……………………
川色歩夢は、佐賀剛の前に、
菜緒のカバンから見つけた一枚のレシートを差し出した。
そこには「口紅1本」「ストロー」「三時まで」という謎の言葉が書かれている。
佐賀剛はそれを受け取ると、
「出番だぞ、守。」
空気が一変し、守に意識が
変わる。
守はレシートを凝視した瞬間、全身を激しく震わせた。
歩夢が慌てて、守の身体を支える。
守はコクンとうなずき、
壁にかけられたキャンバスに
向かい、一心不乱に
絵を書き始めた。
その時だった。
歩夢の携帯が、鳴る。
「お母様が、病院の屋上から
飛び降りました。」
歩夢は、病院までただひたすら走り出した。
呼吸が荒くなり口の中から
鉄の味がする。
病院に到着した時、母親はすでに息を引き取っていた。
身体は清められ、安らかに横たわっている。
何故こんな悲劇が起きたのか。
病院の人間に尋ねると、警察が母親に、菜緒が何者かに襲われ亡くなった事実を話したという。
それを聞いた母親は、半狂乱になり、屋上から身を投げたのだった。
歩夢は、母親の火葬を終え、
アパートの一室では、
もう生活音がなく
ただ無機質な歩夢の鼓動だけが
耳障りに鳴る。
一人、妹の菜緒と母親の遺影にお線香をあげた。
孤独などという言葉では生易しい。
深く、冷たいものが、歩夢の心を覆い、
息苦しさに喉が詰まる。
歩夢が小説と能力に溺れている間に、
大切なものが次々と壊されてしまったのだ。
ピンポーン、「すみません。」
歩夢のアパートに、
偶然なのか、運命なのか、
以前、夫を殺害した歩夢を
庇った女性が訪れた。
女性は、静かに、
「お線香だけ上げさせて欲しい」と
歩夢に伝えた。
歩夢は、自分以外に
誰も供養してくれる人がいない
さみしいだろう…。
歩夢は彼女のお願いを
聞き入れた。
手を合わせる女性は、歩夢に
「もう追うのは止めて」と、
突然に、だが穏やかに話す。
歩夢は、反射的に彼女が執行人の仲間なのかと問いただした。
女性は首を横に振った。
「違う。私も、執行人に大切な人を奪われたの。」
そう言うと、彼女は歩夢に自分のことを話し出した。
彼女の名前は、
単純だが、歩夢はかつて愛した早良楓の名前をふと頭に浮かべた。
檜は、子供の頃に両親を執行人に殺害されたと語った。
しかし、歩夢は不審に思い、「執行人の犯行だと何故分かった?」と尋ねた。
檜は、「相手の音を肌で感じる」という特異体質を持っており、その音から相手の感情を読み取り、音楽でそれを表現することができると言う。
職業は音楽家かと思えば、チェーン店のお弁当屋さんでパートとして働いているという、ちぐはぐな人物だった。
能力の再起動と佐賀剛の指示
その瞬間、長らく沈黙していた歩夢の頭の中に、再び声が流れた。
「そいつは嘘を言っている。」
「だが悪意はない。」
「騙されたふりをして吉田守の元へ連れていけ。」
そう言い終わると、声はまた消えた。
歩夢は、
この声が内なる声なのか…。
あるいは長年の協力者だった
者の最後の助言なのか、判別がつかなかった。
しかし歩夢にとってこの声は
唯一の道しるべの様な気がしてならない。
歩夢は、華川檜の話を全て
信じる前に、会って欲しい人がいると伝え、吉田守の家に連れて行くことを決めた。
次の更新予定
ぼくとぼくたちのものがたり M6363 @M6363
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ぼくとぼくたちのものがたりの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます