第5話 旅立ちの詩

 音楽祭の翌日。


 必要な補給と休息を終えたということで、元撝は供の者たちを伴って安西への旅を再開することにして、再び馬上の人となった。元撝が跨がるのは、背の高い馬子である呂承祖が世話をしていた馬だった。そしてその馬の手綱を引いているのが、呂承祖その人だった。


 これから西州を出て、更に西へ向かい、安西を目指す。


 途中の礌石館までは、馬子の呂承祖も、健児の范老子も一緒に行くことになった。范老子は鎧を着ずに荷物として荷車に一緒に積んでいるが、楕円形の皮袋をもう所持していなかった。治療費として医者に譲ったのだ。足を骨折している范老子は馬に乗るのは困難なので、馬に牽かせた荷車に乗っている。


 呂承祖も范老子も、元々礌石館の所属なので、そこまで戻るということだ。


 楽器の奏で手である范老子と、胡楽排斥派の急先鋒である呂承祖の二人が呉越同舟状態ということで、元撝としては、いつ諍いが始まるか気が気でなかった。だが、既に楽器を持っていない范老子に対しては、呂承祖は特に危害を加えるつもりは無い様子だった。


「音楽の代わりに詩を詠めば良い、と複数の人に言われました。私は自分で詩を詠むのは得意ではありませんが、その代わりに、長安の都を出発する時に、見送りに来てくれた友人が別れを惜しんで詠んでくれた詩を披露しましょう」


 音吐朗朗と、元撝は吟詠した。


渭城の朝雨 軽塵をうるおす

客舎青青 柳色新たなり

君に勧む更に尽くせ 一杯の酒

西のかた陽関を出ずれば 故人無からん


 炎熱の砂漠の道を、元撝の一行は西へ進む。詩に詠われているように、西の果ての世界には確かに見知った友人は誰もいない。


 だが、西州には西州の出会いがあった。葡萄汁のような、酸っぱくも甘い味わいだった。


 安西はまだ遠い。それでも元撝はしっかりと前を向き、砂塵の彼方を見つめた。

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西遷の道に葡萄の風を kanegon @1234aiueo

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