風と雨が心の棘をほどき、働く女性の夜に灯が差す。読後に深呼吸できるよ。

『ケセラセラと風が言うから、私は今日も歩き出す』は、仕事や人間関係で生まれる小さな痛みを、自然の手触りに結びつけてほどいていく短編だ。作者が前書きで掲げた「風 ▶ 雨 ▶ 光 ▶ 夜風 ▶ 朝日」という移ろいが、読む側の呼吸の速度まで整えてくる。

 全3話が公開された現時点でも、まず心をつかまれるのは第2話である。仕事帰りの灰色の空、傘に落ちる雨粒の一定のリズム、胸に残る叱責の痛み。そこへ友人から「大丈夫。あなたは、あなたのままでいいよ」と短い文が届く。言葉は少ないのに、雨音の聞こえ方が変わり、張りつめたものが静かにほどけていく流れが丁寧だ。街灯が雨粒に反射して「光の粒」が浮く場面も、気持ちの焦点が痛みから外れる瞬間を、説明に寄りかからずに見せている。

 派手な出来事で押すのではなく、誰にでも起こりうる一日の重さを、風と雨の感覚で受け止め直す作品である。前書きの通り『光』『夜風』『朝日』へ進むにつれ、遥の歩幅がどう変わるのかを追いたくなる。