第15話 終焉
夜。
焚火は控えめに燃え、
俺は一人、鍋の残りを温め直していた。
相棒が死んでも腹は減る。
「……はぁ」
城はある。
屋根も壁もある。
だが、声が一つ減っただけで、ここはやたらと広く感じる。
「G、あんたがいたら“泣く暇があったら食え”とか言うんだろうな……
でもなんで俺もキノコ喰ったのに死ななかったんだ?若いからって感じ?喰った量か?」
独り言を言いながら、魚の身を口に運ぶ。
その時だ。
――ズズ……
――ミチ……ッ
「……?」
風か?
いや、風にしては、音が……重い…気配?
俺は箸を止め、耳を澄ました。
――ゴト……
――ズリ……ズリ……
「……やめろやめろやめろ、鹿か?鹿ならシカたないとも思うけれど、だがシカしシカじゃなくてカモシカだったらこの場合シカとまとめて呼んで良いのか?いやいやそれはいたシカたない!」
視線が、自然と墓の方向へ向く。
月明かりの下、十字架の墓標が、ぼんやり見える。
――ズボッ
「…………」
土が、盛り上がった。
「……は?」
次の瞬間。
ヌッと、
白っぽい手が、地面から出てきた。
「…………………………は?」
俺の脳が、現実を拒否する。
「……いや、待て待て待て、望んでいたのと違う!いやそもそも望んでなんかいない、そうなった時の為に準備してたんだ、まさかまさかまさか」
土が崩れ、
人影が、ゆっくりと起き上がる。
「……ぐ……」
聞き覚えのある声。
「……が……」
首が、ギギ、と不自然に傾く。
「……お……お……」
「G!!!!!!!!」
叫んだ。
「おばんです…」
「あ、どうも…って…違うだろ!」
全力で叫んだ。
「ゾンビ化するなら段階踏めやぁぁぁ!!死にました!埋めました!はいゾンビ!ってなんだよそれぇええええ!」
G――いや、Gゾンビは、半開きの目で俺を見た。
Gゾンビは、ゾンビ特有のノロノロ歩きで、一直線に俺へ向かってくる。
えーっとノロいタイプのゾンビは…
考えてた。
考えてたけど!
「想定と違う!!知り合いゾンビは想定外!!つらい!心がつらいじゃないか!」
俺はゆっくりと後ずさる。
「来るな!
それ以上来ると――」
Gゾンビが、焚火の光に照らされる。
土まみれ。
顔色、完全に死者。
真っ白。
「白いG…これが!…!こいつ、動くぞ!」
『…でも、そりゃないよ…なんで最初のゾンビがGなんだよ』
「……ぐ……鍋……」
「な…なんだよ…」
「……匂い……いい……」
「匂いからはいるな!」
Gゾンビは、俺ではなく、鍋を見ていた。
「……塩……足りとる……か?」
「頼む!美味しく食べようとしないでくれ!!」
俺は気づいた。
「……あれ?俺を噛みに来てない……?」
Gゾンビは、俺の前で立ち止まり、鍋を指さした。
「……ひとくち……」
「やるよ、やるけども!」
俺の頭の中で、ゾンビに関する知識が総崩れになる。
「ゾンビって人食うんじゃ……」
Gゾンビは首を傾げた。
「……
「こ、これは、新型か!?」
俺は恐る恐る、鍋を差し出した。
「……食う?」
Gゾンビは、もそ……と鍋を覗き込み、
木のスプーンを掴んだ。
「……いただき……ます……」
「死んでも日本人だな」
Gゾンビは、普通に鍋を食べ始めた。
「……うむ……あのキノコ……入れてない…よな」
「トラウマになってんじゃねぇよ、
入ってたってお前もう死んでんじゃねーかよ」
Gゾンビは、もぐもぐしながら言った。
「…………屋根……扉…」
「わかったって!ちゃんと作るから!」
しばらくして、
Gゾンビは満足したのか、ふう、と息を吐いた。
「……小僧……」
「は、はい!」
「……埋め方……浅い……」
「そこかよぉぉぉ!!」
Gゾンビは、ゆっくり立ち上がり、墓の方を振り返る。
「……直せ……寒い……」
「ゾンビのくせに要望に生活感!」
そしてGゾンビは、
再び、墓穴に戻っていった。
――ズズ……
――モフッ……
「あした…屋根やるぞ…おやすみ」
「ちゃんと寝る系!?」
土が、元に戻る。
静寂。
俺は、その場にへたり込んだ。
「………………」
焚火が、パチ、と鳴る。
「……ゾンビ、来たな……」
「つか、明日屋根やるぞって言った?…
毎日仕事しに来るの?エグっ」
想定していた最悪の事態とはちょっと切り口の違う最悪。
だが。
「……安全なゾンビだった……」
俺は空を見上げた。
「……G……あんた、死んでもなお、
職人なんだな……かっこいいよ。」
墓標が、月明かりに照らされている。
その夜、俺は決めた。
Gと一緒に過ごす事を。
「明日はGと一緒に屋根を完成させて…」
「食事の準備だな…」
「二人分の」
ゾンビは来た。
そして俺には、新しい生きる理由が出来た。
「死んだら責任取れって言ってたけど、死んでないからノーカンだよね」
――終焉
ゾンビが出る前に本気で備えた男 如月 睦月 @kisaragi0125
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