5. 新しい空の下へ
三日後。
晴天が続き、作業再開問題なしと判断されて、再び現地へ向かう。
青年団のメンバーがひとり増えていた。
黒いひげが左右にぐりんと跳ねる、特徴的なシルエットの男性だ。ほかのふたりより年長で、おそらく五十歳ぐらいではと思われる。
「おらぁ、元工兵だよ。すまんな、あんとき町におらんかって、手伝えんかった。おめさんらだけでやってくれたーっつぁ、申し訳ねぇから、今日は張り切っていくべ」
「おめーら。現場でな、ずっと危険さ見守ってくれる人がいるなんざ、ありがてぇことなんだべ。避難しろと言われたら、さっさと動くべ」
元工兵の男に釘を刺された青年団は、分かってるよと何度も頷いた。
工程は同じでも、再度の崩落により、復旧範囲が広くなってしまった。
しかし、作業はスムーズに進む。
排水用の溝を掘る際、道を斜めに横断すれば効率がよいと元工兵が教えてくれた。また、彼の提案で溝の表面を押し固める加工をほどこすと、さらに流れがスムーズになる。
青年団から離れた場所で、ユーリとキーチェは大きめの岩を砕いていた。ユーリは火力を押さえて爆発魔法を使い、キーチェが盾を作って飛散を押さえる。
ソーカルは、変わらず音魔法を展開しているが、監督できる元工兵が加わったことで、彼も作業に加わる余裕ができた。そこで、即席の魔法道具を作る。
丸太を削って、大きな平タガネのような形状に加工し、枕木がセットで転がってくっついてくる魔法を付与する――言わば「初心者向けテコセット」だ。重い倒木や岩を動かすことが楽になる。構造の複雑なゴーレムと違い、一般人でも使用できるというのが、大きな利点だった。青年団たちは喜んでこれを使った。
ソーカル自身は、スコップに微妙に風を
トレフル・ブランのゴーレムも進化した。
前回と同じように、大小の丸太、泥、枝葉でできたゴーレム。違いは、指の作りが、より人間に近い形状になっていること。トレフル・ブランは、
疲労を知らないゴーレムは、もりもりと土砂を掻き出していく。
二日間かけて土砂を取り除き、道を平坦にならす。
そして三日目。馬車で運搬してきた砂利を
馬も、怖がらずに砂利道の上を進んでくれた。
これで、東西の町の間に、活路が戻った。
「よし! もうちょっとだけ待っててくれと頼んでいた行商を、さっそく呼びに行こう。あっちの町では、魚は買えないからな」
「これで、兄夫婦の家と連絡が取れる。もうすぐ甥っ子か姪っ子が生まれるんだよ!」
青年団の若者たちは、大喜びした。
そして、道の開通の瞬間を見に来ていた、西の村の若者も喜び、さっそく報告しに駆け出して行った。
それを見ていたユーリは、誇らしい気持ちで満たされる。
魔導士を目指して、よかったと思う。魔法は、確実にだれかの役に立てる力だ。
トレフル・ブランは、なんの感慨もないように見せかけていたが、突然「ねぇ、落ちてる枝葉と雑草、集めてよ」と言いだした。
彼はたいてい、やりたいことを内緒にする主義なので、ユーリとキーチェは言われた通り材料を集める。
ソーカルは何か気づいたようだが、止めなかった。
集まった材料を並べ替え、白っぽい粉末を振りかけるトレフル・ブラン。彼は要所(だと思う)を、粉末を練り込んだ泥でつなぎ合わせて、銀色の万年筆を取り出した。
透明インクで呪文を書きつけ、発動呪文を唱える。
「
キラキラ……砂粒が太陽を反射するように小さく輝く。
次の瞬間、枝葉や雑草がぐんぐん急成長し、うねうねと地面に広がった。
逃げ出した人間たちが見守る中で、それは複雑に絡み合った植物の網となり、成長を終えた。
「ほぅ。
「崩れた北側に、防護ネットとして設置しておけば、正式復旧までの時間稼ぎにはなるでしょ。宅配業者さん、上、お願いしますよ」
「お前はなぁ、もうちっと俺を丁寧に扱えよ」
ぼやきながらも、ソーカルは植物の網を握って空へ舞い上がった。
「俺も、手伝います」
ユーリは、普段は炎として発散させる魔力を、浮力に変換して、体を浮かび上がらせた。
「へぇ。まぁ浮かぶだけなら、コントロールは単純だからな。お前でも扱いやすいか。安定した出力を維持しろよ」
「はい! こっち側の固定は、俺がやりますね」
うきうきしているユーリに、水をかける一言。
「気持ちは嬉しいけど、網と、固定道具を持ってないとできないよ。降りてきて」
トレフル・ブランに言われ、しおしおと地面に着地するユーリ。
キーチェは、くすくすと笑いつつ「異なる分野の魔法にチャレンジするのは、いいことですわ」と道具を渡してくれた。
これで、応急的な復旧作業は完了だ。
三日間、雨が降らなかったことは天の助けと言えるだろう。あとは、行政が本格的に施工してくれるのを待つしかない。
「なぁんだ。魔法の効果って、ずっと
青年団のひとりが言う。
元工兵がその頭を殴っていたが、トレフル・ブランも一言添えた。
「魔法は、人の生活をより豊かにするための、ただの道具だよ。万能じゃない。
道も、町も、生活も、人間たちが知恵を寄せ合って、力を合わせて作らなきゃいけない。西の町と東の町で、ちゃんとお金と人を出し合って、頑張ってね」
少年にそう言われては、返す言葉もないのだろう、青年団は黙り込む。
元工兵が、バツが悪そうに頭を掻いた。
「すまんなぁ。青年団ってのは、町の困りごとに駆り出されるけんど、ふだんは畑さ、商売さやってるだけで、難しいこたぁ知らんのや。
あんたらだって、本業じゃねぇのに頑張ってくれたの、わしは分かっとるよ。助かったよ、ありがとな」
ソーカルが右手を差し出した。
「災害現場に、常にプロがいるなら、世の中もっと気楽だろうよ。こっちこそ、あんたのおかげで助かった。礼を言うぜ」
元工兵は、足りない前歯を見せてにかっと笑うと、握手に応じた。
青々と輝く空の下、ユーリ達は早々に次の町へ旅立った。隣国で、白い獣による被害が発生したと、連絡を受けたからだ。
「シャワーを浴びる時間があって幸いでした。ですが教官、そちらのマント、そろそろ買い替えされてはいかがです?」
ぼろいうえに、このたび大量の泥がついてしまったのだが、衣服を洗濯する時間までなかった。
美容と礼儀にうるさいキーチェがちくちくと刺したが、ソーカルは「穴の開いたマントは大切にしなさいという、ひいひいばあさんの遺言だ」などと適当なことを言い、
出発のアナウンスに背を押され、ユーリ、キーチェ、トレフル・ブランも飛び乗る。
魔方陣がまばゆく輝き、肉体が浮遊、分解、再構成されるような、独特の時間。
ユーリは、目を閉じて想像していた。
次の町では、どんな空が自分たちを待っているだろうかと。
見習い魔導士と、雨後の山道 路地猫みのる @minoru0302
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