第10話 正しい殺し方
夜だった。
焚き火の音だけが、やけにうるさい。
メグルは、剣を膝に置いたまま、動かなかった。
火に照らされた刃には、
まだ血の色が残っている気がした。
――実際には、もう何度も拭いているのに。
「……違う」
誰に言うでもなく、呟く。
「俺のやり方が、悪かったんだ」
あの街の光景が、頭から離れない。
壊れていない家。
整然と並んだ死体。
「みんな正しかった」という言葉。
クグツの顔が、脳裏に浮かぶ。
狂っていた。
間違っていた。
――でも。
「……効率的だった」
その言葉が出た瞬間、
メグルは自分の喉を押さえた。
吐き気がした。
「俺は、テンシを殺してきた」
これまでの旅を思い返す。
悪いテンシ。
人を弄び、支配し、壊していた存在。
迷わなかった。
躊躇しなかった。
それが正義だと、信じていたから。
「でも……」
あの街で死んだ人間たちは?
テンシじゃない。
アクマでもない。
正しい側に立とうとしただけの人間だった。
「……同じだ」
ふと、思ってしまった。
俺と。
焚き火に、小枝を放り込む。
火が、弾ける。
「殺す理由が、違うだけだ」
テンシを殺す。
世界のため。
クグツが人を殺す。
正しさのため。
――どこが違う?
「……数か?」
声が、冷たくなる。
「殺す数が少なければ、正しいのか?」
「俺は、1体ずつ殺してるから?」
胸の奥で、
何かがズレ始める感覚がした。
これまで、
「誰を殺すか」だけを考えてきた。
でも――
「……違う」
「考えなきゃいけないのは」
メグルは、剣を強く握る。
「どう殺すかだ」
無意味な殺しはダメだ。
感情で殺すのもダメだ。
でも、
・見せしめ
・抑止
・選別
それは?
「……必要悪、ってやつか」
その言葉が、
驚くほど自然に出てきた。
メグルは、自分が怖くなった。
「ダテンは……」
かつて救い、
かつて支配した存在。
世界を“想像する”力を持つ神。
「人間の欲に耐えられなかった」
それを、
今なら少しだけ理解できる。
「無限に正しさを求められる側は」
「……壊れる」
メグルは、目を閉じた。
もし。
もし、テンシを殺し終えた後の世界が、
あの街みたいになるなら。
「俺は、どこまで許せる?」
自分に問いかける。
答えは、出ない。
――いや。
「……全部は、無理だ」
小さく、でもはっきり言った。
「だから、線を引く」
メグルは立ち上がる。
焚き火を、踏み消す。
闇の中で、独り言のように呟いた。
「俺が決める」
「何が正しくて」
「どこまでが、殺していいか」
その瞬間。
彼の中で、
“神を裁く側の思考”が芽生えた。
善でも悪でもない。
ただ――
危険なほど、合理的な闇だった。
想像に殺された神と、逸脱する少年 イミハ @imia3341
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