第3話 解決編:そして名探偵が現れた

 桜に署まで来てもらい、目黒は面談室へ案内した。彼女を向かいに座らせ、目黒は口火を切る。


「最初にお願いが——」


「今から話す内容は全部内密にって言うんでしょ。当ったり前じゃーん。ね、マイン?」


 彼女は左肩に乗っているシロフクロウに向かって話しかける。


 桜はいつもこのシロフクロウを連れている。名前はマインというそうだ。彼女によれば、名前の由来は「私のものだから」らしい。どういう思考回路を辿ったらそんなネーミングになるのかは分からない。


 マインは何も理解できていない様子でキョロキョロと首を回した。当然の反応だ。


 フクロウに気を向けていても埒が明かない。目黒は早速捜査内容を伝えることにした。


 浮世島で関係者全員が死亡していたこと。池の底に遺された謎のメッセージ。島の至るところに開いた不自然な穴——。


 目黒が話し終えると、桜は怪訝そうな表情でこちらを見返してきた。


「どうした。何か分からないことが?」


「え、あ、いや。逆になんで分からないのかな、と思って」


「ん?」


 今、なんて?


「刑事さんは事件の謎が分からないから私に相談してきたんだよね~? 割とそっちのほうが謎かも」


「煽ってるのか?」


「煽ってるっていうか、ただの純粋な疑問かな~。まあいいや。どこから説明したら分かりやすいのかな?」


 桜は純粋無垢な表情で小首を傾げる。


 いつものことだ。煽られているようにしか聞こえない。でも、おそらく彼女は自分の本心に忠実なだけなのだろう。——と思うことにしている。実際のところ彼女に煽る意志があるのかどうかは目黒には分からない。


 桜はマインの頭をなでながら何やら考えている。なでる力が強すぎてマインが苦しそうにしているように見える。かわいそうだが、目黒の知ったことではない。


 彼女は30秒ほどしてからようやく口を開いた。


「やっぱり一番重要なのは健ちゃんが遺したダイイングメッセージかな」


 被害者をあだ名で呼んでいる。


「健ちゃんは円の中に正三角形が入った図形を描いていたんだよね。これの意味が分かったら刑事さんも全部理解できると思うよ」


「そうなのか。全く分からないが……」


「あれはね……


「ひょ、ひょうの天気記号……!?」


 目黒の脳内で全てが繋がった。


 後頭部に外傷を与えた凶器が周辺にないから、誰かに殴打されたんじゃないかと考えていた。でも降ってきた雹に当たったのなら、凶器が残されているはずはない。池の水に同化して綺麗さっぱり消滅してしまう。


 ゴルフボールサイズの穴も、降ってきた雹が開けた穴だということだろう。


 羽田が屋内に逃げようとしたような痕跡はなかった。降り始めの雹に運悪く直撃されたということだろう。


 桜が可愛らしくウインクしてくる。


「本当は円の中に正三角形の記号は〝あられ〟を表して、〝雹〟の場合は正三角形の中を黒く塗りつぶさないといけないんだけどね。まあ霰と雹は大きさの違いでしかないから、そんなに大きくは違わないんだけど。砂で黒塗りを表現するのは難しかったんだろうね。あるいは単純に健ちゃんが勘違いしていただけかも」


「なるほど……ありがとう、助かったよ。ところでなんだが」


「ん、どうかした?」


「いつもはフクロウが推理して君がその内容を代弁する、という設定じゃなかったか。設定と言ってしまっていいのか知らないが……」


「マインが解くか私が解くかは私の気分で決まるんだよ~。知らなかったの?」


 ツッコミどころが多すぎて何から指摘したらいいのか分からない。だが彼女の裏表のなさそうな顔を見ていると、不思議と何もかも許したくなってしまう。


 どこまでが天然でどこからが意図なのだろう。まさか全部意図してやっているのだろうか。


 この女の場合、深入りせず付き合い続ける。それが一番だ。


(了)

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そして彼もいなくなった 天野 純一 @kouyadoufu999

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