第2話 問題編②:そして捜査が始まった

 捜査一課のぐろ警部は捜査報告書に目を通す。


 稀代の大量殺人事件が発生してしまった。闐闐家の総勢11名に加え、羽田健太という血縁関係のある学生が死亡したという。


 闐闐家の者はみな包丁で刺殺されたらしく、全員が天神館の館内で発見された。


 ロビーで発見された出刃包丁からは羽田健太の指紋が検出され、羽田が11名を殺害したのは間違いないと思われた。より正確に言えば、包丁についている指紋は羽田健太と彼の母親のものだけだった。羽田の母親は浮世島を訪れていない。よって、羽田が一族の全滅を計画し、一人で自宅から包丁を持ち出したと推測される。


 羽田の遺体は島上にある「龍神池」の中央付近で発見された。死因は外傷性クモ膜下出血。後頭部には殴打されたような傷が残されていた。


 不思議なのはここからだ。


 池の底には細かい砂地が広がっているだけで、岩などはほとんどない。。彼は足を滑らせて偶然頭を打ったわけではないということになる。


 自殺の可能性も検討されたが、彼が投擲できそうな範囲内に鈍器の類いは見つからなかった。


 となれば、誰かに背後から殴殺されたとしか考えられない。羽田を何者かが鈍器で殴りつけ、その凶器を持ち去ったのだとしか解釈のしようがない。


 しかしそれでは大きな矛盾が生じる。犯人となりうる人物が存在しないのだ。浮世島に闐闐一族を連れてきた漁船の船長の証言によれば、島に上陸したのはたしかに12名だったという。


 一応、第三者が独自に船や航空機で島にやってくることは不可能ではない。だがそんな人物の面影も感じられない——。


 報告書をめくると、羽田の遺体発見現場の状況について記されていた。


 彼はうつ伏せの状態で浮いていたらしい。浮いていたといっても、池は水深が五十センチ弱しかないので、手や足の先は底についていたようだ。


 ここでさらに奇妙なことがある。沈んだ右手のすぐ近く。池の底に何か模様のようなものが遺されているのだ。


 描かれていたのは、円と正三角形が一つずつ。三角形は円の中に入っていて、三つの頂点が円周上にあるという位置関係だ。羽田が死ぬ直前に書き残したもので間違いなさそうだった。


 目黒は思考する。


 たとえば、犯人の名前を遺そうとしたのだとしたら。


 名前をそのまま日本語で書いたとしても、池の砂はサラサラだから判読するのは不可能だろう。そのことに気づいた羽田は、単純な図形だけを描いた。そう考えれば自然な行動のように思える。


 だが、肝心の意味が分からない。円の中に正三角形を描いただけで何を伝えようというのか。当然ながら、犯人の名前なのかどうかすら定かではない。


 腑に落ちないまま、さらに報告書をめくる。するとまた重要そうな記述を見つけた。


 島の多くの場所で、浅く小さな穴が見つかったという。龍神池も例外ではなく、砂地に複数の穴ぼこが開いていたらしい。添付写真を見たところ、ゴルフボールの下半分を地面にねじこんだような感じの穴だった。


 さっぱり意味が分からない。闐闐一族を皆殺しにしてから、羽田の身に何が起きたのか。事故なのか自殺なのか、はたまた他殺なのか——。


 目黒はスマホを取り出した。すかさずとある番号に掛ける。電話はすぐに繋がった。


「警部、どうしたの~?」


 快活な声が電話口から聞こえてきた。


 彼女の名はよしさくらあかがわくろかたぎりりょうとともに「名探偵四天王」に数えられる天才である。

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