職面談。

「あなたの経験を、

 ぜひ活かしていただきたくて」

彼は、

即答しない。


「……決断役、ですよね」

面談官は、

笑顔で頷く。


「はい。

 でも今は、

 一人に背負わせない時代ですから」

その言葉を聞いて、

彼は少しだけ笑った。


「……それが、

 一番残酷なんですよ」

面談官は、

意味が分からない顔をした。


その夜。


元〈設計者〉は、

ニュースを眺めている。


見出し。

「合意形成の長期化、

各地で判断遅延」

「……来たな」

彼は、

そう呟いた。


元〈共感者〉は、

SNSを閉じる。


「助けないのは冷たい」

「無責任」

「人としてどうなの」

画面を伏せて、

深呼吸する。


「……それでも」

「決めない優しさは、

 もうやらない」


そして。


元〈調停者〉は、

静かな集会所にいる。


誰も、

怒鳴っていない。


誰も、

殴っていない。


だが、

対立は解けていない。


「……殴られないと、

 終わらないんだな」

彼は、

苦笑した。


その夜。


神は、

ログを開かない。


ただ、

一行だけ、

自動記録が残る。


状態変化

王:不在

決断:分散

結果:停滞


そして、

次の行。


影響

人間、

自分で考え始める


物語は、

まだ始まったばかりだ。


王はいない。


だが、

決めなければ、

世界は動かない。

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『MBTIバトル・ロワイヤル』実験後社会 イミハ @imia3341

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