第14話 埋葬

新しい朝が来た、希望の朝とは程遠い。


俺は、Gを埋葬することにした。


……冷静に考えてほしい。


死にに来た爺さんを助けて、

一緒に鍋を食って、

キノコで死なせて、

助けた俺が埋める。


「……ドラマでも却下される展開だろ、これ」


脚本家がいたら、まずこう言うはずだ。


「あり得ない」


ここで気づく。

スコップが無かった。

当たり前だ。

ゾンビ対策に全振りして、埋葬対策を一切していなかった。

いや、そもそもするはずがない。


「まて…埋める?それって…Gのことかー!!!」


仕方なく、翌朝、街に下りた。


 普通のホームセンター。

 普通の売り場。

 普通のスコップ。


俺はスコップを手に取り、少し悩んだ。


「……これ、何用ですか?って聞かれたらどうしよう」


誰も聞いてこなかった。

平和な国だ。

「人を埋めるには、これだと小さいですか?」

って言いたくなってくる。


山に戻り、Gの亡骸を抱えた。


「……軽いな」


生きていた時は、やたら存在感があったのに。

人って、こうも簡単に“物体”になるのか。


少し離れた場所。

Gが最初に切り倒した木の、切り株の下。


「……ここでいいか」


Gは大工だった。

最初に山に手を入れた証の場所。

なんとなく、しっくり来た。


 掘る。


 掘る。


「……疲れた」


正直、舐めていた。


 人ひとり分の穴。

 これが、クソ重労働だ。


「……映画だとサクサク掘ってるのに……」


 土は固い。

 石は出る。

 腰は悲鳴を上げる。

 変な虫も出て来る。


「……G……あんた、最後まで俺を鍛える気か……」


汗だくになり、途中で諦めた。


「……俺の山だし……

 そんなに深くなくても……いいよな……」


Gをそっと横たえ、土をかける。


「……仏教だったら悪いな」


そう言いながら、なぜか俺は十字架型の墓標を立てた。

ゾンビっぽいからだ。


「……宗派、完全に迷子だな、俺の宗派ってなんだっけ

まぁいいや、今日からブードゥーにしよう。」

ゾンビっぽいからだ。


作業が終わった瞬間、

不意に、全部が押し寄せてきた。


 静けさ。

 空っぽの城。

 もう聞こえない、斧の音。


「……G……」


胸が、ぎゅっと潰れる。


「……なんでだよ……」


助けたのに。

一緒に飯食ったのに。

屋根まで作ったのに。

作ったのはGだけど。


俺は、その場に崩れ落ちた。


「……っ……う……」


涙が止まらない。


「……一人に、戻るのかよ……」


号泣だった。

情けないくらい、声を上げて泣いた。


 ――そして、ふと、我に返る。


「……あれ?」


涙を拭きながら、

冷静な自分が、ひょこっと顔を出した。


「……埋めるのって……」


 間。


「……駄目じゃね?」


 さらに間。


「……警察案件じゃね?」


 背筋が、凍った。


「……やべぇ」


 俺は、Gの墓を見る。


 十字架。

 浅めの土。

 完全に怪しい現場。


「……ゾンビ対策どころじゃねぇ……

 俺、今、犯罪者では……?」


 心臓がドクドク鳴る。


「死体遺棄ってやつじゃね?」


「……違う……違うぞ……

 これは……これは……」


 必死に考える。


「……自然葬……?そうだ、ここは俺の山だ、

  今から俺の山のしきたりってことにしたらいい。」


 ダメだダメだ、無理がある。


 俺は頭を抱えた。


「……G……

 あんた、最後まで俺に試練を残していきやがったな……」


 風が吹く。

 墓標が、少し揺れた気がした。


「……とりあえず……今日は忘れよう」


現実逃避も、生き延びるための技術だ。


ゾンビはいない。

だが、俺の人生は、

どんどん別の方向でサバイバルになっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る