4.ようこそ

 誰かの声がする。


 自由になってくれと、そう願っていた。別に何も奪ってなんかいない。仮死状態でヒノトが生まれてきたのは不幸な事故だったのだし、決してヒオウのせいではない。ヒオウが母の胎の中で何かをしたわけでもない。

 土砂崩れだって、不幸な事故だった。むしろヒオウが助かったのは不幸中の幸いであるはずなのに、ヒオウはそれをすべて自分のせいにして背負い込んだ。

 何もできないからか。こうして病室で過ごす以外に何もできない不甲斐ないヒノトのせいで、ヒオウは背負い込んで潰れていく。


 ならばお前には、運命に逆らう【呪い】を。


 誰かの声が聞こえた。誰でも良い。ヒオウを救えるのなら、その声が神でも悪魔でも何でも構わない。

 奪われてなんかないのだと、きっとヒノトが自由に歩けるようにならなければヒオウは聞き入れてくれない。病室に居続けるだけのヒノトが、彼にとっての足枷なのだから。


 ならばお前は、紡ぎ続けろ。縁を繋ぐ糸を、ただひたすらに。


 ぱっと、目の前に光が差し込んだ。


「やあこんにちは、二代目わんわんちゃん?」


 知らない、声がした。


「残念ながらわんわんちゃんは、狗になってしまいました。そうならないように足止めしようと思ったのに、全部君のせいだよね?」


 何を、言っているのだろう。

 先ほどの【呪い】をと告げた声とは違い。軽快で、軽薄で、軽妙で――けれどそこに、確かに憎悪を孕んでいる。


「だから責任取ってよね、二代目わんわんちゃん。もう体も動くだろ?」


 光の中で、男が笑っている。


「ようこそ――世界の秩序を正す、〈葬儀屋アンカー・ドッグ〉へ!」

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アンカー・ドッグ・パレヱド 千崎 翔鶴 @tsuruumedo

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