エピローグ
都内にありながら家賃5万円の、1Kのアパート。仕事に疲れて帰った僕は秋も深くなり寒い空の下、アパートの外側にある階段を3階分上り、更に疲れてちょっと息切れをしながら部屋に入った。
彼女も妻もいない僕には出迎えてくれる人などおらず、もちろんすでに出来上がった温かい料理もない。ひとり寂しく、スーパーで割引シールが貼られた弁当を温め、食べる。
──はずだった。
「お帰りなさい。お仕事お疲れ様です。ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも……わ・た・し?」
「ただいま、明星さん。そんな言葉をどこで覚え──いや、映像資料ですよね。とりあえず、ご飯を食べましょう」
「はい!」
僕の家には、押し掛け妻がいる。料理が上手く、家事はなんでもこなし、ちょっと地球人離れしてるくらい美人で、笑顔がとびきり可愛い押し掛け妻だ。
戸籍を持たずどこにも行くことができない彼女は、任務が終了した後、そのまま僕の家に住むことになった。
昨晩空が異常発光した現象はすぐにニュースに取り沙汰されたが、誰1人として、その真相に辿り着くことはないだろう。
結局、僕は地球の有益性を証明する何かを見つけることができなかった。移住すると言う選択肢もあったが、僕は明星さんを置いていくのは嫌だった。
だから、こうお願いした。
『地球上と地球から見える可能な限り広い範囲の宇宙を完全にシミュレーションした仮想空間を作り、地球上の全ての生き物の心と記憶をスキャンして、地球がなくなった瞬間に仮想空間の体に記憶と心を移し替えて欲しい。そして、人間文明の終わりまでそのシミュレーションを続けて欲しい』
というわけで、この世界は仮想空間だし、僕の体の動きもシミュレーションだし、僕が今こうやって考えているのだって、中野正吾という人物を極限まで学習したAIが中野正吾を真似しているに過ぎないのだろう。
それを知るのはこの世界にただ2人。僕と、明星さんだけだ。他の人達は、太陽がなくなったことも、自分が死んだ事にも気付いていない。
しかし、動きも、疲れも、感覚も、全部完璧に元のまま。本当に僕は死んでいるのだろうかと、疑いたくなってしまうほどだった。
どこまでシミュレーションされているかは分からないが、帰りに空を見た時の夜空の星々も、全く以前と変わらないように見える。
今食べている料理だってほら、美味しすぎてすぐに完食してしまった。この味に対する僕の感動が、シミュレーションであるものか。
「ご馳走様、明星さん。相変わらず美味しいよ」
「お粗末さまでした。ところで正吾さん。明日はお休みですよね? 次はどこでデートしてくれるんですか?」
明星さんは、僕が休みになる週末を何よりも楽しみにしている。その様子が少し子供のようで可愛くて、僕達は毎週デートに出掛けていた。
最近では、明星さんは以前より感情が豊かになったように思える。今まで押し殺していた色々を出せるようになったと、考えるべきだろうか。
この際、この世界が仮想か本物かはあまり重要じゃないのだ。この世界に君がいる事が、僕にとっては何より重要だった。
「そうですねぇ、明日は──」
だから、君と共に行こう。地球が終わった、その先を。
太陽がなくなる日 鳩のまーりぃ @minuteparticle
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